別れ、新たな出逢い、それぞれの想い
〝玄武〟のソロ討伐から帰ってきたチアさんの容態は酷いものであった。
両脚を大きく損傷。今後歩くことはできないと医師から告げられ、車椅子での生活になってしまったチアさんに対して、マスターは「再起不能認定」つまりはギルドの強制脱退を言い渡したのであった。
──ギルドマスターの言うことは絶対。
誰もが口を紡ぐだけで、何も言おうとしなかった。それは、サブマスターであるヤーニングさんでさえも。あんなに仲良く狩りに行っていたザインさんでさえも。
私も何も言えなかった。何か言わなきゃと思うほどに、言えなかった。
チアさんがブラック・アカデミーを出ていく日、私に向かってこう言った。
「私みたいにはならないでね」
そう言って悲しい笑顔を見せると、車椅子で雑踏の中に消えてしまった。私は追いかけることもできなかった。
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「ドロシー!後ろ!危ないぞ!」
「すみません!ヤーニングさん!」
チアさんがギルドを強制脱退させられてから、私への指導はより一層厳しくなった。きっと早く次の戦力が欲しいのであろう。ヤーニングさんは、どう考えているんだろうか……。そもそもヤーニングさんは、何を考えてマスターと一緒にいるのだろう?
ヤーニングさんとの修行が一段落すると、私たちギルドメンバーはギルドホームに集められた。
「紹介する。新たなギルドメンバーの、ズイーゲル・シェイムレスちゃんと、クラナガン・ダミアンくんだ」
マスターが言ったそこには、妖艶な雰囲気を纏ったロングスカートの女性と、ドレッドヘアに焼けた肌の男性が立っていた。
「ズイーゲル・シェイムレスです。長く二刀流剣士をしております。皆様のお役に立てますよう、精進して参ります」
「クラナガン・ダミアンっす!盾持ち片手剣士やってます!頑張ります!よろしくお願いします!」
パチパチパチ、と拍手が湧き上がる。
新しいギルドメンバーを、二人も……。チアさんが、あんなことになったばかりなのに……。
「シェイムレスちゃんの部屋は、ドロシーちゃんの隣だ。よろしく頼む」
「え……」
私の隣の部屋って、チアさんの部屋……!!
「何か言いたいことがあるのかい?」
「いえ。何もありません。かしこまりました」
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「ドロシーさんは、機械術士なんですね?」
シェイムレスさんは、話してみるととても穏やかな方で、私の心も幾分落ち着いた。
「お若いのに偉いです!私なんてずっと剣を振ってきましたから……戦闘狂ズイーゲル、なんて二つ名も、あながち間違いではありませんね。ふふっ」
前言撤回。ちょっと怖い人なのかもしれない……。
「このギルドには二刀流剣士さんがお二人いるとお聞きしました。ぜひお手合せを願いたいのですが……」
「ああ、それだったらサブマスターのヤーニングさんと、その弟子のザインさんです。頼んだら断られないと思いますよ」
「本当ですか?! ドロシーさんありがとうございます~」
シェイムレスさんはにこやかに剣の素振りを始める。
こ、怖いからやめて……。
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「では本日の作戦だ」
マスターが大きな紙を広げる。
「ドロシーちゃんは後衛に。そのドロシーちゃんを守るのがザイン。最前線に僕とノイトラール、ダミアンくん。その後ろにヤーニングとランス、シェイムレスちゃんだ。少し大きな戦いとなる。覚悟しておいてくれ」
「かしこまりました!! 」
私は機械術士の性質上一番後衛。そして近接に弱いため護衛も必要となる。
「ザインさん、よろしくお願いします……」
「ああ。ドロシーちゃん。頑張ろうな」
「ザインさん……?」
「俺、この作戦が終わったらギルドを抜けようと思ってる」
「え?! 」
思ってもいなかった発言であった。ザインさんがギルドを抜ける……?! だって、ヤーニングさんの弟子なのに?!
「師匠からは破門だろうな。……彼女がいるんだ。そこのギルドに移籍しようと思ってる」
「ザインさん彼女いたんですか?! 」
「驚くところそこかよ!まあいいけど。んで、薄々マスターも師匠もそれに気づいてる。だからこそ、わざわざ二刀流剣士を新メンバーに迎えて前衛に、そして俺をドロシーちゃんの護衛に回したんだと思う」
「なんだか……私のせいですみません」
「いや、ドロシーちゃんのせいじゃないんだ。俺の問題なんだ。すまなかったな。あと少しの間だけど、よろしく頼むぜ。……よし、攻撃いくぞ!」
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後日、ザインさんは本当にギルドを辞めて、別ギルドへ移籍してしまった。ヤーニングさんは破門を言い渡していたらしい。
「今日からドロシーちゃんとノイトラール、二人でペアを組んで仕事をしてもらう」
「えーっ!! 」
マスター命令に対して、二人とも同じ反応をしてしまった。
「ノイトラールは前衛、ドロシーちゃんは後衛の動き方を練習してもらう。ちょうどいいだろう?」
そ、そうかもしれないけど……。
「ドロシー、お前サブマスターのことが好きなんだろ?悪かったな。狩りの相手が俺で」
ノイくんがぶっきらぼうに言う。
「そんなことないよ。確かに私はヤーニングさんのことが好き。だけど、ノイくんといると安心するの」
「……んだよソレ」
「何か言った?」
「いや、なんでも。……ほら、行くぞ!」