チーズケーキと吸血鬼
「やっべ、忘れてた」
「どうしたんですの?」
昨日は家の掃除やらなんやらで疲れたので、はやめに寝た。
今は朝、みんなが起きて騒がしくなる頃だ。
で、昨日忘れてたことがある。
「ギルドいかねぇと。依頼報告してないわ。」
唐辛子の依頼の報告を忘れていた。
まぁ、期限は3日ぐらいあったし、明日でもセーフなんだけど。
ということで、冒険者ギルドに出発。
ギルドに到着。今日は依頼の報告と、ソニアの冒険者登録をする。依頼の受注はお休みして、いろいろと用事を済ませようと思う。
恙無く報告が終わった。唐辛子1キロで5銀貨になったよ。ちょろすぎ。
ソニアの冒険者登録は、俺のパーティメンバーってことにして、試験は免除。階級は10級からになった。
さて、帰りに元いた宿に挨拶して、家で昼飯にしよう。
今日の昼飯は…
「ソニア、なんか食いたいものあるか?」
「なにか、ですの?そうですわね、できればお肉をいただきたいのですけれど。」
うん、肉か。
ステーキでも焼いてみるかな?
どうせだし、庭で焼いて食べようか。
「今日はバーベキューだな。」
「ばーべきゅ、ですの?」
ああ、こっちにはバーベキューはないのかな?ソニアが知らないだけか?
庭に背の高いバーベキューコンロを置いて、炭を入れて火をつける。
外からは塀で庭が見えないので、ある程度はアマソンのものを使える、かな。
ソニアはキラキラした顔で、折りたたみ椅子に座っている。
俺が何かするたびに「これはなんですの?」「これにはどういう意味があるんですの?」「この文字はなんて読むんですの?」と、質問攻めだ。
まぁ、可愛い子に言い寄られるのは気分が悪くないものだ。急ぐ用事もないわけだし、ひとつひとつ答えてやった。
メインの食材は、牛肉。
1キロサーロインが3000円ぐらいだったんで購入。
胡椒を擦り込み、強火の部分で焼き目をつける。
部分、というのは、バーベキューコンロの隅に炭を焼いて、その炭の直上、コンロの真ん中、炭のある側の反対側で火力の調整ができるので、それぞれを強火の部分、弱火の部分などとしている。
焼き目がついたら、弱火よりの中火の部分でじっくり焼く。
焼いてる間に、ガーリックトーストも用意しようかな。
ガーリックトーストスプレッドが300円、バケットが300円。バケット長いから半分ぐらいでいいな。
適当に切り分けてスプレッドを塗りたくる。で、弱火の部分で軽く焼く。
バケットを切るのにパン切り包丁も買っちゃったよ。切れ味が全然違うの。
あとは、この前使ったバーベキューコンロで沸かしてたお湯をマグカップに注ぐ。
マグカップの中にはコーンポタージュの粉末が入ってるので、これでスープも完成。
あとは…デザートは、食ってから買えばいいか。
「さ、できたよ。」
「なんだか、貴族の食事みたいですわね。」
ステーキには赤ワインと黒胡椒のステーキソースをかけていただく。
ガーリックトーストは程よく焼けてて、いい匂いがする。
コーンポタージュは、言うまでもなく美味そうだ。
「さて、いただきます。」
「?い、いただきます。」
うーん、初めての網焼きにしてはそこそこ上手く焼けてるんじゃないか?
まず、当たり前に美味い。肉の焼き加減以外に俺が関わってないから不味くなる方が難しいんだけど。
ステーキソースもちょっと高いやつ買ってよかった。
ガーリックトーストも、良い。もっとニンニク臭いかと思ったけど、そんなこともなく。でも一応、ブレスケアも後で買おう。
コーンポタージュで温まる。もうすぐ冬だからね。温かい飲み物は常備しておきたい。
ていうかこの国にも四季があるらしい。みんな冬支度してるよ。
「ごちそうさまでしたー」
「えっと、ごちそうさまでした。ここ数百年で一番美味しかったですわ。」
数百年て、スケールでかいなぁ。
さてと、食後のデザートは何にしようかな。
「デザートは何が良い?」
「デザート、ってなんですの?」
そこからか。
こっちにはそういう文化はないのかね。
「食後にいただく、甘味だよ。いろいろあるよ?なんなら一緒に選ぶか。」
「甘味なんて食べられるんですの?…やっぱり、不思議な能力ですわねぇ。」
うん、俺も不思議だと思う。
デザートは、外も涼しいし、アイスは除外で。
プリンとかシュークリームとかがいいかな?
