襲来 Ⅱ
俺達は南側を倒し終えた後、北側へと向かっていた。
西と東側の冒険者達も魔物の数が少なかったためか既に倒し終えており、北側へと合流したようだ。
「あなた達は良いわね」
「何がだ?」
「……?」
移動中ソフィーが突然俺とリーネに話しかけてきた。
「さっきの戦いのことよ」
「ああ、予定より早く終わったことか?」
「それもそうだけど違うわよ。私が言いたいのはあなた達だけ暴れられて良いわねってことよ」
どうやらソフィーも暴れたかったらしい。
「だったら何で回復系スキルなんて取ったんだ?」
「それは……別にいいじゃない」
「そうか……」
ここはあまり深く聞かない方がいいか。ソフィーなりにいろいろ考えているのだろう。
返答に間があいてしまい俺とソフィーの間に気まずい空気が流れる。だがそれも長くは続かず、ソフィーの一言によって断ち切られた。
「ごめんなさい、本当はこのスキルを選んだことで本当みんなの役に立っているのか不安になったの。一時の迷いみたいなものかしらね。今の話は忘れてちょうだい」
一時の迷いか。確かに戦闘系スキルが一つもないと自分は誰かが傷ついたときにしか役に立っていないのではないかという不安や悩みがあるのかもしれない。でも……。
「回復職がいるから安心して戦えるんだよな」
「……!」
どうやら心の声が漏れてしまったようだ。なんというか恥ずかしい。
「今のはあれだ、独り言だから気にしないでくれ」
俺は何に弁解しているのか理解せずに慌てて弁解をする。
「……私、そんなことにも気づかなかったなんてね。そう考えると今まで不安がっていたのが馬鹿みたいだわ。そのなんというかありがとう、カズヤ」
ソフィーは吹っ切れたのか思い詰めた様子から少し安心したような何とも言えない表情になっていた。
「ただの独り言なんだけどな」
「それでもよ。私がお礼を言いたいだけだから気にしないでちょうだい」
「なら素直に受け取っておくよ」
「そうよ、受け取っておきなさい」
ソフィーはそれだけ言うとさっさと前に行ってしまった。
残された俺はリーネに顔を向けるがやれやれと首を振られるだけだった。
「一体なんだっていうんだ?」
俺の呟きは周りの声で誰にも聞こえることはなく、俺達を含めた南側の冒険者達は加勢のため町の北側へと向かった。
◆◆◆◆◆◆
「ブモッ!」
オークが持っているこん棒を下に振り下ろす。
「グッ……」
冒険者の男はなんとかオークが振り下ろしたこん棒を自らの剣で受け流した。だがオークの攻撃はそれだけで止まるはずもなく、振り下ろしたこん棒を次は横に払ってくる。
「ブモウ!」
「ぐわぁぁ!」
こん棒を受け流したときの反動から咄嗟に反応出来なかった冒険者の男は攻撃をもろに受けてしまい、後方へと吹き飛ばされた。
北側へとついた俺達の目の前ではそのような光景ばかりが繰り広げられていた。
はっきり言って良い状況だとは言えない。むしろ今にも負けそうな悪い状況である。ただ一人を除いては……。
「おりゃぁ!」
「ブモッ!」
男の横凪ぎに払った剣が近くにいたオークの体を真っ二つにする。
「おら、この程度かよ! もっとかかってきな!」
「ブモッ!」
「ブモッ!」
男のその挑発に乗って二体のオークが同時に襲いかかる。
「隙が多いんだよな」
男はそのまま前へと走り、すれ違い様に二体のオークの腹を斬りつけた。
「オークはこんなものだったかね」
剣についた血を払ったその男、ガンゼフは再び他の獲物の元へと移動した。
「流石は元Sランク冒険者だな」
他の冒険者との明らかに格が違う。そう思わせるほどの剣さばき、体の動かし方はまさに戦場に血を求めてやって来た鬼のようだった。
「流石は鬼神ガンゼフというだけあるのじゃ」
俺の隣にはいつの間にか優しそうな爺さんが並んでいた。
この人も冒険者なのだろうか?
