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エリンドット


「やっと戻ってきたわね」


 宿に戻るとソフィーが俺のもとへと駆け寄ってくる。


「どうしたんだ?」


「どうしたもこうしたもないわよ。カズヤが遅いからもう食料の買い出しも行ったし裏の馬車にも積んであるわよ」


 どうやらやろうと思ってたことを先にやってくれていたらしい。


「遅れて悪い。他にやることはあるか?」


「そうね……あとは……」


 ソフィーは何かやることをと探し始めるが……。


「ないわね。外でも歩いて時間を潰して来たらどう?」


「さっき外にいたんだが……」


「そんなの関係ないわよ。やることがないんだから仕方ないじゃない! あ、そうだわ」


 ソフィーは宿の二階へと駆け上がっていく。

 それから少しして腕一杯に普段四人が使っている武器を持って一階へと下りてきた。


「カズヤはさっきやることがない、何か手伝わせて下さいって言ってたわよね?」


 あれ? 何か手伝わせて下さいって言ったっけか?


「そんなカズヤに朗報よ、喜びなさい。偶然にもここにこんなに手入れの行き届いていない武器があるわ。この武器を出発前に手入れしたいじゃない? いやしたいはずよね?」


 ソフィーは俺に顔を近づけて圧をかけてくる。

 これは手入れしたいと言わなければいけない雰囲気だな。


「確かにしたいな……」


「カズヤならそう言うと思ってたわ。じゃあ後はお願いね」


 ソフィーは腕一杯に持っていた武器を全て俺に預け、どこかへと行ってしまった。


 まぁやることがないのも事実だ。

 暇潰しに武器屋にでも行ってこの武器達を手入れしてもらうとしよう。


◆◆◆◆◆◆


「これを全て宜しく頼む」


 町へと再び繰り出してやって来た先は当然武器屋である。


「これ全部か?」


「そうだが」


 武器屋の店主がその厳つい顔をさらに厳つくしている。

 何か問題でもあったのだろうか。


「どうかしたのか?」


「いや特にどうもしてない。ただどうやって使ったらここまで頑丈に出来たやつがボロボロになるのかと思ってな」


 その武器達をよく見てみると金属部分が凹んでいるガントレット、先端部分が折れた木の杖、国の紋章が入っている古く今にも折れそうな杖、持ち手の部分が血で汚れた短剣など酷い有り様だった。


