森林散策 Ⅰ
窓から太陽の光が容赦なく俺の目元に降り注ぐ。
そのせいか俺は二度寝することも許されなかった。
「もう朝か……」
今日は勇者の護衛依頼二日目、昨日のこともあったので今日はダンジョンではなく町近くの森を散策するというものになっている。
「準備するか……」
昨日夕食をとった後はお風呂に入り、その後は特に何もすることなく夕方少し過ぎくらいには寝てしまった。
この世界に来てからはそんな生活が多い。
元の世界にいたときと比べて生活リズムが早く寝て早く起きるという風に変わってしまっているのだ。
そのためか今はまだ朝早く勇者達の護衛依頼の開始時間よりもずっと前だ。
こういうとき俺は決まってお風呂に入るか朝の市場へと出かける。
「昨日はお風呂だったし、今日は市場かな」
俺は部屋で一人そう呟く。
ソフィーとリーネの二人は俺が起きるときには決まって部屋にいないのだ。
それに寝るときも決まって俺よりも後である。
一体何時に寝て何時に起きているんだろうか?
そう疑問に思ってしまうほど二人の寝ている姿を見たことがない。
それでも朝にはソフィーとリーネの二人は大体市場にいるので今から行けば合流出来るかもしれない。
「そろそろ朝の市場に行くか」
俺は最低限のお金だけを持って宿の部屋から出た。
◆◆◆◆◆◆
「いらっしゃい! 取れたて新鮮の野菜はどうだい!」
「こっちは今朝生みたてのコケトリウスの卵があるぜ!」
「朝の忙しい時間に片手で食べられる肉串焼きはどうだい?」
来ていて毎回思うことだが早朝であるにも関わらず朝の市場はかなりの賑わいっぷりだ。
「こんなに人がいるからもしかしたら知り合いとかに会っちゃうかもな……」
「あ……」
「え……」
この発言がいけなかったのか、いやそもそも市場に来てしまったこと自体がいけなかったのか俺は勇者、それも今一番会ってはいけない人物、幼なじみのあかり、妹の鈴音に市場の通りでばったり会ってしまった。
突然だったためか上手く思考が纏まらない。
そのため俺はしばらく硬直してしまった。
それは相手も同じようでどちらも微動だにしない。
この状態で数分経ち、初めに動き出したのは相手の方だった。
「あ、あなたって昨日私達を助けてくれた冒険者よね?」
思考が上手く纏まらない中突然飛んできた質問に俺は首を縦に振って肯定を返す。
「そうだよね。ところで三森和哉って人聞いたこととかない?」
これはもしかして俺があまりにも二人を見たときの反応が薄かったから俺を三森和哉に良く似た別人だと勘違いしているんじゃないか?
とりあえずここは惚けておくか。
「三森和哉? あんたらの知り合いか?」
「そうだよね知らないよね。知らないならいいんだ、じゃあね……いくら……からって死んだ……生き返る……ないよね」
「だってお兄ちゃん……私のせいで……」
二人はそれだけ言い残すとどこかへと走り去ってしまった。
その頬に涙を流して。
その姿を見た俺は激しく後悔した。
違う……俺は鈴音とあかりのそんな顔が見たかったわけではない。
俺はてっきり俺のいなかった一年間である程度は区切りがついているものだと思っていた。
確かにこの世界で俺に会うまではそうだったのだろう。
だが、俺がこの世界で鈴音とあかりの前に現れたことによって今まで区切りがついていたものが崩れてしまった。
こんなことを言ったら自意識過剰なのかもしれないがもしかしたら二人はもう一度俺に会えると希望を持ってしまったのだろう。そしてその希望は時間が経つほどに風船のように膨れ上がっていった。
それが人違いだったときのことも考えずに。
今の返答で俺はもしかしたらその風船に針をさしてしまったのかもしれない。
自分の今まで通り接して欲しいという願望のために嘘をついて鈴音とあかりを騙し、傷つけた。
「これが俺の望んでいたことなのか……」
それから俺はなにもすることなく来た道を引き返し宿へと戻った。
◆◆◆◆◆◆
「皆、集まってくれ!」
護衛依頼二日目、今日の目的は町近くの森を散策することである。
そんなわけで森の入り口に集まった勇者一行。
勇者達は昨日城には戻らずそれぞれ宿をとっていたみたいだ。
なぜそんなことを知っているかって?
それは俺が泊まっている宿にも数グループ来たから、ただそれだけだ。
それはともかく先ほど皆を呼んだ冒険者が何か言いたそうなので大人しく聞くとしよう。
「勇者、冒険者諸君。今回はこの森でグループごとに散策となる」
この森、よく俺もお世話になっている通称ゴブリンの森は町全体を軽く囲めるほどの面積を誇る自然の大迷宮である。
「それで一つ提案なんだがダンジョンのグループ、二グループで今回の散策専用のグループ、一グループを作らないか?」
これは確かに利にかなっているかもしれない。
もし、ダンジョンでのグループのまま散策したとする。
それでもし一グループ全員が怪我をしたなり、強敵に遭遇なり何かしらの問題にあった場合、戦力を分散させるよりは固めた方が助かる可能性が高い。
一グループに対して護衛につく冒険者が増えるからな。
それにグループを管理するという面でもグループ数が少なくなればその分楽になるだろう。
「確かにそっちの方が良さそうだな。ダンジョンと違って森は広いからな」
「もし何かあった時に人数は多い方が対処の幅が広がるからいいんじゃないか?」
どうやら他の冒険者達もこの案に賛成しているようだ。
「皆、ありがとう。特に反対意見がないようだから今回はこの案で行こうと思う。ではまずそれぞれグループの代表者は前に集まってくれ」
グループの代表者同士でくじ引きをして決めるのか?
そういえばまだグループの代表者とか決めてなかったな。
高崎さんとアメリアはどこだ?
俺はグループメンバーの二人を探すため勇者と冒険者達の集団の外周をぐるりと周る。
「……おーい!」
勇者、冒険者集団の中から聞きなれた声が聞こえる。
その声がした方向を向いてしばらく待っていると集団にいる人の腰くらいの高さの位置からひょっこり顔を出す幼女が一人とそれに連れ回される少女一人が俺の目の前に現れた。
「やっと見つけたですよ! さぁさぁ早く前に出て下さい。カズヤがこのグループのリーダーなんですから」
え!? 俺だったの? リーダー。
まぁ昨日の行動的に俺になってしまうのも仕方ないか。
「分かったよ。ちょっと行ってくる」
それから俺は人の波をかき分けて各グループのリーダーが集まっている方へと向かった。




