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Uのなる木

作者: P-マン

 その木には、”U”がなっていた。

 私とかの木の出会いは小学六年生の時だ。子供だった私が公園で遊んでいると、何かに呼ばれてこの木のところへ辿り着いた。

 その木には確かに”U"がなっていた。Uが何か、私はもう忘れてしまったが......。

 とにかく、UはUとしか説明のできないものだった。Uの説明を求められた時は少し困ったが、たいてい聞いた人をUのなる木のもとへ連れていくと、「あー」と合点がいったような声をあげて、納得してくれるのだ。


 私はそのなんともいえない物体”U"をどうにか表現しようとして試行錯誤した。

 Uは動物だろうか。否、少なくとも動物ではない。彼らは木になっている。それは動物ではない。

 Uは果実であるか。否、どうも果実ではない。彼らは確かに木になっているが、果実というには幾分か必要の物が不足していて、果実というには不必要なものがなっていた。

 Uのことを私は説明することができなかった。


 私はそれを文にして書き起こしてみることにした。どうしても絵は私は描くことができなかった故だ。

 最初は拙い文だった。ノートの最後の方に書かれたその文は今思い返せば笑ってしまうような出来だ。何が伝えたいのか、さっぱり分からない。

 二年たって、文章に慣れてくると、ある程度はマシなものとなった。

 どうもその時の情報によれば、Uはどうやら”手足があり”、”こちらに語りかけることがある”らしい。

 全くもって意味不明だ。果実でも動物でもなかったと記憶しているが、そうだとしたらこいつは何だろう。

 それからさらに二年経ち、高校に入学する頃、私はUを題材にしたウェブ小説を投稿してみた。

 結果、そこまで人気にはならなかったが一部の層には非常に受け、Uは書籍として世に送り出された。


 社会人になり、私は小説家としてデビューを果たした。

 電子で書くのが常識のこの時代において、私は紙に書くことにひどく拘っていた。

 紙でないと、Uは形を失ってしまうような気がして、私は紙にしかそれを書くことができなかった。本当はもっとポピュラーでありふれた小説が書きたかったが、Uは呪いのように私の執筆に未知の存在を加えてきた。

 故に勝負場も限られていた私の様子は、外から見れば”紙に拘る天才”であるかのように見えたのだろう。私のいわゆる信者という存在たちは、私を神であるかのように崇め出した。

 私はそれが何だか嫌になって、一度だけはっちゃけて滅茶苦茶な文を書いてみた。Uのことなんて忘れて。

 結果、全てのページにはUの記述がなされていた。


 結婚してからも私は変わらなかった。妻には偏屈野郎と呼ばれていたが、その通りだと思う。いつまでも紙に拘る姿勢に、Uはこだわり続けた。

 そう、執筆しているのは最早私ではなくなっていた。

 私のペンネームに込められたものは、最早Uと化していた。

 子供が出来てからもその姿勢は変わらず、私はずうっとUが何かに囚われていた。

 狂ったように同じものを様々な角度から描写する私を、息子たちは奇人と呼んだ。私はもう他人の目を気にせず、Uにしか興味を抱くことが出来なくなっていた。

 狂ったように紙に書き起こしては、これも違う、あれも違う、と苦悩し続けていた。

 私はもはや作家などではなく、狂人だった。


 その日、夢を見た。

 Uが出てくる夢だ。私は少年の頃の姿で、あの木の下に立っていた。

 上を見上げると相変わらずUは元気そうにこちらへ語りかけている。なんだか意味がわからないのに、私は分かった気になって、ゆっくりと木を登ってUを手に取ろうとした。

 Uを掴み取り、手の平の上に乗せて観察する。なるほど、Uとはこういうものか。中々面白い形をしている。

 ではこいつはなんなのか? 答えはすぐに出た、Uとは”葉っぱ”だ。Uの木がつけていた、ただの葉っぱ。

 私はUをまじまじと観察して、満足するとゆっくりとUの木を降りた。

 満足感が、私の胸の内を満たしていた。


 夢を見た次の朝からはUの正体を執筆するのに勤しんだ。

 ”未知なる物質が発見され、世界は大いに騒ぎ立てたが、結局その物質はなんでもないものだった”。

 そういった題材の小説を書き、二ヶ月後には脱稿した。

 そして、世に送り出された私なりの”U"。

 その評判は散々たるものだった。


『今までの展開が読めない感じが良かったのに』

『もうこの人の才能って失われたのかな。残念』

『展開がすぐに読めてしまった。本当に同じ作者?』


 あまりにも冷たい反応。私はそれがあまりにショックで、なぜこのような事態に陥ったのか分からなくなって、私はあの木の下へ赴くことにした。


 何年も経つと案外場所など忘れてしまうもので、旧くからの友人に道を尋ねながら、私がよくいた木の下へ案内してもらった。

 そこは未だに公園であった。子供達がボール遊びをしており、入っていくとサッカーボールが私の腹にぶつかってきた。子供達がごめんなさいといってボールを回収していく。私はそれよりも大切な、Uの木へと近づいた。

 Uの木は昔見た時と変わらず、至って普通の木。公園の入り口近くに生えている、ネームプレートのかかっていない木だ。

 私はその気の上を見上げて、何がなっているかを見てみる。

 ......そこには、何もなっていなかった。

 私は疑問に思い、近くにいた少年たちに聞いてみる。


「この木はなんの木なんだい?」

「その木はただの木だよー。何も実らないから興味ない!」


 ............嘘だ。

 そういった確信があって、私はその木を登り始めた。子供達があのおじさん何してるんだろう、と見ている。ガサガサと木が擦れ合う音がして、この先にUがなっていた筈だと、私は登りきった。

 木から顔が出て、青い空が私の前に広がった。そして私は私の目でUを見ることが出来なかったことを確認すると、ゆっくりと口を持ち上げ、呟いた。


「......全部お前のせいだ」


 そう呟いた瞬間、私は地面に叩きつけられた。

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