護衛依頼 Ⅶ
俺達がダンジョン前の開けた場所までたどり着くと、そこではたくさんの勇者達が待機していた。
俺達より前にいた勇者全員がいるのではないだろうか。
「一体どうしたんです? この集団。さっさとダンジョンに入って欲しいです」
「確かに何してるんだろうな……」
俺がそう言い漏らしたと同じタイミングで俺の横を見知った顔の人が通りかかる。
というか通りかかったのは他のグループに割り振られたソフィーだった。
「あ、丁度いい。おーいソフィー!」
俺の声に反応してかソフィーは俺の方へと顔を向ける。
「あら、カズヤじゃない。どうしたの?」
「ここで会えるなんて偶然だな。ソフィーは割り振られたグループで上手くやってるのか?」
「まぁそれなりにはね」
「おっと、今聞きたいのはそうじゃなかった。ソフィーはこの待機の列の意味って分かるか?」
「待機の列? あぁなるほどね」
「何か分かるのか?」
「ええ、まあね」
「頼む、教えてくれ!」
「教えてってただ一番始めに入ったグループの勇者が怪我をしただけのことよ。それでその怪我をした勇者が帰ってきたものだから他の勇者も怖がってダンジョンに入らないってわけ」
それって……ただ単に怖がっていただけってことか。
だとしたらそんなに問題はないか。
「なんだそれだけだったか……」
「それだけって何よ! それだけって! こっちは説得に苦労してるんだからね!」
まずい、何かソフィーの逆鱗に触れてしまったらしい。
なんとか沈めなければ俺に待っているのは日常生活での不満の告白と心にもない罵声の数々だろう。
俺はアメリアと高崎さんに優しくて仕事が出来るお兄さんというイメージで通っているのだ。
ソフィーに色々言われたら、そのイメージが崩れてしまう。
この二人の前でそれだけは絶対に避けなければ。
「お、俺が悪かったよ。だから落ち着いてくれないか? それと俺達が先にダンジョンに入るよ。それで他の勇者達もダンジョンに入りやすくなるだろ? アメリアと高崎さんもそれでいいか?」
「わたしは問題ないというか寧ろダンジョンに早く入りたかったくらいなので大丈夫です」
「私も皆さんの足を引っ張らないように頑張りますね……」
二人とも了承してくれて良かった。
ただ一つ気になるのが高崎さんにはまだ怯えが残っているという点くらいか。
「高崎さん、一つ聞いていいか?」
「はい?」
「今回のダンジョンが初戦闘なのか?」
「そうと言えばそうですね。実は一度城の兵士の方に連れられて勇者全員でゴブリンを狩りに行ったことがあるのですがそのとき私はゴブリンを狩ることが出来ませんでしたし……」
「それは力が及ばなかったという意味か?」
突然俺と高崎さんの間に沈黙が生まれる。
だがしばらく経った後、途切れ途切れだがしっかりとした自分の言葉で高崎さんは話を始めた。
「……いえ、実は私少し特殊なスキルを持っていまして……」
特殊なスキル……『弱体強化』のことか。
「それで?」
「そのスキルって私が戦闘行為をすると勝手に周りの人達を弱くしてしまうんですよ。それで城の人達と他の勇者達からは事実上戦力外通告を受けてるんです。今回のダンジョンもそのスキルで皆さんの足を引っ張ってしまわないか心配で……」
なるほど、初戦闘で怯えているというよりかは足を引っ張ってしまわないかが不安であまり乗り気じゃなかったんだな。
「心配するな、そんなんじゃ俺の足は引っ張られないよ。アメリアもそうだろ?」
「もちろんですよ。逆にそんなのでわたしの足を引っ張れるなんて思わないで欲しいです」
「皆さん……ありがとうございます」
高崎さんは俺達に深く頭を下げる。
その姿は予想外の返答が来て少し戸惑っているような、それでも受け入れられて嬉しいようなそんな姿をしていた。
頭を上げた際にどことなくすっきりした顔をしていたのは良いことだろう。
「それじゃ俺達がダンジョン一番乗りだ! 行くぞ!」
「はいです!」
「頑張ります!」
俺は二人の返事を聞いた後ダンジョンへと歩を進めた。
◆◆◆◆◆◆
「ゴギャ!」
