コマドリとリスとカエル
とある森に、歌の上手なコマドリさんがいました。
コマドリさんは、歌が大好き。毎日毎日大きな声で
ピロロロロー!ピロロロロー!
と歌っていました。
朝から晩まで歌い続け、食べてる時と寝ているとき以外は、ずっと歌い続けていました。
その歌は遠くまでよく響き、他の動物たちに大人気でした。
森で毎年行われる、のど自慢大会では、二年連続で一位をとるほど。
けれども、それを快く思っていない動物もいました。
ある日のこと。
いつものように、コマドリさんが木の枝にとまり、ご機嫌な歌を歌っていると、
1匹のリスくんが通りかかりました。
リスくんは、少しのあいだ 立ち止まって、コマドリさんの歌を聞いていました。
そして、歌がいったん止まると、コマドリさんに話しかけてきました。
「やぁ、コマドリさん、こんにちは。」
「こんにちは、リスくん。歌を聞いてくれてたんだね。どうだった?」
そう聞かれたリスくんは、コマドリさんに、すこし意地悪をしてやろうと思いました。
「そうだねぇ。うまいけど、ぼくの好きな歌じゃないなぁ。」
それを聞いたコマドリさんは、がっかりしました。
リスくんは続けます。
「それに、声が大きすぎるよ。そんなんじゃあ お昼寝しようとしても、うるさくて寝られないよ。」
「そっかー。じゃあ、もうちょっと、声をおさえるね。」
そう言って、すこし声をおとして歌ってみました。
ピロロロロー。ピロロロロー。
それを聞いたリスくんは、さらにたたみかけました。
「もっと、やわらかく歌ってみてよ。そのほうが、お昼寝のじゃまにならないし、みんな癒されるよ」
「なるほど、やってみるよ。」とコマドリさん。
ヒロロロロー。ヒロロロロー。
「違う違うそうじゃない。まだまだ、かたい。もっと やわらかくなくちゃ。」
「えーっと、こんな感じかな?」
ひろろろろー。ひろろろろー。
「全然だめだよ。まったくコマドリさんは不器用だなぁ。」
そうリスくんに言われたコマドリさんは しょんぼりして その場を去りました。
その日から、コマドリさんは、毎日やわらかく歌う練習をしました。
しかし、そもそも“やわらかく歌う”ということが、どういうことなのかわかりません。
リスくんに聞いても「やわらかくは、やわらかくだよ。」と、よくわからないことを言うだけです。
結局、何度歌っても、リスくんを満足させることはできませんでした。
そんなある日、リスくんがコマドリさんを訪ねると、
いつも歌ってばかりいたコマドリさんが、歌わずにぼーっとしているではありませんか。
「コマドリさん、歌の練習はどうしたんだい?」
「リスくん。わたしは もう歌いたくないよ。」
それを聞いたリスくんは びっくり。
「そんな、コマドリさんが歌いたくないなんてことを言うなんて!」
これは、やりすぎたとリスくんは思いました。
実は、リスくんも“やわらかく歌う”というのがどういうことなのか、わかっていなかったのです。
ただ、コマドリさんの歌声に嫉妬して、とにかくケチをつけたかっただけだったのです。
そうしているうちに、コマドリさんは歌うことに疲れ、いつしか歌えなくなってしまったのでした。
それから数か月たった ある日。
コマドリさんは、遠出をしていました。
歌うことは疲れますが、だからと言って、他にやりたいことがあるわけではありません。
そのため、この数か月は、ただただ食べて寝るを繰り返す毎日だったのです。
このままではいけないと、いつもとは違う場所に飛んできてみたのです。
知らない場所に行けば、何か変わるかもしれないと思って。
そこには泉がありました。シカさんやクマさんが水浴びをしているのが見えます。
しかし、普段いかない泉に来たからと言って、やりたいことが出てくるわけでもありません。
コマドリさんは、泉のそばの木にとまり、なにもせず ぼーっとしていました。
