勇者魔王
王都観光も終わり、いまは最後の街を越え、迷宮都市へ着くのは翌日のところまできた。次の村で一泊するのだが。
「ワンッ」
「ユウスケ、何か居ますわ」
ヴァンとソニアがそう言ってすぐに、馬車が止まる。何か居るからとまったとすれば、それはなんなのだろうか。ようやく定番の、盗賊か魔物の襲来かな?
と、半分ワクワクしてると、御者さんが座席前方にある小窓をずらして顔を出した。
「すいやせん、ゴブリンが数匹飛び出してきたんですわ。すぐ片付けますんでしばらく待っててくだせえ」
おっとここは俺らの出番か!と思った矢先にこれだ。確かにゴブリンが数匹程度、大の大人なら難なく相手できるだろうけどさ。そういえば定期馬車じゃなくて予約馬車の場合、御者さんは引退した冒険者がなることが多いって言ってたな。ってことはこの馬車の御者さんもそこそこな腕利きってことかね。
ほんの数分で、馬車はまた動き出した。御者さんは自らの水魔法で返り血を洗い流し、替えの服に着替えて、なにもなかったかのように馬を操ってる。強かだなぁ。
最後の村に到着。村と言っても、迷宮都市と王都を結ぶ要所ではあるので、寂れた雰囲気ではない。町だと言われると疑問には思う程度の村だ。
ギルドは町か都市にしかないので、馬車は宿で有料で預かってもらう。もちろん、別料金だ。馬の飼料のグレードも選べるそうなので、最高級のにしてやった。いやぁ、このごっつい馬、かっこいいし可愛いんだわ。サラブレッドに筋肉を増しに増したような、黒王号だと言われても頷くレベルの黒馬が2匹。そりゃあ最高級の餌を食わせないとよ。
俺らは馬を預かって貰っている宿で一晩明かす。晩飯はこの村の名物、脂豚の角煮と白パンだ。この脂豚、脂の部分しかないんじゃないかというくらいに脂身まみれで、一口目食うまでは見た目で胃もたれしてたんだけど、いざ食ってみるとコクのあるスープを飲んでるかのように蕩けて喉を流れていく。なぜか胃もたれしないし、白パンとの相性が最高すぎて、結局何回かおかわりしちゃった。一番高いメニューだったから結構使っちゃったよ。まぁ、このペースで使っても一年は持つほど稼いでるわけだし、消費は金持ちの義務だからね、あるなら使わないと。
翌日、脂豚の燻製を大量に買って、村を出た。今日はようやく迷宮都市に着く。迷宮都市に着くのは夕方なので、それまでは今まで通り、マグネットのリバーシや将棋をやりながら過ごす。リバーシはソニア、将棋はシンヤさんが強すぎる。俺と夏美ちゃんがどっちもいい勝負で、テレシアはソニアより将棋がつよく、シンヤさんよりリバーシが強い。俺はシンヤさんよりリバーシが強いが、テレシアには負ける。…頭がこんがらがってくるな?
夕方までにまたはぐれゴブリンが数匹飛び出してきたが、また御者さんが片付けて、俺らは何事もなく迷宮都市についた。一番大変だったのは入場列かな?2時間並んだからな。テーマパークかよ。
なにはともあれ、ここから1ヶ月はこの迷宮都市で過ごすわけだ。愛想のいい門兵さんから庶民が泊まれる一番良い宿を教えてもらったので、そこでまず10日ほど契約する。馬車と御者さんは冒険者ギルドが預かるそうなので、1ヶ月後にまた再開する。
まずは宿屋。でかい荷物は俺が持ってるし、ソニアは自前の、夏美ちゃんとテレシアは俺のアイテムポーチに荷物を入れてるので、置いておく物はないのだが、はぐれた時に帰ってこれる場所ってのはこのパーティだと意外と重要で。とくにテレシアとシンヤさんが町や王都で何回迷子になったことか。方向音痴ではないので、帰る場所さえ設定しとけばなんとかなる。
一泊1銀貨50銅貨、一食20銅貨の「庶民が泊まれる一番良い宿」の三人部屋部屋を2部屋とり、宿を後にする。もちろん部屋分けは男女別だ。
次に向かうのは冒険者ギルドだ。もう夕方なので依頼を受けるわけではない。この都市に滞在するという報告にいく。これは8級から推奨される行為で、3級からは義務化される。その町やギルドの所有戦力を把握しておくためとも、サービスやトラブルに対応しやすくするためとも言われている。