 というかよくこれで戦って来れたな。

 万が一、武器が壊れた場合はどうするつもりだったのだろうか。

 本人達も手入れをしているんだろうが、やはり素人では限界があるというわけか。


「仲間が悪いな、無茶ばっかりして」


「いや使われずに大事に仕舞われておくよりもこれくらい使われた方が武器も本望だろう。気にすることはないぜ」


 武器屋の店主はそう言って俺が置いた武器を持つ。


「しばらくかかるだろうから武器でも見ていてくれ」


 武器屋の店主はそのまま店の奥へと行ってしまった。


「武器か……」


 俺は『実体化』があるため武器を持っていない。

 だが何かの拍子で『実体化』が使えないなんてことがあるかもしれない。

 その時のために一つ予備で武器を持っておくのもありだな。

 俺が使うのは鈴音が使っているのと同じ短剣、もしくは拳だ。

拳でもいいのだが直で殴ったときの感触は気持ちが悪いものだ。

出来れば短剣が使いたい。

 そういうわけなので一つ短剣を選んでいくとしよう。


 俺が短剣が置かれている場所へと移動し、使いたい短剣を選ぼうとしたとき武器屋の入口から新たな客が入ってくる。


「手入れもしないで使い続けるから折れちゃいましたよぉ」


「武器が折れたときはやっぱり武器屋なんですかね」


 入ってきた新たな客、それは俺が最近お世話になった勇者探索グループのメンバー達だった。


「あ、そこにいるのはカズヤさん……」


 勇者の一人、戌井さんが俺に気づいたようで近づいてくる。

 他のメンバーも戌井さん行動で俺に気づいたようでこちらへと近づいてきた。


「お久しぶりですぅ」


 相変わらず田辺さんはどこかフワフワしている。


「久しぶりってほどじゃないけどなまだ別れてから数時間しか経っていないし」


「あれぇ? そうでしたっけぇ? とにかく元気そうで良かったですぅ」


「それでカズヤさんはどうしてここに?」


 田辺さんとの会話が終わったと思った数秒後、戌井さんがすかさず俺がここにいる理由を聞いてきた。


「それは仲間に頼まれて武器の手入れをな……」


 そう武器の手入れは頼まれたから引き受けたのだ。

 決してパシられたとかそういうことじゃない。

 もう一度言うがこれは自分の意思なのである。


「そうだったんですね。それじゃ私達と同じですね。私達も武器を手入れしに来たんですよ」


「それにしても派手に折れたな」


 視界には綺麗に真っ二つに折れた剣が写っていた。

 武器は酷使すると最終的にはこうなるのだろうと思わせる様だ。


「お恥ずかしながら壁にぶつけた際に折れてしまいまして」


「戦闘中じゃなくて良かったな」


「本当にそうですね……」


 しばらく勇者達と雑談をしていると店のカウンター奥から声がかかる。


「おい、旦那。武器の手入れが完了したぜ」


 俺は勇者達に一言断りを入れて、預けた武器を受け取りに行った。


「どれどれ……ってほとんど新品じゃないか!」


「これは新品じゃないぜ。修復したものだ」


 目の前には渡したときはもはや別物の武器が四つ並べられていた。

 全て光輝いているように見える。


「これが職人技か」


「おいおい、止めてくれ。武器屋ならこれくらい誰でも出来る」


「そうなのか?」


「まぁ俺の方がちょっとばかし手入れが早いがな」


「やっぱりすごいんじゃないか……これで足りるか?」


 俺は懐からいくらかお金を取り出しカウンターの前に置く。


「ああ、足りるよ。毎度あり」


 予備の短剣を購入したかったが勇者達が来てろくに選べなかったな。

 まぁ予備の短剣はまた今度でいいか……。


 俺は勇者達にもうここを出ると伝えるために彼女らのもとへと向かう。


「じゃあ、俺はこれで失礼するよ。あと早く武器を店主に出してきたらどうだ?」


「あ、そうでした。ありがとうございます。また今度パーティーでも組みましょう」


「ああ、今度会ったときな」


 今度会ったとき、それはいつになるのだろうか?


 そんなことを考えながら店を出た。


◆◆◆◆◆◆


 ガタゴトと座っている部分が揺れる。


「これは後で絶対お尻が痛くなるな」


 そう愚痴をこぼしながら町の門へと向かう。


「馬車ならこんなものでしょ?」


 ソフィーが不思議そうに聞いてくるが、分かっていないな。

 この世界で育ったなら知らなくて当然なんだが一度もとの世界の柔らかいシートに座ってしまったら同じことは言えないだろう。

 とにかく今は無心だ。

 無心でいれば揺れも気にならない……はずだ。


 俺がしばらく無心で馬車を走らせていると前方に人影が見えた。


「あれってもしかしてエリカか?」


 大きく手を振っている人影、それは俺達がお世話になった宿屋の看板娘エリカだった。


 俺はそのまま馬車を走らせ、エリカの近くで馬車を止める。


「エリカ、ここで一体どうしたんだ?」


「今日でこの町を離れるんですよね。これ私が作ったので皆さんで食べて下さい」


 それからエリカにバスケットを手渡される。


「中を見ていいか?」


「はいどうぞ」


 中身を見るとハムやら野菜やらが挟んであるサンドイッチのようなものだった。


「おお、これは美味しそうだな」


「お父さんに教わりながら作ったので自信作ですよ」


「ほう、それは益々楽しみだな」


「カズヤさん……」


 エリカは笑顔から一転、暗い表情を浮かべる。


「もう行ってしまうんですね。なんだか寂しくなりそうです」


 確かにここに来てからどのくらい経っただろうか。

 ここに来てからあの宿にはずっとお世話になっている。

 あの宿がこの世界の帰るべき場所だった。

 そして今俺達はそこを旅立とうとしている。


「エリカ……そんな寂しがる必要はないだろ。もう会えないってわけじゃないんだから」


「それもそうですね……他の町に行っても私達のことは忘れないでくださいね」


「そんな忘れるわけないだろ」


「では再度エリンドットにお越しの際はぜひ当宿をご利用下さい」


 エリンドット、そうか今まで気にもしていなかったがそれが町の名前か。


「こちらこそ宜しく頼むよ」


 それからエリカは俺達にペコリとお辞儀をする。


「皆さん、いってらっしゃいませ!」


「「「行ってきます!」」」


 その一言を最後に俺達はこの町、エリンドットを旅立った。


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2018/11/4(新連載)

敗北魔王のFランク冒険者育成計画 ~幼女(ロリ)な魔王がギルド最低ランクの少女を最強に育て上げます! ~

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