再会
「……ったく。本当に来るなんて思ってなかったからびっくりしたぜ……。しかもこんなに早く、な」
「この子がヤーニングが話してた子かあ。かわいいね。いい子そうだし。モテる男は困っちゃうねぇ。ヤーニング」
私はギルドの最上階、マスタールームに居た。
ギルドマスター、サブマスターのヤーニングさん、私の三人だ。
「あのっ、どうしても……恩返しがしたくて!ここ……ブラック・アカデミーに入れて頂けませんか!? 」
「それで、はい、いいですよ、という訳にはいかないんだよねぇ。うちのギルドは。ヤーニングは本当にモテるよねぇ」
ギルドマスターの、バーグソン・マーカスさんは言った。メガネを掛けていて、真面目そうな印象だ。
「お願いします……!! 泊まるところも無いんです!! 」
「じゃあなんで来たんだよ」
ヤーニングさんが強い口調で言う。
「どうしても……!! どうしても恩返しがしたかったんです……!! どうしてもこのギルドに入りたくて!! 」
「じゃあこれから僕が言ういくつかのことに納得できるかな?」
「は、はい……」
「ブラック・アカデミーに入ったからには、サボることなく毎日きちんと働いてノルマをこなしてもらいます」
「はい……」
「ブラック・アカデミーに入ったからには、ギルド内での上下関係は絶対に守ってもらいます」
「はい……」
「ブラック・アカデミーに入ったからには、ギルドマスターの言うことは絶対です」
「は、はい……」
「ちょっと動揺したね。まあいいか。次、ブラック・アカデミーに入ったからには、ギルド外でパーティーを組むことを禁じます」
「え……は、はい……」
私はまだ狩りに出たことが無いから分からないけど、ギルドってそういうものなのかな……?
「次。ブラック・アカデミーではギルド内の恋愛は禁止です」
「え……え……」
私はとても動揺してしまった。
ヤーニングさんのことが好き、その気持ちだけでここまで来たのにギルド内恋愛禁止……?
「納得できないなら帰ってくれても……」
「し、従います!絶対に従います!」
「そうかい?ヤーニングのことが好きなんだろう?」
「……規則には従います」
「素直で聞き分けのいい子だね。ヤーニング、どう思う?」
マーカスさんがヤーニングさんの方を見て話を振った。
「こうなってしまったのは俺の責任でもあるからな……。入れてやってくれ、俺が面倒見るよ。悪い子じゃあないんだ」
はあ、とため息をつきながらも、それでもヤーニングさんは認めてくれた……!! しかも"俺が面倒見る"だって!!
「ヤーニングがそう言うなら。おめでとうドロシーちゃん。君も今日からブラック・アカデミーの一員だ」
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客間に泊まった次の朝、私はロビーへと呼び出された。
「今日からうちのギルドに入ることになった新人さんです。自己紹介どうぞ」
わぁぁ、と歓声が起こる。
「初めまして。エレベス・ドロシーといいます。十四歳です。機械術士をしています。ギルドの役に立てるよう、精一杯頑張っていきたいと思います」
拍手が起こった。
「じゃあ、ドロシーちゃんにはこの二十二号室の鍵を渡します。どうぞ」
「ありがとうございます!」
「皆仲良くしてあげろよ」
ヤーニングさんが言った。ちょっと嬉しい。
「二十二号室だったら、チアの隣の部屋ね!」
チアさんが私にウインク。二十一号室の鍵を見せてくれた。
「本当ですか!? 嬉しい!」
「たくさん面倒見てあげるからね~♪」
「ふふふ。チアちゃん初めての後輩だね」
「そうなのよ~♪ マスター!すっごい嬉しくてぇ!」
「自分のことも疎かにするなよ、チア」
「もう!ヤーニング!分かってるってばぁ~!」
「ヤーニングさんかサブマスターと呼べと言ったろ」
「えぇ~。すみません……サブマスター」
チアさんはヤーニングさんと仲が良さそうだ。もし仲良くなれれば、ヤーニングさんのことについて何か聞き出せるかもしれない。
「これと、あれと……よし!必要なものは全部揃ったわね♪ 何か困ったことがあればすぐ私の部屋をノックして。すぐ隣だから!」
「チアさん……。ありがとうございます」
「いいのよ!まだ来たばっかりで、不安だらけだと思うけど、少しずつ慣れていけばいいの。ねっ?」
チアさんはとても優しい。
「夕食の時間まであと少しだから、準備したら食堂までいらっしゃいね♪ じゃっ!」
そう言ってチアさんは自室に戻り、私は部屋の中で一人になった。
いろいろ思い返してみると、かなり滅茶苦茶なことをしてしまっている気がする。
明日は転校先の中学校に出向かなくてはならない。
マリー師匠が持たせてくれた書類を渡して手続きをするためだ。
師匠はどうしているのだろうか。そしてシーラ姉さんはどうしているのだろうか。
初めての家族と離れた生活。こんなに心細いものだとは思わなかった。
チアさんに言われたとおりの時間。私は食堂へと向かった。するとノイくんを発見する。
「おっ、お前か。飯行くところか?」
「ノイくん!そうだよー」
「皆集まるだろうから、自己紹介の準備、しとけよー」
「えっ!自己紹介ならさっき……」
「一発芸なんかやらされるかもな~!」
「そ、そんな!」
「……バーカ。嘘に決まってんだろ。そんなんだから騙されておっさんに連れ去られそうになんだよ」
「む、むぅ……」
「まあ、ギルドの皆が揃ってるから、それなりに覚悟しとけよ!」