始まり
「……人、多すぎでしょ!? 」
ウィンセント駅に着いてまず驚いたのは、人の多さであった。
地元ロンバルでは見たこともないような人の数。
うじゃうじゃしている。
「お嬢ちゃんひとりかい?」
「え!? え、えっと……人!! 人を探してて!! 」
「そんなことよりオジサンといいことしようぜぇぐへへ」
「……そんなこと、じゃないんです!!」
「チッ つまんねぇの。どれどれ。見せてみ?」
オジサンはそう言ってヤーニングさんの名刺を見る。
「ああ、こいつは知らんがこのギルドがある場所なら知ってるぜ?」
「本当ですか!? 」
「案内してやるよ。着いてきな」
最初は悪い人だと思ったけど、こんなに親切に教えて貰えるなんて!
都会は危ないなんてことないよ!姉さん!
_____________
「……って、ここどこですか!?」
「本当に教えるとでも思ったか?都会には怖いことがいっぱいあんだよ。覚えとけ。へへー」
連れてこられたのは、廃ビルの中。オジサンの仲間もたくさんいる。どうしよう、これは、まずい。
「たっぷり可愛がってやんよ!ほら服脱げよ」
「肉ついてねぇなあ。俺はもうちょっと年上が好みだぜ」
「俺どストライクー♪」
どうしよう。誰か……誰か助けて。ヤーニングさん……。
「おっさんたち何やってんの」
「あ!? んだよクソガキ!! うっ……痛ぇ!! コイツ!!」
え!? まさかの救世主……!?
オジサンの一人を鈍器で殴って現れたのは、同い年くらいのかわいい男の子であった。
「ほらお前。手」
「……え、あ、はい!!」
男の子は私の手を思いっきり握ると、物凄いスピードで走り出した。
「クソガキ逃げんな!! ぶっ殺すぞ!!」
「追え!! 捕まえろ!!」
どれくらい走っただろうか──。
目の前がぼやけるくらいに息は切れ、辺りももう暗くなっている。
走っていた間、この男の子とは一言も会話をしていない。
男の子の足取りが少しづつゆっくりになった。
「急に止まんなよ。心臓に負担かかるから」
「はい……」
「もうここまで来たらさすがに大丈夫だろ」
「く、苦しい……」
「大丈夫か? すぐそこに俺の入ってるギルドがあるから、そこで少し休んでいけ」
「うん……。あの、助けてくれてありが……」
「お前さ、田舎もんだろ?」
「……え!? な、どうして分かるの?」
「ナリからして完全に田舎もんのソレ。ここら辺に慣れてない感じも」
「ば、馬鹿にしないでよお……」
「どこから来たの?」
「ろ、ロンバル……」
「ロン……バル? 聞いたことねぇな……」
「だ、だよね……」
「まあいいや。着いたよ」
私は驚いていた。だって、ここって──。
「どうした?まだ苦しいか?」
謎の男の子に連れてこられたギルド。
それは……それこそは、あの人のギルド……探し求めていた、"ブラック ・アカデミー"であった。
「ただいまー。ちょっと拾ったお客さんが居るんだけど入れていい?ん?女子。たぶん俺と同い年くらいの」
男の子はインターホンに向かって話している。
「ロビー入るだけならいいって」
「あ、ありがとう……」
「そいや、自己紹介してなかったよな。 俺、シュタルク・ノイトラール。十四歳。ノイって呼んでくれ」
「え、エレベス・ドロシー……。私も、十四歳」
「……ふっ。やっぱり同い年くらいだと思ってたぜ」
「私も、思ってた……。あの、助けてくれてありがとう。本当に、助かった」
「いいよ。ちょうど、連れ込まれるの見えたからさ。ラッキーだったな」
「ら、ラッキーだったあぁ……うぇぇん!」
安心からか涙がぼろぼろと溢れる。
「ちょっと、泣くなよ!?」
_______________
「はい、水。少しは落ち着いたか?」
「うん……ありがとう。ぐすっ……」
ブラック・アカデミーのロビーはとても独特の雰囲気であった。黒い壁と床に、赤いソファが映えている。
「たっだいまー!あれっ!? ノイちゃんが女の子連れ込んでる!! 」
「ちげーよ!! やめろ!! チア!! 」
玄関から女の人と男の人が入ってきた。このギルドの人なのだろう。
「チアには全然デレてくれないのにぃー。ねぇ、ザイン!」
「まあ、ノイも年頃だろ」
「ザインもやめろよ……。ちげーし」
「あ、あの!助けてもらったんです……。ノイ、くん……に」
「あらあら!そうだったのねぇ!ノイちゃん偉いじゃないの!あなたはなんて名前なの?」
「ど、ドロシーです。エレベス・ドロシーです」
「ドロシーちゃんっていうのねぇ!かわいいわ!私はチア。チェルシー・チア。この人はキーストン・ザインよ」
「……お、おう。ザインです。それにしても、もう二十二時だけど、家帰った方がいいんじゃないのか? お父さんとお母さん心配するだろ」
そこで初めて気づく。帰る家など私には無いということに……。
「おい。青ざめてるけど大丈夫か?まさかお前·····泊まるところ決めてな……」
「こ、ここに!!!! ……ブラック・アカデミーに!! 入ります!!! 入らせて頂きます!!!! 」