護衛依頼 Ⅰ
「そろそろ大丈夫か……」
俺が宿に籠ってから四日が経ったころ。
籠ってから毎日行っている扉の向こう側の状況を確認する日課が一通り終わり、俺は自らの部屋へと引き返してきた。
「流石にもう大丈夫なんじゃない?」
「いい加減自分で食事とか取りに行って欲しい」
「それは……返す言葉もございません」
今の俺は二人に買い物はおろか食事まで持ってきてもらっている始末。完全に元の世界の自宅警備員状態だ。
もちろんお風呂にも入っていない。
「そう思ってるんならそろそろ部屋から出ない? いや出て! 今すぐ出て!」
俺が今までのことを振り返っているとソフィーがこの四日間の俺の行動に嫌気がさしたのかすごい剣幕で詰め寄ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「今まで十分待ったわよね! さぁ行くわよ。」
「せめて支度だけでも」
「下でご飯食べるだけだから大丈夫よ」
ソフィーは俺の両手を掴み部屋の外へと連れていこうとする。
「いやそれは……だから待ってもらえませんか? いや、待ってください! お願いします、ソフィーさまぁ!」
こうして俺は無理やり部屋の外へとソフィーによって連行された。
かくして無理やり部屋の外へと連れ出され、下の階まで降りた俺は二人と食事の席についていた。
そこにエリカが食事の注文を取りに来る。
「ご注文はどうなされますか? 今回は魚か肉でメニューが別れていますのでどちらかを選んでください」
「そうね、私は当然肉しかないわ!」
「私も肉しかあり得ない」
二人はどうやらというか当然、肉メニューを選んでいた。
俺はどうするか。朝から肉はキツイしな、ここは魚でいこうか。
「じゃあ俺は魚で頼むよ」
俺が注文を言うと、何故かエリカは今まで注文を取るために伏せていた顔を上げてこちらを見てきた。
「ああ! カズヤさんじゃないですか。しばらく姿が見えなかったんですけど何をしていたんですか?」
「えーと、そのだな……」
俺が今もっとも答えにくい質問を笑顔でしてくるなんてエリカはどうやら悪魔らしい。
「部屋に引きこもってたのよ」
俺がどう切り返すか考えている間にエリカの質問に答える者が一人。もちろん俺ではない。
俺の同居人であり、冒険者パーティーのメンバーであるソフィーである。
「へ、へーそうなんですね。冒険者にも時には休みたくなる日もありますよね」
ソフィーの回答を受けて、質問をしたエリカは俺を可哀想な人を見る目で見始めた。
エリカの中で俺はとてつもなく可哀想な人という認識になったようだ。
「とにかく俺は魚で頼むよ」
このなんとも言えない空気に耐えられなかった俺は話を最初に戻すことにした。
「は、はい。分かりました。少々お待ちください」
エリカは俺達の食事を取りに行く途中、チラチラと俺の方を見ていた。それはもう一分間に五回の勢いで俺を見ていた。
冒険者で引きこもりになるのは珍しいので見てしまうのは分かるが本人からすると何故働かないんだ! 働け! と言われている気分になるのでやめて欲しい。
「カズヤ、そういえばあなた今日って例の依頼の説明を受けるんじゃなかった?」
俺がエリカの様子を見ているとソフィーが話しかけてきた。
「依頼の説明?」
「あなたやっぱり忘れてたのね。あれよ、あれ。勇者がどうたらこうたらってやつ」
あれか、そういえば一週後に依頼は開始とか言っていたな。
詳しい日時は聞いてないが明日には依頼がスタートしてしまうので今日中に依頼の説明を受けておかなければいけないだろう。
「今、思い出したよ。確かに今日中に行かなきゃな。食事が終わった後すぐに行くか」
「そうね」
俺達が今後の予定について話していると、エリカが三人分の食事を運んできた。
「お待たせしました! 肉が二つに魚が一つです」
目の前には肉が盛りに盛られたプレートが二つと魚が一匹まるごと乗ったプレートが一つ置かれていた。
「ありがとうエリカ、頂くよ」
「どうぞごゆっくり」
エリカはそう言うと自分の仕事へと戻っていった。
それから俺達は今後の予定について話ながら食事を取ったのだった。
◆◆◆◆◆◆
「さっさと開けなさいよ」
「いやでもな、心の準備がまだ……」
今現在ソフィーと俺が言い争っている場所、それはギルドの扉の手前。俺が引きこもる原因となった出来事があった場所である。
「開けないなら私が開ける」
いつまで経っても扉を開けない俺に痺れを切らしたのか、今まで黙って後ろをついてきていたリーネが扉を開けようと前に出てきた。
「ちょ、リーネ! 待ってくれ!」
「問答無用」
直後、バタンッと音を立てて扉は開く。
バタンッと扉が強く開いた音は中にいる人達を俺達に注目させるには十分だった。
ギルド内にいる人のほとんどが俺達に注目しているこの状況の中、俺は一人緊張していた。またこの間と同じことになるのではないだろうか、次は逃げ切れるだろうか。そんなことばかりが頭の中を巡っていた。
だがいつまで経っても心配していたことになることはなかった。俺がそのことに疑問に思っていると一人の見慣れた受付嬢がこちらへと歩いてきた。
「ようこそ、いらっしゃいました。カズヤ様。先日の件は申し訳ございませんでした」
「おうエリー久しぶりだな。それよりも先日の件って?」
「はい、ギルドの冒険者が行き過ぎた行動をしていたときのことです。あのときは私達がいたにも関わらず止めに入れず申し訳ございませんでした」
エリーはそのまま頭を深く下げる。
先日の件って俺が冒険者達に金を貸してくれと追い回されたときのことか。
「いや、気にしないでくれ。これは俺が撒いた種だ。俺さえ気をつけていればそもそもあんなことは起こらなかったんだからな、悪いのは俺だ。申し訳ない……」
そう、元々俺が誰にも話さなければ何も起こらなかった。
完全に俺のミスである。むしろギルド内で騒ぎを起こした俺の方が謝りたいくらいだ。
「私達は謝られることなんてされてないですよ」
「俺が謝りたいだけなんだ。謝罪を受け取って欲しい。そっちの謝罪も受けるからこれでおあいこってことでどうだ?」
「分かりました。それで今回はどのようなご用件で?」
「ああ、ちょっとギルドマスターに用があってな。今会うことって出来るか?」
「はい、大丈夫ですよ。私について来てください」
俺達三人はエリー案内の下、ギルドマスターのところへと向かった。