「これはなんですの?」
「これか?これはケーキっていうんだ。」
「これとこれは違うんですの?」
「ああ、こっちがショートケーキ、こっちがチーズケーキだな。食ってみるか?」
「う、でも、どっちか選べませんの。」
「んじゃあ、両方買って、半分こしよう。うん、それがいい。購入ポチー」
デザートはショートケーキとチーズケーキ。
2人いると、両方味わう贅沢ができていいね。
品の良さそうな皿に出して、これまた品の良さそうなフォークを添える。
あとついでに紅茶も入れちゃおう。
「紅茶まで買えるの…やっぱり貴族みたいですわね。」
「ミルクと砂糖は好きなだけ使っていいからね。」
「贅の極みですわね…砂糖は、多めにいれようかしら?」
「あんまり糖分とると太るぞ?」
「ッ!!ヴァンパイアはその程度で体型はかわりませんの!それに淑女にその発言は失礼でしてよ!」
おっと、怒らせたか。女の子って難しいなぁ。
「ごめんごめん、俺の分のケーキちょっと少なめにしていいから。」
「ん、なら許してあげましてよ?発言には気をつけなさいまし。」
やれやれ、やっぱり女の子は…難しい。
ショートケーキとチーズケーキを食べたソニアは、それはもう満面の笑顔だった。
手を頬に当て、クネクネと揺れて、「ん〜〜〜っ!!」と。まさに女の子って感じだった。
紅茶には砂糖もミルクもいっぱい入れてた。最初は遠慮してたけど、2銅貨で1キロ買えるって言ったら遠慮しなくなった。こっちだとキロで5銀貨ぐらいするらしい。
砂糖で無双か。いやいや、既得権益がどうたらで大変そうだし、やめとこう。
「ふぅ〜…ユウスケに助けられたのは、この数千年で一番の幸運でしたわね。」
「んな大袈裟な。」
「死にかけたのも初めてですし、助けられたのも初めて。殿方と食事を共にしたのも初めてですの。その食事も初めて食べる味で、とっても美味しい。でざーとという時間も初めてですし、なによりチーズケーキ!あれは至極ですわ。本当に、今日ほど女神様に感謝した日はありませんわ。」
たまたま見つけて、たまたま回復魔法が使えたから良かったけど、俺が見つけなきゃ…大変なことになってたかもしれないんだよな。
「お礼がしたいのだけれど…殿方は、ヨトギ、とやらで喜ぶと友達に聞いたことがありますの。意味はわからないのだけれど、それで喜んで貰えるなら、してあげてもよろしくてよ?」
ヨトギ…夜伽か!
いやいや、流石に実年齢数千歳でもこの体型はだめだろ!あと5年は…って5年たってもこの体型のままかよ!じゃあ何年かかるんだよ!
と、落ち着け落ち着け…他の方法でお礼をさせたらいいじゃないか。
「夜伽はもっと大きくなってからお願いする。お礼がしたいなら、家の掃除と、明日からの依頼に一緒についてきてもらおうと思ってるんだけど、どうかな?」
「掃除はもちろんしますわよ?依頼は…普通のニンゲン程度の力しかないので、そんなに役に立てるとは思えませんわ。」
「いんや、基本的に採取だからね、力はそんな気にしなくていいよ。」
「でしたら、何時でもついていきますわ、ユウスケ。」
なんやかんやあって、パーティメンバーが増えた。
吸血鬼のソニア。
好物、チーズケーキ。