3:襲撃とお母さんの力
転がる。戻される。転がる。戻される。転がる。戻される。
そういったことしかすることがない。それはそうだ、ここにあるのは岩肌や骨ばかり。現代社会にあったレジャーなものなど何もない。こうしているととても時間が長く感じる。
最近は動くのも慣れてきて巣の中でならほぼ自由に動けるようになった。だがそれだけではダメなのだ。
暇や退屈は、人間を殺す。
その言葉のとおりやることがなくなった私はどうしたものかと頭の中で考えるばかり。いやまぁ、人間じゃないんですけど、精神は元人間なんでそこは多めに見てもらいたい。
しかしこの場は本当にやることがない。お母さんが持ってきた餌はもう死んでおり、痛む前にお母さん自身が食べてしまう。それでも備蓄を少し残しているのは私が生まれた時の為なのだろうか?
一角獣やケロベロスやら前世では食べることもできない異界の食べ物。正直食べるのは怖くもあり、楽しみでもある。一体どんな味がするのだろうか。あぁ、早く孵らないかな。
――ころころ、ころころ。
そうしていつもどおり私がころころする日々は過ぎていく――。
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辺りが真っ暗になった頃、お母さんが唸り声を上げる。こんなことは初めてで、寄り添っていてくれた私から離れ巣の一番高いところへ登っていくお母さん。
これは一体何? 何かが起きる?
お母さんは険しい顔をして周辺を見渡しているようです。初めて見るお母さんの顔。それは私を不安にさせるには十分でした。
そしてそれは唐突に起きました。衝撃。体を走る鈍い痛み。
痛い…?痛いっ!?
それは卵になってから初めて感じた感覚。金属質な何かが私の殻を締め上げる。これは鎖にトラバサミのようなものが付いてる感じなの?殻は今のところ無事だけどそれでもズキズキとした痛みが私を襲う。そして私はズルズルと引きずられていく――。
狙いは私!?
自分でも少し抵抗するがこの状態では動けない。転がるぐらいしかできない私は絡まってしまった鎖をどうすることもできない。目の前にいたお母さんがあまりにも強大すぎて自分のことをあまりにも適当に考えすぎていた。
この世界で「竜の卵」というものが高価で取引されてる可能性だってあったのに、迂闊だった。
どうすれば!どうすれば!どうすればいい!?この状況、助かるには!?
そう考えてもなにも起きない。ズルズルと引きずられる。
嫌だ!私はまだ何も出来てない!!こんな状況、まず普通は起こりえない。だからこそ、今しかない『今』をめいいっぱい堪能しようと思っていた。空だって飛んでみたかったし、もしかしたらブレスだって吐けるようになるかも知れない。
私はまだ、死にたくない!!
近くにあった骨で卵を支えて鎖の力に対抗する。骨がみきみきと悲鳴を上げる。
これで無理だったら私にはどうすることも出来ない。ここより先に骨はない。正念場だ。
そう思って全力で抵抗する。それからは長かったのか、短かったのか、必死に抵抗しているうちに時間間隔はとうに消え果てていた。そしてついに骨がボキッ!っと音を立てる。
ダメだ!持っていかれる!!
そう覚悟した私に襲って来たのは緩んだ鎖の感じ。そして轟音。巣の外の森が焼け、木々が次々と薙ぎ倒されている。
再び鎖が引っ張られた時、私の前にお母さんが降り立つ。鎖を踏みつけ私が持っていかれないようにして。
ガチャン!ガチャン!!
そういった鎖の音が聞こえるがびくともしない。そしてソレは急に放たれた。一筋の閃光。見るものを魅了する美しい光の奔流。そして直後に襲う爆音。
目を開けると巣の外にあった木々は吹き飛ばされ、火は徐々に消えつつあった。そして鎖の先は溶けてなくなっていた。
私が驚いているとお母さんは鎖を砕き、私の殻を舐め、いつもの定位置に戻します。そして抱き抱え、私の汚れを取るように撫でます。
襲撃があったものの、お母さんがいる限り私は安心できるのかもしれない。そう強く思いながら眠りにつきました。