断罪
「あっ、ドロシー!こっちこっち!」
食堂に着くと私はチアさんに呼ばれた。
ギルドメンバー大集合といった感じで、見たことない人もたくさんいる。もちろんマスターも、ヤーニングさんも、ザインさんも、ノイくんもいた。
「今日はドロシーちゃん加入記念ということで、豪華な料理を頼んでおいたよ」
「あらまあ♪ マスター太っ腹なのね!」
「もちろんさ。そしてそこの二人。ドロシーちゃんに自己紹介しなさい?」
小学生くらいの男の子二人だ。
照れくさそうに私から目を逸らしている。
「クラウン……です」
「……アミュレットです」
──二人とも装飾品の名前……?
「エレベス・ドロシーです。よろしくね?」
「二人は最近僕が孤児院から引き取った養子なんだ。人見知りが激しいけれど、慣れればいい子たちだからね。是非ドロシーちゃんにも面倒を見てもらいたい」
この二人がマスターの養子……装飾品の名前……?
私は混乱していたが、返事をしなければと思いすぐ向き直った。
「ぜひ!仲良くしていきたいです!」
「そんなにガチガチに緊張してたらせっかくの飯も不味くなる」
私に話しかけたのは、背が高くて筋肉質の色黒の青年だった。無表情で、冷静なイメージ。
「あ、ご、ごめんなさい!何か気分を害するようなこと……」
「ハハッ!ノイが言ってた通り!素直で真に受けやすいってのは本当だったんだ!……大丈夫、何も悪いことしてないから。緊張しなくていいし、気を使わなくてもいいって言ってるんだよ」
無表情だと思っていたけれど、そんな風に笑うのか……。
「あ、ありがとうございます……あなたは……」
「アルミュール・ランス。名前の通り槍使いだ」
「ランスさん……ですね。よろしくお願いします」
「ハハッ!いやだから、畏まりすぎだから」
ランスさんの話し方のペースはとても独特だった。つ、ついていけない……。
「オイ、ランス。新人いじめてんじゃねーだろーな」
そこに現れたのは全身に黒い服を纏った、ザインさんだった。
「いじめてないいじめてない。緊張しなくていいって言ってるんだ」
「へえ……。ランスにしては、いいこと言うんだな。でも、肝心のドロシーちゃんにはあんまり伝わってねえみたいだぜ?」
「マジで?!」
私は申し訳なさげに黙って頷いた。
「ごめんな。ドロシーちゃん。ランスは人とのコミュニケーションが苦手なんだよ」
「そ、そうなんですか……」
「そして俺もちゃんと自己紹介してなかったな。俺はキーストン・ザイン。二刀流剣士だ。師匠はあそこに座ってるサブマスター」
「え?!ヤーニングさんと師弟関係なんですか?!」
「うん。そうだよ。ちなみにマスターの弟子はノイトラールだ」
「そ、そうだったんだ……」
「まあ、師匠たちがやってるギルドだ。……弟子が手伝わねえ方がおかしい」
ザインさんは少し声のボリュームを下げて言った。何か思うとこがあるのだろうか……。
「初日はどうだったかしら?ドロシー♪」
「はい……楽しかったです!」
「何か気になることがあるのね?」
「え、な、なんで……」
チアさんには見透かされていたようでびっくりした。
「……顔に書いてあるわ。それで、どうしたの?」
「あの……マスターのことなんですけど……」
「しっ!」
チアさんはそう言うと、何やら術式を唱えた。
「これで私たちが話していることは外には聞こえないわ。マスターのことでしょう?少し変わった人なのよね」
「やっぱりチアさんも思ってたんですか?」
「……そりゃあね。私がこのギルドに入った経緯をお話しましょうか?」
「は、はい!お願いします!」
「私はヤーニングに拾ってもらったの」
「……え?」
「私って独学で魔術を学んでいて、ずっとソロプレイだったのよ。それで、危なかったところをヤーニングに助けられた」
私と……一緒だ……。
「ヤーニングは優しいでしょう?マスターが人間不信で閉鎖的なところをいつも補ってる立派なサブマスターよね」
「人間不信で……閉鎖的……」
「そう、うちのギルドが普通と思っちゃダメよ。かなり閉鎖的だから。実際私が加入するときも、かなり揉めたらしい。そして私は今もマスターから、よく思われていない」
「そうなんですか?でもあんなに仲良く話して……」
「それも表向きだけよ。いつクビを切られるかなんて分からない」
「え?!そ、そんな……私チアさんがいなくなったら……」
「ドロシーは私なんかがいなくても大丈夫よ♪ それにマスターは、あれはあれで悪い人じゃないから。ちょっと変わってるだけで、いいところもあるの。安心して♪ 信頼できる人だから」
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しかし次の日、チアさんはマスタールームへと呼び出された。
「チアさん……!内容は……」
チアさんはまた術式を唱える。外に声が聞こえないための魔法だ。
「〝玄武〟をソロで倒してこい。だって」
「玄武ってあの……危険クラスの?! しかもソロで……誰か、誰か助けは呼べないんですか?」
「呼べないわ」
「え……」
「マスターの命令は絶対。覚えてるでしょう?」
「でも……」
「ええ。おそらく私がソロで行けば死ぬ。運が良くても致命傷ね」
「そんな……」
「悲しい顔しないでドロシー。きっとこれが私の運命だったの。私、ギルド外にもお友達がたくさんいるのよ。もし上手くいったら、お友達のギルドに入れてもらおうかなって思ってる。だからドロシーも笑って?」
チアさんは、そっと私の両頬に手を当てた。
「一期一会の出逢いだったけれど、ありがとうね」