「それはガンゼフさんの二つ名みたいなものか?」
「ああ、冒険者時代のな。あの頃はもっと顔が怖かったんじゃよ」
今も十分に怖いがそれ以上となるとかなり気になる。
「そりゃ、昔の顔が見てみたいな……ってそれよりも俺達は南側から加勢に来たんだが何をすればいい?」
「おお! そうか、南側の魔物はもう片付いたのじゃな。ならそうだな。群れからはぐれている魔物を狩って貰いたいんじゃが出来るかのう」
「群れからはぐれているとなるとあそこのオークとか、後はそこのサイクロプスとかか?」
俺は一体だけ離れた場所にいる魔物を指差して確認する。
「おお、そうじゃ。数人だとお主らではキツいと思うからもっと人数を増やして挑むんじゃよ」
「分かったよ、助言ありがとうな……えっと」
「ウィリアムじゃよ」
「ありがとう、ウィリアムさん」
それから南側で指揮をとっていた冒険者にこの事を話しに行き、俺達は南側のグループを二つに分けてオークとサイクロプスに挑むこととなった。
「お前らぁ! 気を抜くんじゃねぇぞ!」
「「「「おぉぉ!」」」」
グループ分けでは俺だけがオーク討伐のグループに入り、ソフィーとリーネの二人がサイクロプス討伐のグループとグループが分かれる形となってしまった。
「ソフィー、リーネ!」
俺はサイクロプス討伐のグループに向かおうとしていた二人を呼び止める。
「……? 何よ」
「……?」
「二人とも無理だと思ったら、逃げて良いからな。それか助けを呼べよ。特にリーネ」
「何だと思ったら……もしかして心配してくれているの?」
「そんなの当たり前だろ。仲間なんだから」
「私なら大丈夫。ソフィーがついてるから」
「そうよ、私の回復でどんな怪我も治してみせるわ!」
「なら良いんだが」
「大丈夫よ、私達のことはいいからカズヤ、あなたはもっと自分の心配しなさいよ」
本当に大丈夫なんだろうか?
まぁあの二人が大丈夫だって言うんだったら心配ないのかもしれない。
「二人とも気を抜くんじゃないぞ」
俺は最後にその一言だけを言い残してこの場を後にした。
◆◆◆◆◆◆
「俺達は今からあそこにいるオークの討伐を行うわけだが、やつはCランク相当の魔物だ。こちらが大人数だからといって気を抜かないように頼む」
ある冒険者がオーク討伐グループの皆に注意を促す。
「よし、討伐開始だ!」
その掛け声とともに俺を含めた前衛が前へと走り出した。
「まずはどんな行動をしてくるかだな」
走りながらオークの様子を伺っていると、オークが俺達に気づいたようでこちらに向かってきた。
「そりゃ大人数で足音たてたらバレるか」
背後からの不意打ちを少し狙っていたのだが失敗に終わったようだ。
「ブモォォォォ!」
オークは走りながら手に持ったこん棒を振り回してきた。
「うわぁぁ!」
「ぐぁぁ!」
「ぐはっ!」
こん棒の振る範囲が大きく、回避行動がとれなかった者が次々とこん棒の餌食になっていく。
元々十一人と少ない人数だったのだが、今の一瞬でさらに三人が戦闘不能になり残り九人となってしまった。
「これは不味いかもな」
このオークももちろんそうであるが俺が心配しているのは向こうで戦っているサイクロプスの討伐グループのことだ。
この調子だと向こうでもオークと同じもしくはそれ以上の強さだろう。
そんな魔物と戦ったら今の二人では少し危ないかもしれない。一刻も早くオークを倒して加勢に行かなければ。
俺は自分の拳を強く握りしめて息を荒くしているオークを睨み付ける。
「ブモッ!」
「やるならかかってこいよ」
オークと俺はしばらく間、見つめ合う。先に動いたのはオークだった。オークは一直線に俺へと向かってくる。
「おい、そこの早く逃げろ!」
討伐グループの一人である男が俺に逃げるように指示を出すのと同時に走ってきたオークはそのまま手に持っているこん棒を俺へと振り下ろした。
「ブモォォ!」
だがそのこん棒は俺に届くことはない。
何故なら、オークには既にこん棒を持っていた腕が無かったためだ。振り下ろされるタイミングで俺が実体化したナイフを使って切り落とした。今頃オークの頭には疑問が浮かんでいることだろう。何故怪我一つしていないんだと。
「おい、そこの。今のは一体……」
「今はそんなことよりも目の前のこいつの討伐の方が優先だ」
俺は再びオークへと顔を向ける。
オークはまだ戦意を失っていなかった。むしろ目には怒りの炎が宿っており、完全に俺を標的にしていた。
「まだやる気満々か」
「ブモォォォォ!」
オークの体の周りからは赤いオーラのようなものが溢れだす。
どうやら、あちらも本気でくるようだ。
他の冒険者はこの光景を見て我が先にと逃げ出そうとしている。そんな中、俺とオークの戦いの火蓋が切って落とされた。




