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僕(俺)が従魔になるまで  作者: 月猫 美月
15/22

弟との再会

ラルセル目線です。

目が覚めると暗闇で身動きのできない状態だった。

拘束されている訳では無い。

僅かに動かせるが体に合わせた棺の中では難しいのが当たり前だ。

気を落ち着けようと深呼吸する。

棺に入れられた花の香りがする。

俺が埋められてどれくらい時間が過ぎているか分からない。


あの日飲んだ薬はじわじわと衰弱して死んだように見せるものだと手紙には書いていた。


『そこが嫌なら一緒に旅でもしない?』


そう書かれた文字に釘付けになった。


俺はウィルと旅ができることが嬉しくて、躊躇うことなく薬を飲み干した。


目覚めた時、酷い目眩と倦怠感に襲われた。

食欲も無い。

いつまでも起きてこない俺の様子を見に来た侍従が医者を呼び診察された。


特にどこが悪いということも無く気鬱と診断された。

薬が処方され、しばらく様子を見ることになったが改善することは無かった。


まあ、そうだろうな。


2ヶ月ほどそんな状態で食事もできず、痩せ細っていった。

最後には指の1本動かすことも瞬きすることもできなかった。

表面的には眠り続けた末に息を引き取ったように見えただろう。


実際はぼんやり意識があって、自分の葬式を音で聞いていた。

まあ、あまり頭が働かなくて、ほとんど覚えていないが……。


幸い今は、薬の効果が切れたのか意識はハッキリしているし、魔力が切れているわけではないので魔法は使えそうだ。


いつ、迎えに来てくれるかな?


俺が病気になったことは隠されていなかったが症状についてはごく一部しか知らされていなかった。

当然、エルデン国にもだ。

流石に長い間寝込んでいるとなると様子を確認する手紙が送られてきていたようだが、どうやら返事を出していないようだ。

何故それを知っているかと言うと俺の見舞いに来た側室達が寝てると思ってその話題を口にしていたからだ。

部屋の主の同意を得ずに部屋に入れる侍従って問題ないのか?

俺の国だと大問題だ。

側室ならOKなのか? それとも俺だからOKなのか?


『ラスティに他の国まで送ってもらおうよ』


手紙にはそう書いてあった。


恐らくラスティにも今回のことは何らかの方法で知らされているはずだから、俺の死ぬ時期に合わせてラスティがローランド国に来ているはずだ。


身分の高い貴族や王族は勝手に国を出ることは禁止されているので今回の事は王も知っているだろう。

恐らく父上も……。

本当は俺が生きているということをどこまでの人間に知らされるか。

母上には知らされるだろうか?

知らされるとしても、しばらく後になるだろうな。

母上はあまり隠し事が得意では無いから喪が開けてからだろうな。

そのまま知らされなかったら、どんなに悲しむだろうかと胸が痛むが、もう後戻りはできないし、したくもない。

自己中心的と言われても今の暮らしを続けるよりは良い。それにウィルもいる。


『ちょっと遅れても大人しく待っててね』


ふと、手紙の最後の一文を思い出す。


「ちょっとってどれぐらいだろうな」


ウィルは時間感覚が時々おかしい。

長い時間を1人で生きてきたからだと思うが……


「本当に死ぬ前に迎えに来てほしいな」


まあ、風魔法で空気を浄化させれば呼吸に問題無い。

あ、空腹で死ぬ場合があるか!

今のところなんともないけど……。

そういや2ヶ月も食べてないのに死なないってどういう理屈だろう?


そんな事を考えていると浮遊感を感じて明るい光が俺の目を眩ませた。


光に目が慣れてから開けると傍に、申し訳なさそうな顔をしたウィルがいた。

赤子の姿ではなく7、8歳ぐらいの姿で、いつものローブを着ていた。

旅に出ると言っていたから、てっきり成人した姿だと思っていたからちょっと驚いた。


「ちょっと用事をすませていたら思ったより時間過ぎてて」


えへへと笑って首を竦める。

以前の時とは別人のように子供らしい豊かな表情を見せていた。


俺は埋葬された白い服のまま、床に寝ていた。


「気分はどうですか? 兄上」


「まあまあ、かな」


ラスティの手を借りて立ち上がる。

2ヶ月ほぼ寝たきりで、ろくに食べてないせいで、筋力が弱っている。

よろめいて二人とも倒れそうになるが、ラスティが踏ん張って事なきを得た。

もともと俺は外交官で弟は騎士だから、そもそも体の作りが違う。

それに今は平均的な男性としての筋力も足りないだろう。

それは認めるけど……


弟にお姫様抱っこされるって何なんだ!


