出逢い
運命的な出会いだと思った。
これ以上の運命は無いと、そう思った。
「あのっ……!! 助けてくれて……ありがとうございました!! 」
「ん……どういたしましてかな。まあ、あの状況で助けない奴は人でなしだろうがよ」
私は武器も持たず一人で森へ迷い込んで、モンスターに囲まれ絶体絶命だったところを、この二刀流剣士の男性に救ってもらったのだ。
「本当に私……助かりました!! ……あの、よかったら名前を聞いてもいいですか?」
「君の名前は?」
「ど、ドロシーっていいます。エレベス・ドロシーです」
「ドロシー、か。俺はヤーニング。ナーハズィヒト・ヤーニング」
「ヤーニング……さん。この御恩は一生忘れません!! その、恩返し……させてください!! 」
「いいよそんなの。まだ若いだろ?ドロシー。こんなのはいちいち気にしてたら駄目だぞ?」
「でも……その、もう少しだけ、もう、少しだけ、お話させてください」
「どうしてあんなところ一人で歩いてたんだ? 危ないだろ。まだ十四歳の女の子が」
「それが……家出をして……」
「家出、か……年頃だな。でもな、ドロシー。家出ってな、思ってる以上に危ないんだぞ?」
「はい……。今日のでよく分かりました」
「お父さんとお母さんにも迷惑かけるしな」
「いません」
「おっと……そうだったか」
「師匠と姉さんと暮らしてます。でも二人と喧嘩しちゃって……」
「親がいなくても、家族が居る、って幸せなことだぞ?俺もガキの頃に両親いなくなってるから、今ギルドの奴らと暮らしててすげー実感する」
「ここら辺のギルドなんですか?」
「んにゃ、ここら辺では無いな。ウィンセントっていうもうちょっと北のほうのギルド」
「う、ウィンセント!? あの中央都市ですか!? すっごく都会じゃないですか!! 」
「ははは。まあ、ここロンバルからしたらそうなのかもしれないな」
「すごい……。行ってみたいです、ウィンセント」
「まあ、もうちょっと大人になってからだなー。 あ、そうだ。一応だけど、名刺渡しとくよ。はい」
“ギルド[ブラック・アカデミー] サブマスター ナーハズィヒト・ヤーニング”
……さ、サブマスターだったの!? この人……。
「サブマスターさん、なんですか?」
「そうそう。マスターの奴と二人で立ち上げたギルドなんだぜ。最近は人も増えてきて本当に楽しい」
私も……私も、この人……ヤーニングさんのギルドに入りたい。ウィンセントに……行きたい!
「あの!家……ここなので。今日は本当に、ありがとうございました」
「いえいえ。もう家出なんてするんじゃねぇぞ」
「はい。あの……」
「ん?」
「ウィンセント……行きます。また会いたいです」
「お、おう。いつか、な……」
いつかじゃない。すぐ……すぐに、会いに行きます。
_______________
「中学校を卒業してからにしろ!」
案の定マリー師匠にもシーラ姉さんにも猛反対された。
「でも!本当に行きたいの!このギルドに、入りたいの!師匠、お願いします!」
「第一、ウィンセントに行ったところでこのギルド……ブラック・アカデミー?に入れてもらえるかどうかも分かんねぇんだろ?」
「入れてもらうもん!絶対に……絶対に……!! 」
「機械術の教本もまだ暗記できてないガキがか?」
そう。私はマリー師匠の元でシーラ姉さんと共に機械術を学んでいる。私はまだまだ見習いの身だ。
「ドロシー、一人でそんな遠いところに行くなんて私、心配だよ……。都会は危ないって聞くし」
「姉さん、私はもう子供じゃないんだよ。自分の意思で、行動できる」
「分かった。勝手にしろ。ただし中学校は卒業しろ。転校手続きをするから」
「ありがとうございます、師匠」
「ちょっと……師匠?待ってよ、ドロシーが遠くに行っちゃうんだよ?」
「シーラ。私はな、ドロシーの親じゃないんだよ……」
ほぼ無理矢理飛び出した実家を後に、私は電車に乗っていた。期待と希望、ほんの少しの緊張に身を任せて。
──これから、始まる。私の新しい物語が。