ちゃんとみてよ
ノンフィクション
「ちょっと来て」
「……なに? 」
朝、期末に向けた試験勉強をしていると、いきなり僕は母に呼ばれた。
何故呼ばれたのだろう? と考えていたら、どうも
「微妙にエロい小説がある。書いたのはお前か? 」
とのこと。
どうやら趣味で小説を書いている僕のことを真っ先に疑ったらしい。
微妙にエロいって何だよと思いつつ、僕が書いてる作品を思い返すが、思い当たる節はない。そもそもエロいもんなんて書けるわけがない。僕はまだ未成年だ。
「兄じゃないか? 」
と聞くと、母は直ぐに兄に聞きに行った。
数分して僕の部屋に来るあたり、どうやら違うらしい。
兄でも違うのか……。まさか自分か? とまた考えたけれど、やっぱり全然思いつかなくて。
「それ、どんなやつなの? 」
「こっちおいで」
ちょっとエロいってやつを見てみたくて、僕は好奇心で言った。何も思わず無視していれば、こんな思いはしなかったと言うのに。
♂♀
その「小説がある」ってのは、どうやら母が仕事でパソコンを使っていた時にでてきたものらしい。
文字を印刷しようと貼り付けたら、誰かが前コピーしたものを貼り付けてしまったらしいのだ。
この時点で、色々とツッコミたいところはあるが、気にしないことにした。
そうして2階のリビングに行くと、確かに仕事の文章とは違うナニかが貼られてあった。
「……これって……」
「誰がやったの? 」
「僕だわ」
読んでみると、コピーしたのは僕だった。
と言っても、別にこの文を書いた訳では無い。
僕には、憧れている音楽クリエイターさんがいる。
その人の作る音楽は、どう表現したらいいのか……僕も知らない言葉が多くて上手く言えないのだけれど、とにかく心に響く。
歌詞にマッチした音、それを引き立たせる絵や歌い手。少し暗い雰囲気のある物や、明るい感謝をうたう物もある。
どれに共通して言えることは、感動してしまうということ。
そして僕は、その人が作った歌詞が好きで、曲が好きで、歌が好きで、音楽が好きだ。
これは、そんな憧れている人の最新曲の歌詞だった。
好きな曲は歌いたい。誰しもが思うことだろう。
僕は昨日の夜、その歌詞をWordに貼って印刷した。
それが残っていた。それだけだった。
僕は、この人の歌詞は凄いだろっ! って言いたくて、色々教えようとしたのだけれど、僕が口を開くよりも断然早く、母は捲し立てた。
「こんなくだらない小説、馬鹿みたい。なんの意味もない。あほらしいもんだね」
「こ、これは小説じゃなくて……歌の歌詞! 僕が尊敬してる人の……! 」
「歌詞でも小説でもそんなの変わんないよ。なに、この言葉。気持ち悪いねぇ。なんでこんなエッロい歌詞なんてコピーしてんだよ」
違う、エロくない。
それは、自分を捨てられた少女が、嘘だと言って欲しいと“彼”に向かって嘆く恋の歌だ。とても悲惨な恋の歌なのだ。心が締め付けられる恋の歌なのだ。
どこもエロくなんてない。
そう言いたいのに、憧れの人を馬鹿にされた悔しさと悲しさで、おどけて笑うしか出来なかった。
「これを外道って言うんだよ! げ、ど、う!!
こんなの見るんじゃない。こんなの書いてる人なんて、どうせ頭が可笑しいに決まっている。あんた、普通の物もちゃんと読みなさいよ。だから、偏ってるんだよ。考え方が」
違う、偏ってるのはお前だ。
「それはさ、お母さんが歌詞の意味を分かろうとしてないから……そう見えるだけであって……」
「意味も何もあったもんじゃない。なに、この娘娘って。他にも色々。とにかく外道。もう、こんなのは見るな。いいね? 」
「ふざけるな」
言えたら良かったのに。僕は何も言えなかった。
「そうだね」
なんて笑って肯定して、その場を逃げた。最低だ。僕は、僕自身が、憧れの人を否定したんだ。
悲しい。悔しい。辛い。苦しい。
自分の心がぐちゃぐちゃになって行く。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。
あんな親嫌いだ。
理解しようとしてくれないのは嫌いだ。
「知らない」が嫌いだ。
けど、自分が一番嫌いだ。
無知って怖い。
知らないって怖い。
相手を理解しないで、自分の価値観で全てを決める人なんか狂ってる。
表面しか見ないて、裏を読もうとしないのは馬鹿げてる。
もっとちゃんと知ってほしい。
もっとちゃんと理解してほしい。
そうしたら、「違う」って分かるから。
「良い」って分かるから。
せめて、理解した上で言葉がほしい。
僕は、ただそれだけなんだ。
もっと、
この世にたくさんある、
多くの素晴らしい作品を、
表面で見ないで、
ちゃんとみて。
きっと皆さんも、誰かに言われたこと、もしかしたらあると思います。
もしあるんだったら、
自分達もそうならない様になって欲しい。
私はそう思います。