コボルトが地面へと倒れ、そのまま地面に飲み込まれていく。
「やった……」
「おお! おめでとう。高崎さん。少し休憩するか?」
「ありがとうございます。でも大丈夫です、まだ一体目なので」
流石にまだ疲れてないか。
まぁそうだよな、まだ一体目だからな。
護衛が初めてだからか少し過保護気味になっているようだ。
あまり過保護すぎると鬱陶しいだろうからな。
気をつけなければ。
「カズヤは黙って見守っていることも出来ないのですか? ダメダメですね。わたしを見るですよ! 全身から溢れでてくる余裕のオーラを! これが大人の余裕というやつです」
残念ながら俺にはアメリアの低い背、幼い顔、幼稚な言動その全てが子どもにしか見えない。
まさにキング・オブ・ロリである。
十年先もまったく同じ外見であることが簡単に想像できてしまう。逆にそれ以外想像できないのがアメリアのすごいところだろうか。
そんな哀れな幼女はきっと幼い外見のことを気にしているのだろう。なので誰もがアメリアを子ども扱いしようと俺だけは大人扱いしようじゃないか。
こういうことが後々の信頼に繋がってくるのだ。
それに上手くいけば俺の正体がバレた時の保険にもなる。
そう殺されずに済むのだ。
なかなか頭の良い案ではないだろうか。
「これが大人の余裕ってやつか。さすがだな、アメリア」
「そうでしょう、そうでしょう……って本当にそう思ってますですか?」
「そ、そう思っているに決まっているだろう」
「何か引っ掛かりますですがそういうことにしておいてあげるです。じゃあ次に行きますですよ!」
俺達三人はアメリア指揮の下、先へと進む。
俺達が今いるのは町の近くの洞窟型ダンジョン、通称初心者用ダンジョンである。
そこで地下へと続く階段を二回下りたところなので今は地下二階だろう。
今回が初戦闘の高崎さんの様子だが今は特に大きな問題は発生しておらずおおむね良好といったところか。
先ほどの戦闘を見る限り、初戦闘にしてはなかなかセンスがあるんじゃなかろうか。
ちなみに高崎さんのスキル『弱体強化』のことだが一つ分かったことがある。
それは弱体化の対象が敵にも及ぶということだ。
俺達はもちろん弱体化させられるが、それと同時に敵も弱体化させることが出来る。そしてその弱体化させた分が自身の能力として底上げされるのだ。
これは意外に強いというかチートレベルで強いと言えるスキルだろう。
敵を基本的に高崎さんに倒させながら、危なそうだったら俺とアメリアが補助に入るということを繰り返して早十数回。
あれからさらに二階層下りたところでアメリアと高崎さんと共に休憩を開始した俺は一つ上の階層から剣と剣がぶつかり合うような音を耳で捉えていた。
「なんだ? この音?」
「さぁ? 勇者か誰かが戦闘してるんじゃないです?」
考えてもみて欲しい。
今日初めて本格的に戦闘を行う勇者がこんなに武器を使いこなせるだろうか?
高崎さんを見ている限りそんなことは決してなかった。
だとしたら護衛についている冒険者か?
だがここは初心者用のダンジョンだ。
Dランクの実力があれば余裕で攻略出来る難易度である。
護衛についている冒険者は最低でもCランク。
初心者用のダンジョンでこんなに苦戦するはずがない。
だとしたら上の階層で何かが起こっているのかもしれない。
「ちょっと上の階層が気になるから行ってくる」
「ちょっとわたし達だけでおいていかないで欲しいです」
「ん? アメリアならこのダンジョンは余裕だろ? だから高崎さんを守ってやってくれ!」
「確かにそうなんですけど、ここって薄暗いじゃないですか」
「だから?」
「だから……勇者さんが怖がっているんじゃないかと思いますですよ」
「高崎さん、そうなのか?」
「はい? いえ、私は別にそんなに怖くは……」
「それは嘘です! きっと本心が言えないだけなんです! だからわたし達も連れていって欲しいです」
「ここにいた方が安全だとは思うんだけどな……まぁいいか。行くぞ!」
それから俺はアメリアと高崎さんの二人を引き連れて再び上の階層へと戻った。