取り敢えずウィルの薬で気力を回復し、体力回復の魔法をかけてもらった。

起きて動く分には問題ないようだ。

用意してもらった服に着替えてホッと息を吐いた。


ウィルを傍らに寄せ抱き締める。


何か癒されるなぁー。


「久しぶり」


「うん」


「今回は何か雰囲気違わないか?」


「そう?」


ウィルが可愛らしく首を傾げる。


「そういえば、何でエルデン国の方にしなかったんだ?」


「んー、そっちだとラスティの子供を取ちゃうのも悪いし。それにこの国は黒が禁忌だから丁度いいかなって思って……。姿が消えても特に問題無いし。ラルセルもあの人との子供を育てるのも気が進まなそうだったし」


「確かに」


俺は苦笑した。


たとえあの女の子供でも自分の子供なんだから愛せると思うけど、あのシステムで生まれた子供を心から愛せるかと言われれば分からない。


「子供の姿のまま旅するのか?」


「いつもは1人だから一気に大人の姿まで成長させるんだけど、今回はラルセルと旅をするし、親子設定もありかなって思って」


まあ、初めて会った時、弟よりも小さな子供だったから違和感は無い。


「あと、2つ予想外のことがおきて……」


ウィルの言葉に俺とラスティは顔を見合わせた。


「魔術を使えばどっちにでもなれるんだけどさ」


ウィルは俯いて何か言い訳するような小さな声で呟いた。


「今まで予め準備しなくても男に生まれていたから失念してたんだ」


ちょっともじもじする姿は普通に子供に見える。


「ローランド王家って女王が治めているだけあって女の出生率が高いんだよね」


「「ん?」」


それってつまり


「今、ウィルは女の子ってことか?」


そう言えば黒髪ってことで大騒ぎになって性別については誰も確認しなかった。そもそも、ウィルとして生まれたから男だと思い込んでいた。


「親子設定にすることは初めから考えていたから特に問題無いけど、女の子だから、これ以上成長した姿にするとね」


色々と女らしくなるってことか。


「それに一時的かもしれないけど、すぐに眠くなるんだよね。大人サイズで突然寝ちゃうと色々大変でしょ?」


確かにウィルの体重は軽いから運ぶのは問題ないけど、タイミングによっては困ることもあるよな。

その点、子供ならどんなタイミングで寝ても言い訳も簡単だし抱き上げて移動する時に何か変に心配されたり誤解されたりすることも無いだろう。


「ラルセルは男と女どっちがいい?」


一緒に旅をするってことは使うものも男と違ってくるし、変な奴が寄ってきそうだけど……。

でもなー。


「女の子の方がいいかなー。一番下に妹がいたけど、男勝りだったから、あんまり妹という感じはしなかったし」


「確かに妹というより弟だよね」


ラスティもうんうん頷いている。


アリシアは植物薬草学科を卒業式しているのに、卒業後は何故か女騎士になった。

たぶん、小さい頃から母上辺りに訓練されていたんだろう。

学園はエレノアがいるのとディレイトと同じ学科で比べられるのが嫌で騎士科にしなかったに違いない。


そもそも母上が女騎士だったから、その影響もあったんだと思うけど。

ディレイトは1度は騎士になったようだけど、結局は夢だった冒険者をすると旅に出たそうだ。


「兄上?」


黙り込んだ俺を心配して呼びかけた。


「や、俺だけ文官だなって思っただけだ」


苦笑を浮かべてから、そういえばと思い立つ。


「結局、俺のことはエルデン国には知らされたのか?」


「問い合わせの返事が無かったから逢いに行くって手紙送ってから船を出した」


ラスティは唸り声を出す。


「ついて直ぐに危篤の報せがきて、いつ息を引き取っても可笑しくないタイミングで会えた的なね」


「言葉もでないな」


「まあね。でもまあ、別の言葉は出したよ。抗議しておかないと威厳がなくなるからね。ついでにこんな対応をする国には今後、婚姻を結ぶことをしないって一筆書いてもらった。まあ、向こうの方が上だから強引に攫ってでもってこともあるかもしれないけど」


ラスティはこめかみを押さえて溜息をついた。


「影に書類を奪われるってこともあるしな」


「大丈夫。その辺は僕の方からも取引したんだ」


「「?」」


「影を操ってる人にね、エルデン国に迷惑をかけないように話して納得してもらったから」


ニッコリと楽しそうに笑う。


それは言葉から受ける平和的な話し合いかな?

それとも裏腹な物騒な方法かな?


怖くて聞けん。

ま、もう俺には関係の無いことだ。


俺を迎えに来るのが遅くなったのは話し合ってたのが理由かな?


「そ、そうだ、食事にしませんか、兄上」


ラスティが引き攣った笑みで話題を変える。


「そうだな」


この2ヶ月、真面(まとも)に食事をしていない。

胃に優しい食事が用意され、ゆっくりと食べた。


「僕も抱っこして、それやりたいなー」


ラスティが頬を膨らませて眉を寄せる。

22歳にしては子供っぽい仕草だ。

まあ、親しい間柄でしかしないだろうけど。


俺はウィルを膝にのせ、自分が食べる合間にウィルの口元に食べ物を持っていく。


あーん状態だ。


親子なんだから、普段からそういうのする方が自然かなー、何て軽い気持ちでやったらウィルも別に嫌がらず俺の差し出したスプーンからハムリと食べている。


前の時はほとんど食べないって言っていたけど、今度は食べるようなので一緒に食事を楽しめそうだ。


ラスティが羨ましそうに、じっと見ている。


「自分の子供にできるだろう?」


ラスティにはすでに子供が2人いる。

どちらも男だ。

上が一歳で下が数ヶ月だ。


「んー、そうだけどウィルにもしたい」


「もう、お腹いっぱい」


俺が何か言う前にウィルのご馳走様宣言が出た。

ラスティがあからさまにガックリしている。


「まあ、次の機会にだな」


「絶対だからね!」


それは俺にじゃなくてウィルに言うべきことだと思うぞ。

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