表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕(俺)が従魔になるまで  作者: 月猫 美月
19/22

従魔になった僕

目が覚めると、いつもと変わらない天井が見えた。

天井にはウィルに似せた天使の絵が描かられている。

天使の絵なのでさすがに黒髪にする訳にはいかないので僕と同じ金髪碧眼に変えてある。

起きるには早い時間のようだが死期が迫り、一日中寝ている私には朝だろうと昼だろうと夜だろうと関係が無い。


パラリとページを捲る音がして、そちらに目を向ける。


『?』


驚きに声をあげそうになったが、もう随分と声を出していないせいで空気だけが漏れた。

それだけでも気がつくのに十分だったのだろう。

そこにいた人物は本から私の方に視線を移した。


「目が覚めたか?」


そこにいたのは本を手にした兄上で、その膝の上でウィルが眠っていた。


二人の姿は最後に見た日と同じだ。

あれからどれほどの時が過ぎたのか。


「水、飲む?」


コクリと頷くと枕元のサイドテーブルに置いていた吸い飲みを取り私の口にあてた。


コクリと二口ほど飲み込む。


「久しぶりだな」


兄上は吸い飲みを元に戻しつつそう言った。


私は微かに頷いた。


何故兄上はあの日のままなんだろうか?

ウィルの魔術のせいだろうか?

何だか自分一人だけが置いてけぼりにされているようで何だかモヤモヤした気持ちになる。


兄上は椅子をベッドの側まで移動させて座る。


「俺はウィルの従魔になったんだ」


兄上はウィルをぎゅと抱きしめた。


「可愛い娘をいつまでも愛でていられるなんて幸せだな」


兄上は悪戯っ子のように笑った。


何それ?ずるくない?

あの時からずっとウィルを独占して、まだ独占するのかと思うと凄く妬ましい気持ちになった。


「あの時、お前も一緒に旅がしたいって言っていただろ?もう、立場は関係なくなるだろ?」


確かにもう何の立場も義務も無い状態だ。


息子達だけでなく孫達も成人して結婚もした。愛するエレノアは5年前に病気で他界してしまったし、もう、何も思い残すことは無い。


「だからさ、お前も従魔になって一緒に旅をしないか?」


従魔っていうのは従魔契約によって配下になったものの事。

普通は人間や魔族なんかが自分と異なる種族と魔力による主従契約をした場合に使う言葉なんだけど、稀に同族に対して主従関係を結ぶ場合もある。

これに近いのが奴隷契約だ。

これは魔道具を使って強制的に主従契約をと結ぶというもの。

でも、相手の魔力が強いと無効化されるのでその場合はかなりレベルの高い物を用意するか魔封じの魔道具が必要になる。

まあ、高価な上に数が少ないし、桁違いに魔力があるものには意味をなさないが……。


従魔契約の場合は双方の同意が必要となる。

相手が術者よりも魔力が上でも同意があれば結ぶことが出来る。

従魔契約は術者によって条件が変わってくる。

完全支配の場合もあれば対等な関係の場合もある。

従魔の年齢の変更も術者の魔力による。

後者は魔道具を使った一方的な完全支配。

ただまあ、どちらの契約も契約が解除されるまで物理的に主を傷つけることはできない。


私は兄上をじっと見つめた。

従魔になって旅をする。

何だかそれだけじゃない気がする。


「ウィル起きて。ラスティが起きたよ」


軽く揺さぶり覚醒を促す。


ゆっくりと目が開き私の方を見るが焦点があっていない。

ウィルはへにゃりと笑ったが僕を認識したとか嬉しいとかの笑顔でなく、生まれたての赤ん坊が反射的に浮かべる笑みに似ていた。


兄上が支えていないと力なく項垂れる。


「いつからこうなの?」と、目で訴える。

長く話す体力はもう無い。


「30年くらい前からだ。最初は時々ぼんやりしていただけだったんだけど 、どんどん思考が幼くなって今日みたいに自分が誰か分かっていない時もある。俺一人でも世話は何とかなるんだけど、時には1人にさせざるを得ない時もあるから、できればお前にもと思って来たんだが、ウィルがこの調子じゃ、今日は無理そうだ」


