潜入 Ⅰ
「これでいいんですか?」
「もうちょっと強く縛ってくれ。そうしないと簡単にほどける」
「これならどうですか?」
「良い感じだな。これなら簡単にはほどけないだろ。ソフィーでもほどけないか?」
「私でもってどういうことよ。まるで私が怪力みたいじゃない」
「すまん、そういうつもりはなかったんだ……多分」
「最後に多分って聞こえたんだけど気のせいよね? カズヤ」
「気のせいじゃないか?」
「後で覚えておきなさいよ」
ソフィーはそう言って俺から顔を背ける。
ソフィーをからかい過ぎたか……。
今から盗賊を倒しにいくにしては緊張感がないと思うかもしれないがそういうときこそ平常心、いつもの自分を保つべきだと俺は思う。
──何故、平常心を保つべきか?
それは頭に血が上っていると冷静な判断が出来ないからだ。
ついこの前、あかり達の件でそれを学んだ。
あのときの自分の行動は危ないことだらけだったと今になって思う。
それに出来れば思い出したくないほどあのときは取り乱していた。
結果的に何も問題は起こらなかったが一歩間違えていれば、一つ状況が違えば何か問題が起こったかもしれない。
そんなことを起こさないためにもどんなことが起こっても本来は常に平常心を保つべきなのだろう。
しかし人間なのでどんなに気を付けてても絶対はない。
なので今後は常にとはいかなくても八割は平常心を保てるようになりたいと勝手に思っている。
まぁ妥当なラインであろう。
話が逸れてしまったが俺が今話したいのはもちろんこれではない。
今最も重要なこと、それは俺達が今縛られているということだ。
別に何かをやらかして捕まったわけではない。
初めに言った通り、俺達は今から盗賊を倒しに行くのだ。
盗賊を倒しに行くのにただ乗り込みに行ったのでは人質の安全が保証出来ない。
そこで俺達が捕まって人質になれば盗賊のもとにいる人質に危害が加わることはなく潜入出来るというわけだ。
ただ一つ問題なのが……。
「なあ、四人とも本当に行くのか?」
「盗賊を倒しに行くんだから当たり前でしょ?」
「一人だけ残るなんて出来ない……」
「子ども達を助けたいからね」
「私も同じ、あとお兄ちゃん、また勝手にいなくなるかもしれないでしょ?」
「でも俺達は人質になるわけで……」
「危ないってことでしょ? そんなの初めから分かってるわよ。それを承知で倒しに行くって言ってるの」
そう問題があるとすれば自分達に危害が加わる可能性があるということ。
それも自分達が人質になるので盗賊のもとにいる人質を見つけるまでは迂闊に行動出来ない。
その間に何をされようともどうすることも出来ないのだ。
自分自身の場合はなんとか出来る自信があるが他の四人はなんとも言えない。
行ったら最後、全て自己責任なのだ。
そんなところにこの四人を連れていきたいかと問われれば当然Noと答えるだろう。
だが四人はそれでも行きたい、盗賊を倒しに行きたいと言った。
ならば俺にそれを止める権利なんてない。
「分かった。でも何が起こっても自己責任だからな」
それから俺達は全員無事縛られ終え、子ども達に指示を出す。
「じゃあ当初の予定通り、俺達を何かで眠らせて捕まえた体で盗賊のアジトに連れていってくれ。皆頼むぞ」
「はい、任せて下さい」
「それと俺達を運ぶのはそこの馬車を使ってくれ。さすがに担いで行けっていうのは無理な話だからな」
これで準備はあらかた終わった。
あとは盗賊のアジトに運ばれるのを待つだけだ。
「じゃあ皆さんを馬車の中に運びますね」
そう言って子ども達は八人がかりで俺達五人を一人ずつ運ぶ。
そういえば……。
「馬車の御者って誰か出来るのか?」
「はい、皆大体出来ますよ。なので安心してください」
村だと馬車の御者を出来るのが普通なのか。
俺なんて馬車購入前から練習をさせてもらってやっと御者を出来るようになったというのに……。
とにかくそろそろ村を出る時間だ。
「じゃあアジトについてからの説明は任せたぞ」
俺の言葉を最後に俺達はこの子ども達の村を出た。
◆◆◆◆◆◆
ガタゴトと激しく床が揺れる中、俺は馬車の乗り心地の悪さに購入した馬車の選択を間違ったかとわりと真剣に考えていた。
やはりサスペンションをつけた方が良かったのか?
でもつけるとなると値段がさらに高くなるからな。
馬車の中に横たわっているため、馬車が揺れる度に床に頭を打ち付けられてとても痛い。
御者台にいるときは先が見えているためあまり気にならなかったが揺れるとまったく分かっていない状態からの突然の揺れはまったく体がついていかないのだ。
そういえばあかりと鈴音は昨日走行中の馬車で寝てたよな。
よくそんな状態で眠れていたなと感心からくるものなのか、はたまた呆れからくるものなのか分からないため息が口から漏れたそのときだった。
今までで一番激しい揺れが俺達を襲った。
一体何事なんだと俺は御者台を見る。
「……急に止めてしまってすみません。もうアジトの近くまで来ましたので気を失っている振りをお願いします」
どうやら今の揺れは近くまで来たことの合図らしい。
もう少し穏便な方法があるんじゃないかと思わなくもないがこの方法が一番伝えやすいのかもしれない。
とにかくもう盗賊のアジト近くだ。
気を引き締めなければ。
それから数分ガタゴトと馬車が揺れた後、ピタッと揺れが収まった。
「おい、そこの馬車止まれ!ってお前は確か……」
「エリン村のヨリックです」
「ああ、あの村のガキか。で何のようなんだ? 寂しくてママのおっぱいでも吸いに来たのか?」
盗賊はそう言って馬車の御者をしていた少年、ヨリックを馬鹿にするようにガッハッハと笑う。
「いえ、そうじゃないんです。今日はまた別の用事で……」
ヨリックの立場的に怒りをあらわに出来ないのだろう、ヨリックは馬の手綱を強く握ることによって怒りを抑えていた。
「その用事っていうのはなんなんだ?」
「はい、馬車の中を見てください」
「ほう、馬車の中に何かあるってか」
盗賊はまるで宝箱を開けるように馬車の中を覗き見る。
「これは……」
盗賊が見た瞬間言葉を失ったもの、それは床に転がされている俺達である。
襲撃しても捕らえることが出来なかった俺達を子ども達が捕らえているのだから驚くのも無理はないだろう。
「ちょっと待ってろ!」
アジトの入り口にいた盗賊は慌ててアジトの奥へと引っ込んでいった。




