2:卵の日常
あれから数日――。
私は目の前のドラゴンに抱かれ、心地よい日々を過ごしてます。
わかったことその壱――。
どうやらこのドラゴンはお母さん(?)のようです。私の汚れをとってくれたり、抱いて温めてくれます。あれだけ焦っていてなんですが抱かれると、とても気持ちいい。こうなんていうんでしょうか、春の陽気を浴びてる気分になります。
わかったことその弐――。
見えてる視点は卵の外。だけど中にいる私の目を通して見ているわけではないみたいです。卵は殻に包まれてますし、透明な殻なのかな?とか思ったけど、自分の体が見えないのはおかしいと推測。要考察。
わかったことその参――。
どうやら簡単にですが動けるみたいです。お母さんがいない間にコロコロと転がってみました。そういえば私、飛び跳ねてましたし、頑張れば跳ねれるんですかね?ただ意外と難しいです。視点がズレるというか、人だった頃と感覚が違うみたいです。
結論――。
やっぱり私、人じゃなくなってるんですね!
いや、わかってたんですよ。だってドラゴンとか目の前に現れて!?こんなの普通じゃありえないじゃないですか。でもですね、やっぱり空想のことを直視するとですね、逃避したくなるじゃないですか。
だってドラゴンですよ?ドラゴン!そんなものがふつーの会社に居た、ふつーの私の前に現れられてもどうしろって言うんですよ!いやホントに!!
こんな問答を数日に渡って繰り返した結果――。
私は開き直った。
だって私が知ってる現実にドラゴンなんて実在してないし!どう考えても異世界!最近流行りモノの異世界転生って奴ですよ!!あ、私まだ生まれてないですけどね!!これって異世界転生っていうのかな?それとも異世界転卵とでもいうのかな?
よくわからないけど、なってしまったものはしょうがない。今を存分に楽もう。前世では仕事ぐらいしかやることなかったし、人間じゃないっぽいけど色々やれたらいいな。そう思いつつころころと転がって巣を徘徊する。
巣にはよくわからないものが一杯ある。骨とか、骨とか、骨とか。その骨の形状も見たことないものが多い。角が生えた犬っぽいのとか、明らかに大きい猫っぽいのとかほんといろいろ。他にも剣とか指輪とか小物も多い。こういうものがあるってことは人が存在するという証拠だと思えると安心する。人じゃなくてそういう道具を使う種族なのかもしれないけど、そこは考えない。ポジティブに行くのが一番です。
幸い人骨はない。敵対してるわけではない可能性が高い。
大丈夫、大丈夫。不安になんかなってない。でもドラゴンの大きさからすると人なんて丸飲みできそ…、これ以上考えるのはやめよう。
そんなことを思いつつころころ転がってるとお母さんが帰ってきた。帰ってくると毎回私を見て嘆息のように息を吐く。
この子はまたうろちょろして――。
そんな幻聴が聞こえた気がしました。そうは言われてもやることはないですし。お母さんはすぐに私を巣の中心に戻します。
多分、巣の外に出ないようにするためだと思います。大丈夫です、お母さん。さすがに卵のまま外の世界に行こうとは思いません。
そういえばお母さんは私に前世の意思が宿ったこと気づいているんだろうか?そのあたりはわからない。前世の記憶が宿る前の卵の状態もわからないし、私がどうして卵になったのかもわかっていない。
考えてもわからないことはわからないし、仕方ない。今できることは、孵化をして自由に動けるようになることをただただ、待つだけだ。