城下町散策
「これなんていいんじゃない?」
そう言ってソフィーはガントレットをリーネの手に嵌める。
「ちょっと軽すぎる」
「おーい武器はもう決まったのか?」
「もうちょっと選ばせてちょうだい!」
そうかまだか。でも自分の命を預けるものだからな。存分に悩むといい。
でもかれこれ一時間はここにいるんだよな。今日中に決まるのだろうか。
「あ、これなんて重そうでいいんじゃない? リーネ」
「これは丁度良い重さで使いやすいかも。これにする」
リーネの武器はどうやら決まったようだ。
それにしても武器屋でキャッキャする少女二人か。なんだか複雑な気分である。
「さてと、武器も決まったことだしそろそろ……」
「次は私の武器を探すわよ! リーネも手伝って」
俺が武器屋を出ようとしたときソフィーがそう言い放った。
てっきり自分のは選んだものだと思ったんだがそうではなかったらしい。結局俺は大人しくソフィーが武器を選ぶまで外の景色を見たり、店内の武器を見て時間を潰した。
合計何時間かかったのかは聞かない方が幸せだと思う。とにかく俺はこのとき、女性が買い物に費やす時間の恐ろしさというのを身をもって体験した。
「カズヤは行きたい場所ってある?」
ソフィーは武器屋での買い物が終わった後俺に次の行き先を尋ねた。
俺達は行きたい場所にそれぞれ順番に回っている。ソフィー、リーネときて次は俺の番というわけだ。
「そうだな、やっぱりあれだよな……」
そう異世界に来たらというかもう一度人生が与えられたのなら一度はやってみたいこと。それは旅である。
自らの進みたい方向に進み、ときには戻り、人々と交流をして親交を深める。生前憧れてはいたが経済的、家庭的な理由で出来ずにいた。まぁ元の世界ではそれを抜きにしてもなかなか難しいことだったが。
一方でこの世界はどうだろうか?ビルなど一つもない豊かな大自然、ときにはモンスターに襲われ、ときには仲間達と笑いあう。
俺はもしかしたら旅をするためにこの世界に来たのではないだろうか。
「あれって何よ?」
ソフィーが言葉の続きを促すように俺に問いかける。
おっといけない自分の世界に入っていたようだ。俺が言いたいのはつまり……。
「馬車を見に行きたい!」
そう旅の全ての基本馬車だ。歩きも良いがそれだと手に持てる荷物に限りが出てくる。
一方馬車ではもちろん制限はあるが歩きで行くよりも多くの荷物を積み込めるだろう。俺は旅で荷物に煩わされたくないのだ。
──旅をしよう!
だがその前に馬車を見なければ何も始まらない。そうこの馬車を見るということは旅をするための準備なのだ。
「馬車って何のために。行商人でもやるの?」
まったくソフィーは分かっていないな。
「それは旅をするために決まっているだろう。ちなみにこの近くに馬車を売っているところって知らないか?」
「この辺りの土地のことは分からないわ。それよりも旅って中々良い考えじゃない」
「私も興味がある」
「生活が安定してきたらここから出て旅とかしようと思っているんだよ。二人もどうだ? 一緒に行かないか?」
「そうね、行く宛もないし、だからといってこのまま町に残るのもつまらないしね。私はついていくわ!」
「私もこの世界をもっと見てまわりたい」
二人とも俺が考えていたことに賛同してくれそうで良かった。
賛同してくれなかったら一人で旅に出ることになっていたからな。これで三人旅か賑やかになりそうだ。
「一先ず馬車を見に行こうか!」
俺達は馬車の売っている場所を探すため近くの人に聞いて回った。そして馬車は商人ギルドで売っているらしいという情報を得て商人ギルドへと向かった。
「すみませーん」
「はい、本日はどのような御用件でございますか?」
どうやらこの女性が対応してくれるようだ。
「えーと馬車を見たいんだけど……」
その言葉を聞いた途端、受付の女性が俺達の身なりを確認してくる。
「申し訳ございませんが、予算はいかほどで考えていらっしゃいますか?」
なんだ? いきなり態度が変わったが。まぁそれは一旦置いておくとして馬車の相場すら分からないんだが。相場を聞いてみるか。
