襲来 Ⅳ
「おい、さっきの岩はお前の魔法か?」
「いや、それよりもあれを受け止めるなんて人間じゃねぇよ。何かのスキルなのか?」
周りではガヤガヤと少し騒がしい。俺は先ほどの戦闘に関することで質問攻めにあっていた。もちろん答える気などはない。自分の手の内を晒していることになるからな。それに……。
「ちょっと待ってくれ。行かないといけないところがあるんだ」
そう、行かなければいけないところ、それはサイクロプス討伐のグループのもとである。
このオークの強さで行けば、同じく一体だけはぐれていた、あちら側のサイクロプスも通常とは違うのかもしれない。
とにかく早く行って無事を確認したい。
「おう、そうか気をつけろよ!」
冒険者は案外あっさりと解放してくれた。もっと早くこうすれば良かった。
「それじゃ行ってくるよ」
それから俺は反対側にいるサイクロプス討伐のグループの元へと向かった。
◆◆◆◆◆◆
「キャァァァァ!」
これから向かおうとしている先から少女の悲鳴が聞こえる。というかその声は……。
「リーネ!?」
そう、その声はまさにリーネ本人の声。あの少しヒヤッとした冷たさの鋭さのある声を聞き間違えることはない。
俺は走る速度をさらに上げる。そして見えてきた光景に目を疑った。俺が見た光景、それはリーネがうつ伏せで地面に倒れており、その横でサイクロプスがとどめの一撃を入れようとしている光景だった。
「間に合えぇぇぇ!」
この状況を不味いと判断した俺は自分のステータスの全力を使ってリーネの元へと向かう。
そのお陰かサイクロプスが腕を振り下ろしきる前にリーネの元へとたどり着いた。
それと同時に振り下ろされたサイクロプスの腕を受け止める。
「おい、リーネ大丈夫か?」
「なんで……?」
俺の声を聞いたリーネはひどく驚いた様子で俺の顔を見る。
「そんなの決まっているだろう。仲間のピンチだからだ」
俺はそう答えた後、サイクロプスの腕をはねのけ、サイクロプスの方へと顔を向けた。
「仲間を随分と可愛がってくれたようだな」
「ギョエェ!」
サイクロプスは新しい遊び道具がきたとでも思っているのかとても上機嫌である。
「お返しにお前を可愛がって殺るよ」
挨拶代わりにまずはサイクロプスの腹部に一発拳を叩き込む。
「ギョエ!?」
「おい、どうした? お前もかかってこいよ!」
サイクロプスは今の一発のダメージをまだ引きずっているようで中々攻撃をしてこない。
「そっちから来ないならこっちから行くぞ」
続けてサイクロプスの腹部を殴る。
「ギョエェ!」
「ギョエェェ!」
何度も何度も容赦なく同じ場所に拳を叩き込む。
俺は今仲間を傷つけられて虫の居所が悪い。その仇が目の前にいるのだから、力が入ってしまうのも必然のことだろう。
「ギョエェェェェ!」
サイクロプスは俺の攻撃に耐えられなかったのか、ついに地面へと倒れた。
倒れたサイクロプスを見てみると手や足がピクピクと痙攣していた。俺はその状態のサイクロプスの顔を足で踏みつける。
「このまま踏み潰されたいか?」
踏みつけられたサイクロプスは先ほどまでの余裕は一切なく、歯をギリギリと鳴らして今の状態に耐えていた。
「さっきまでの余裕はどうしたんだ?」
「ギョエ……」
我ながら何故こんなにもイライラしているのか分からない。
「なあ答えろよ!」
自分でも分かる、今の自分はきっと普通じゃない。だがそんなことはどうでもいい。今大事なのはリーネを傷つけたのは目の前にいるコイツだと言うことだ。
魔物を相手にするのだから傷つけられて当然かもしれない。コイツも生きるために仕方なかったのかもしれない。でもだからといって仲間が傷ついて良い理由にはならない。
出来れば傷ついて欲しくない。そんなことを思うのは自分勝手なことだろうが誰もが思うことだ。
その自分勝手で自分の大事なものが守れるなら喜んでそうしよう。最低だって構わない。ただ助けたい。
生前幼なじみと妹を助けたように自分の命を投げうってでもだ。それほどまでにリーネ、ソフィーは俺の中では大切な存在になっていたようだ。
「ギョエェェェェ!」
サイクロプスは地面に突っ伏した状態のまま、突然叫びだした。
「ようやくやる気になったか」
普段は相手が本気の力が出せていないままの方が倒す際には都合が良いのだが、今回に限っては相手が本気を出してくれたことに面倒と思うよりも寧ろ嬉しさを感じていた。
やはりある程度強くないと仇をとったことにはならないからな。
「ギョエェ!」
俺が内心喜んでいると足をサイクロプスに力強く掴まれる。
「……!」
このままでは抜け出せなくなると思った俺は掴まれた足を振りほどき後方へと退避した。
「さっきまでと力の強さが全く違うな」
これはこのサイクロプス固有の能力なのか?