しばらくそうしていると、
ゲコゲコゲーコ。ゲコゲコゲーコ。
と楽しそうに歌う声が聞こえてきました。
その声がするほうを見てみると、泉に浮かぶ葉っぱの上に、1匹のカエルくんを見つけました。
コマドリさんは泉のそばに降り立ち、カエルくんに話しかけました。
「歌っているのは君かい?」
話しかけられたカエルくんは、歌うのをやめ、コマドリさんのほうを向きました。
「おや、これはコマドリさん。どうしたんだい?」
「さっきから歌ってるけど、ちょっと、うるさくは ないかい。」
「おやおや、それは失礼。」
「これじゃあ、昼寝もできやしない。もっとやわらかく歌ってよ。」
「やわらかく?」
カエルくんは、意味がわからず首をかしげました。
「それって、どんなふうに歌えばいいんですか?」
「やわらかくは、やわらかくだよ。」
「それでは、よくわからないよ。一度歌って見せてほしい。」
そういわれたコマドリさんは、黙ってしまいました。
「どうしたんだい?」
「……ぼくは、やわらかく歌えないんだ。」
「それじゃあ、どうしようもないじゃないか。」
「でも、やわらかく歌えないと、みんなの昼寝をじゃましちゃうし。」
「そんなこと、だれが言ったんだい?」
「リスくんが。」
そして、コマドリさんはリスくんに言われたことを話した。
それを聞いたカエルくんは、あきれ顔になりました。
「みんなの昼寝のじゃまをしてるだなんて、そのリスくんとやらが 勝手に言っているだけでしょう。
少なくても、このあたりでは聞いたことがない。」
「そうなの?」
「ええ。そして、コマドリさん。きみは やわらかく歌いたいと、本気で思っていたのかい?」
そう言われたコマドリさんは、少し考えました。
そして、はっきりと言いました。
「本当は、やわらかく歌いたいとは思ってなかったよ。」
「だったらそれでいいじゃないか。」
そういうと、カエルくんは葉っぱの上から大ジャンプし、コマドリさんの隣へと着地した。
「むりに よくわからないことをしなくたっていいさ。
歌いたいように歌い、歌いたくないようには歌わない。
リスくんとやらが何を言おうと、きみはきみがしたいようにすればいい。」
「いいのかな。」
コマドリさんは不安そうに聞きました。
「ぼくの声、大きすぎないかな。」
「大丈夫大丈夫。
そうだ、せっかくだし いっしょに歌おうじゃないか。きみも歌うの好きだろう?」
「ぼく、最近は疲れるから歌ってないよ。」
「それは、歌いたくない歌い方だったからだろう。歌いたいように歌えばいいんだ。」
そう言うと、カエルくんは大きな声で歌いだした。
ゲコゲコゲーコ!ゲコゲコゲーコ!
その声があまりに大きくて、コマドリさんはびっくりぎょうてん。
ゲコゲコゲーコ!ゲコゲコゲーコ!
けれど、元気なカエルくんの歌を聞いていると、なんだか自分も元気になってくる。
ゲコゲコゲーコ!ゲコゲコゲーコ!
そして、ついついコマドリさんも口ずさむ。
ひろろろろー。ひろろろろー。
ゲコゲコゲーコ!ゲコゲコゲーコ!
ヒロロロロー。ヒロロロロー。
ゲコゲコゲーコ!ゲコゲコゲーコ!
ピロロロロー。ピロロロロー。
ゲコゲコゲーコ!ゲコゲコゲーコ!
ピロロロロー!ピロロロロー!
ゲコゲコゲーコ!ゲコゲコゲーコ!
いつの間にか、二匹は大合唱。
それはとても楽しそうな歌でした。
その年の、森の のど自慢大会では、いつものように ご機嫌な歌を歌うコマドリさんの姿がありました。
他の動物たちは、しばらく歌を歌っていなかったコマドリさんのことを心配していました。
しかし、復活したコマドリさんの歌声が、今までよりずっと すばらしい歌声だったので、
安心と同時にびっくりしたようです。
それから、コマドリさんに いじわるしたリスくんは、他の動物たちからめいいっぱい怒られたとか。