「馬車って平均でどのくらいするんだ?」
「そうですね、安いものから高いものの差が激しいので平均は分かりませんが、一番安いもので三百万コルク、高いもので三千万コルクはしますね」
げっ! そんなにするのか。それだけあればしばらく何もしなくても暮らせるぞ。まさかこんなに馬車が高いものだったなんて。でもそうだな、今後のためにもどんなものかくらいは見ておきたいな。
「すまない、そんなにするとは思わなくてな。購入は無理だが見せてもらうことって出来るか?」
「分かりました、見ること自体に問題はありませんので。こちらにどうぞ」
受付の女性が俺達を先導して目的の場所へと移動を開始した。
馬車を見るためには一旦商人ギルドを出て裏側に回り込む必要があるらしい。
「つきました。こちらが馬車倉庫になります」
俺達の目の前には一人用や大人数用、幌馬車や箱型の馬車など様々な種類の馬車が俺達を挟んで二列でずらっと並んでいた。
「これはすごいな!」
「こちらにあるもの全ての中からお選びいただけます」
「あ、あれなんて良さそうじゃない?」
ソフィーが手前にある箱形四人用の馬車を指差す。
「あちらは馬車本体だけで千二百万コルクはしますね」
今じゃとても手が出ない金額だ。
「あれは?」
続いてリーネが四人乗りの幌馬車を指差した。
「あちらは八百万コルクですね」
どれもこれも高い。
「一番安いのってどれなんだ?」
「そうですね。あちらのものでしょうか」
そういって受付の女性が指差したのは屋根のない辛うじて四人は乗れそうなサイズの年季が入った馬車だった。
「いくらなんだ?」
「はい、二百八十万コルクです」
なるほどな。今の俺では手が届かないということは把握できた。冒険者ランクを上げていつか買えるようになりたいものである。一先ず今日のところは引き上げるか。
「今日はありがとう、また来るよ」
「はい、またのお越しをお待ちしています」
「良いものを見せてもらったわ!」
「ありがとう」
今のところ馬車は夢のまた夢だがいつかきっと手に入れる。
俺は馬車を手に入れるという決意を新たに商人ギルドを後にした。
◆◆◆◆◆◆
「あれ、今度はどうしたんですか?」
「いやちょっとな」
俺達は町を回った後、やることがないというのと時間がまだあるという事で再び冒険者ギルドまで戻ってきていた。資金稼ぎである。
「やることがなくなったのよ」
「暇なの」
「そうですね……なら……ってそういえばドラゴンのことは知っていますか?」
「もちろん知っているよ」
この前倒したからな。あれは中々手強かった。
「そのドラゴンがついこの間町の近くの森の中で発見されたんですよ」
「へー」
「なので森の調査依頼を冒険者の方々に受けてもらっていたのですが、それによるとドラゴンが何者かに討伐されていたらしいんですよ。私個人としては最強の生物とさえ言われているドラゴンが討伐されているのが気になりましてね。何か心当たりがあることはないかなとカズヤ様達に聞いた次第です」
それってもしかしてあのドラゴンのことか?いやそれで何で俺に聞くんだ?もしかして疑われているのか。
「い、いや何も知らないな」
「そうですか。カズヤさんならよくこの町近くの森の中での依頼を受けていらっしゃるので知っているかと思ったんですが」
「なんか悪いな、力になれなくて」
なんだただ聞いていただけか。疑われていなくて少し安心した。それにしても言える訳がない。
俺がドラゴンを倒してしまったなんて……もし言ってしまったらどうなることやら、とにかく面倒なことには変わりはない。
「いえただの私の興味なので気にしないで下さい。でも、もし何か分かったら私に教えて下さいね」
「お、おう。分かったよ」
エリーには悪いが今後も話すことはないだろう。
これは俺達の平穏な生活を守るために必要なことなのだ。
「あ、エリー。ゴブリンの依頼を受けたいんだが今大丈夫か?」
その後、比較的に簡単に出来る依頼を受けて俺達はギルドを後にした。