無料のドリンクをテレシアにあげてから受付にいく。カードを提出して、いくつか簡単な説明を受けておしまい。説明と言っても、迷宮に潜るときは迷宮入り口でリーダーのギルドカードを見せさえすればほかのメンバーはカードを見せなくても良いとか、ギルドおすすめの食事処はどこだとか、あのエルフ(シンヤさん)は独り身なのかとか。独り身だと、お姉さんみたいな獣人も恋愛対象に成り得るだろうと言っておいたよ。
それから隣に併設された酒場で他の冒険者たちの話を聞く。
ソニアと夏美ちゃんとテレシアは、若い男性冒険者からありったけ情報を搾り取ってくれる。シンヤさんは早速、夕方の人のいない受付に向かった。あの獣人さん、ダメなことまで喋りそうだな。
で、俺はちょっと厳ついお兄さんに話を聞くことに。ちなみにこういう情報収集は疎まれてはいない。冒険者は互いに協力するのが基本なのだそうで。儲け話は金がかかるんだけど。
お兄さんの横に座り、エールとジュースを頼む。
「気が効くじゃねぇか坊主。情報収集か?」
「ええ、そうです。エール代に見合った情報をいただけますかね?」
「ハッ、酒一杯の情報ってのは難しいな。…そうだな、俺は昨日まで隣の村に依頼で向かってたんだが、その時にさらに2つ向こうの村から来たやつに聞いた話がある。まだこの都市じゃあ誰もしらねぇ話かもしれん。」
お、なんだかスクープの匂いがするぞ。金儲けの話じゃないだろうけど、ワクワクするなぁ。
「ほう。その話とは?」
「まぁ聞け。とある町で、驚異的な速さで討伐依頼を片付けて歴代最速で6級に上がった冒険者がいるらしいんだが」
ふむ、最速ねぇ。やっぱどの世界でも、天才とかってのはいるもんなんだなぁ。
「頭に黄金色のスライムを乗せて、全身を光り輝く装備で固めた男だそうでな。なんでも、冒険者業で稼いだ金で恵まれない女子供を何人も救ってるそうだ。」
黄金色のスライムってなんだよ、黄色じゃねぇのかよ。光り輝く装備って趣味良いのか悪いのか。魔法の装備かな?それと、恵まれない人々、ではなくて女子供て。実は美談に聞こえて、下心で助けたのでは…ってのはひねくれすぎか。
「誰も知らないスライム、誰も知らない装備、武器は誰も見たことない、ギルドで登録されてる職業は魔法剣士、困ってる女子供は見逃せない、と。なんつーか、勇者みたいな…というか、勇者とか呼ばれてるそうなんだが。そいつが、近いうちにこの迷宮都市に来るそうだ。もしかしたらもう来てるかも知れない。空間転移を使えるって噂もあるらしいからな。」
空間転移って。さすがにそんな、この世界でのおとぎ話みたいな事は…いや、でも勇者って呼ばれてるならそれぐらいできるのかもな。異世界の勇者って言ったらだいたいすげぇもんな。
「そうそう、坊主と同じ、黒髪黒目だそうだぞ。種族は人間じゃないそうだが。」
黒髪黒目の勇者って、なんだそれ。異世界転移ものみたいだな。でも人間じゃないなら異世界の人とは…いや、シンヤさんがそうだし、こっちの世界の人とは限らないか。
「確か、名前が…なんだっけか?」
「マオウだぜ、おっさん」
「そうそう、マオウ。勇者マオウって、どっちだよって思ったんだ俺は…って、アンタ誰だ?」
気がついたら、お兄さんの隣、俺とは逆側に、黒いローブを羽織ってフードを深めに被った少年が居た。いつの間に?
少年がフードを脱ぎ、その顔が露わになる。
黒髪黒目、だが両目とも少し、模様が入っているような…
「俺が、その『勇者』の『マオウ』だ。よろしくな、おっさんと…ユウスケ。」
勇者マオウその人が、知るはずもない俺の名を…いや、そうか。
「中学ぶりか、キンジョウ」
「こっちではマオウだ。そう呼んでくれ」
昔の知り合い。というか、中学時代に俺が引っ越すまでの幼馴染なのだ。
名前ぐらい、覚えていてくれてるか。