俺は目の前にいるサイクロプスの様子を気にしながら相手のステータスを覗き見る。
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名前: サイクロプス(変異種)
種族: 巨人族
Lv.48
HP : 940/3540
MP : 0/0
ATK : 1232 (スキル効果)
DEF : 510
MATK: 112
MDEF: 500
DEX : 214
スキル:『馬鹿力』、『火事場の馬鹿力』
称号 : 『同族殺し』
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俺が相手のステータスを確認しているとスキルの欄に同じようなスキルが二つあるのを発見した。
『馬鹿力』・・・常時発動中。自分のATKとMATKを二倍にする。
『火事場の馬鹿力』・・・自分のHPが最大値の三割をきったときに発動。自分のATKとMATKを三倍にする。
どうやらこれが力が上がった主な要因らしい。
常時二倍されていて、特定の条件下でそれがさらに三倍される。まさにチートと言えよう。
──立ち塞がるものは力ずくで排除する。
今までそれがこのサイクロプスの考え方だったに違いない。だから今回もその考え方で戦ったのだろう。
特定の条件下で実際にATKだけを見れば、ドラゴンのステータスよりも遥かに上回っている。
ドラゴン以上のステータスがあれば簡単に冒険者の一人や二人は捻り潰せるだろう。それほどまでの脅威なのだ。
だがそれは俺には全く関係がないことだ。いくら力が強くてもダメージを与えられなければ、結局の所意味などない。
身動きを封じられないようにはしないといけないが、いざとなれば『実体化』を解除してしまえば良い。そうした場合、俺が人間ではないと周りにバレてしまうがそのときはそのときだ。
他の町へ移り住むとしよう。一先ずはコイツを倒すことだけを考えよう。
俺は既に地面から起き上がっていたサイクロプスを見る。
「お前結構力強かったんだな」
「ギョエギョエ」
先ほどまで地面に突っ伏していたサイクロプスだったが、退避したことで俺がこのサイクロプスに恐れをなして逃げ出したとでも思ったのか目の前のサイクロプスは再び余裕そうな表情へと戻った。
人をなめるにもほどがある。もう少し警戒していれば、もっと上手く立ち回れただろうに。所詮魔物ということか。
俺はいつも使っている二本のサバイバルナイフを両手に実体化させた。
「やっぱりこれが一番しっくりくるな」
両手のナイフを見て一人ごちる。とにかく今は早く決着をつけよう。リーネの容態も気になる。
相手のHPは残り三割だ。相手に掴まれなければ良いだけだ、大丈夫なんとかなる。
俺は数秒、深呼吸をする。そして次の瞬間にはサイクロプスの目の前へと移動した。これもステータスの高さがなせる技である。
「ギョエ?」
俺が突然現れたことに驚いているようだが隙を見せた時点でもう詰みだ。
俺は驚き竦むサイクロプスの両手をナイフで斬り落とす。
「ギョエェェェェ!」
それから跳躍し、サイクロプスの肩を踏み台にしてさらに高く跳躍する。
高く跳んだ俺は空中でくるっと体の向きを百八十度変えてサイクロプスの背中へと向き、両手に持ったナイフをサイクロプスの肩口突き立てる。そしてナイフを肩口に突き刺したまま重力に身を任せて下へとナイフで背中をなぞった。
「ギョエェェェェェェ!」
サイクロプスは今までで一番大きな声を上げたが、その声を最後に声を上げることはなくなった。
元々サイクロプスだった肉の塊が地面へと倒れる。
俺はそれを見届けた後、すぐさまリーネの元へと向かった。