兄上の申し出に否やはないけど私もいつこの世を去ることになるかわからない状態だし、できるだけ早い方が良い。

ウィルを見つめれば、再び眠っていまっている。


「力をかしてやろうか?」


聞きなれた声なのにどこか違う言葉が投げかけられた。


いつの間にかローブ姿の男がいてウィルの顔を覗き込んでいる。


「ウィル?」


兄上の顔に驚愕が浮かんでいる。

まあ、私も体力があれば飛び退くくらい驚いただろう。


「僕は別世界のウィルだよ」


そういえば、5つの世界のそれぞれにウィルがいるって言ってたな。


ニッコリと笑んでいるがこの世界のウィルと比べると作り物のような笑顔だ。


「今の状態は核(魂)が劣化しているのが原因だから、少し整えれば正気には戻るはずだよ」


別世界のウィルを抱き上げ、寝かしつけるような仕草で背中を一定リズムでポンポンとしている。


「ほらほら、ラスティも一緒にいてくれるってさ。早くしないと死んじゃうよ」


もう少し言い方ないのかなー


僕も兄上も苦笑する。


「むぅー」


ウィルは睡眠を阻害された子供のようにむくれた顔で目を擦った。


別世界のウィルの顔を不思議そうに見上げたあと、兄上を見て僕を見た。


静かな水面のような眼差しだけど、今度は確りと僕を認識して見ている。


「ラスティも従魔になりたいってさ」


その言葉でまた別世界のウィルを見上げた。


私が一緒に行くのが嫌なのか?


「え、だって前に聞いた時……」


前っていつだろう? 旅に出たいって話の時?

少なくとも従魔の話はしていないけど……。


「……行く」


なんとかそれだけ声を絞り出した。


ウィルの目が驚きで見開かれた。


「俺もラスティが一緒の方が嬉しいし。ウィルは嬉しくないのか?」


兄上は幼子に言い聞かせるように顔を覗き込み優しく頭を撫でた。


「嫌じゃ無いけど、でも……」


「僕……だけ……除け者……なんて……酷い……よ」


久しぶりに自分のこと僕って言ったな。


別世界のウィルは兄上の膝の上にウィルを座らせた。


ウィルはしばらく首をかしげて「あれ? なんで?」みたいな顔をしていたけど、僕の手をそっと握った。


子供の時に繋がった時のように僕の中に暖かなものが体が満たされる。

それが段々熱くなって血が沸騰し、細胞が何かに変わっていくような感覚が押し寄せる。

それが治まると重くだるかった体は軽くなったが変わらず年老いた手をしていた。


「1度死んでからじゃないと流石にね」


このまま疾走すれば何か事件に巻き込まれたと思われるのは確かに不味いよね。


「埋葬された頃に3人で迎えに行くから、何歳の姿になるか考えておいてね」


そう言ってもう1人のウィルに小瓶を渡された。


「ラルセルの時と違ってすぐに仮死状態になるからね。お別れの挨拶がしたい人がいるなら早めにね」


それだけ言い残して3人の姿が消えた。


別れの挨拶はすでにすませてあった僕は、すぐに小瓶の中身を飲み干しベッドに潜り込んだ。


やっぱり、20歳くらいかなー


三人での旅を思い描きながら僕は目閉じた。


眠っている間、僕は長い長い夢を見た。

夢の中の僕は色んな人間になっていた。

貴族だったり、平民だったり、男だったり女だったり、最後は何故が建国の王アズベルトになっていた。ウィルに手伝ってもらいながらエルデン国を造った。

あの森の遺跡も出てきた、これは夢?それとも……。そう、思わずにいられないほどリアルな夢だった。


ウィルに会ったら聞いてみよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