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女神の失態、魔王誕生


「もうダメかもしんない」


「フィリ、口より手を動かしなさい」


「先輩もなんかいい案だしてくださいよ!私の初めての世界なんですよ!」


女神様ことフィリアスナートは焦っている。

自分が初めて創造した世界、ユウスケ達が居る世界の、リソース…簡単に言えば、世界を構成する要素、が足りなくなってきているのだ。

普通、リソースは世界を循環する。多少のロスはあるが、循環による磨耗程度のロス分ならフィリアスナートの力でも如何とでもなる。

しかし今回は、その程度ではない。磨耗ではなく、消失。世界に穴があり、そこからリソースが抜け落ちて消えていっている、と言ったらいいか。


「構成は完璧、先輩にも御墨付きもらって、上の監査も通って…なんでこうなるの!」


「うるさいフィリ。…これは、本気で不味いわよ」


「わかってます!!始末書で済むにはどうすればいいんですかっ!?」


フィリアスナートが個人でできる処置ではジリ貧、アイネヴィータが手を貸したとしても、アイネヴィータの世界の事を放って置くわけにもいかず、進行は遅らせられても結局はどうにもならない。

この世界はもう、フィリアスナートにはどうしようもできないかもしれない。

手がないわけではない。アイネヴィータや、その他の神々に頭を下げて、リソースをわけてもらう。そうすればフィリアスナートの世界は存続できる。

しかし、そもそも。なぜ穴ができているのか。穴を塞ぐこと自体は大したことではなく、既に終えている。しかし穴ができた理由はわからない。


「……フィリ、ごめん、私のトコにも穴があった」


「…………………ハァ!?ちょ、先輩のとこ…ありえないっしょ!なんでよ!」


「今塞いだ。損害もそんなに…いや、結構、やばいかも」


フィリアスナートは、女神になってから、今ほど不安になったことはないだろう。アイネヴィータは、先輩は、私に関係のない苦労は私にまったく見せない人だ。他の神とのいざこざも、自分の世界の事でも。しかし、いま、アイネヴィータは、やばい、とそう言った。私の顔を、申し訳なさそうに見つめながら。


「なにが、起きたんですか」


「…その、えっとね。めちゃくちゃリソース背負った私の世界の人間が、そっちの世界に堕ちちゃってる」


「つまり?」


つまり、よくわからない。フィリアスナートはまだ新神だ。神のシステムはまだよくわからない。良い方に考えれば、先輩の世界の余り余ったリソースを意図せずとも頂けた、と言える。それなら、問題は解決なんだけど、と。


「リソース問題は解決。だけど、問題はその堕ちた人間。変質しちゃってる。もしかしたら、アレになるかも。」


アレ、とは。フィリアスナートがこの世界を作るときに、先輩からこれだけは創るなと言われていた、アレだろうか。アレをつくってしまえば、世界はリソース問題からは逃れられるが、健全な世界にはどうあがいても戻れない。マイナスなリソースで溢れ、存在することしか価値のない世界になってしまう。その、アレが生まれたというのか。


「アレは大抵、生態系を乱す働きをする。放って置くと、せっかくの文化圏が潰されてしまうかもしれない。」


「わ、私の理想の、剣と魔法の中世が、潰される……?」


アイネヴィータの世界の、ファンタジーという文化にフィリアスナートは感銘を受け、この世界をつくったのだ。言わば、剣と魔法の中世の今はフィリアスナートの思い描く世界の完成系。しかし、それが壊されるとなれば。


「魔王…私が直接潰すのは無理ね。どうしよう…」


フィリアスナートが地上で使えるのは、自分の領域で付与したリソースと、神殿へ放出できるリソースのみ。魔王に対抗するのに神殿へのリソース散布だけでは到底解決しないだろうし、この領域でのリソースは粗方さっきの問題のために使ってしまった。


「打つ手なし…先輩…どうしよ!」


「こうなっては…堕ちた魔王が、マトモな精神を保っててくれたなら、時間が与えられたなら、対抗策もできるでしょうね。」


「まともな魔王なんて…あーもう!なんだかんだでリソースをくれてた先輩に顔向けできない!もう待つしかできないなんて、神の力なんて大したことないじゃん!」


「今回はほんとに待つしかない。一応なにか解決策ないか同僚を当たってみるけど、期待しないで」


魔王がまともなわけがない。

世界を我々の保護を受けずに堕ちたのだ、いろいろと削れて、崩れて、歪んでしまっているはずなのだ。

それに、一緒に堕ちたリソースは、世界を救えるほどの莫大な量。そんなリソースをまともに背負える魂なんて有り得ない。限界まで積ませずに、なにも問題ないと思っていたユウスケの時だって、最初に会った記憶を消してしまうほどだったのに。


魔王を、止める方法がない。

先輩の同僚たちから魂とリソースをたくさん譲ってもらって、堕ちたリソースを上回るほどのリソースを以って、それでようやく魔王を駆逐できる。

だが、それが成るのはいつになるか。せっかくの文化が、フィリアスナートが尽力し、ようやくカタチになった作品が、壊されるかもしれない。


「こうなったら、人口が減るのには目をつむって、防衛戦を…だめだ、魔王の現在地がわからない!」



あらゆる不安の中、女神、フィリアスナートは、先輩たちの援助を待つことしかできなかった。









とある森の中、木漏れ日が暖かく気持ちいい、開けた場所。


「こ、ここは…?あれ、俺、ゲームしてて、気付いたら背中を刺されてて…あれ、ここ病院?いや夢だろ普通に考えて。」


裸足で土を踏み、森の匂いを嗅ぎ、木々の擦れる音や小鳥のさえずりを聞きながら、男は思う。

これは、夢ではないのだろう、と。

内側から、力が漲っている。わかる。これは、本当に、俺の力なのだと。


「転生…?転移か?体は…いや、元の体じゃない。憑依かもしれない。」


体に巡る、気力、体力、そして、魔力を認識する。

男は思う。ああ、魔法も使えるのか、と。


女神が危惧した、魔王の誕生が、ここに成った。

だが、女神が予想した以上に魔王の影響力は大きく、その存在は龍種ですら怯えるほどの力を持っていた。


だが、誤算がひとつ、あった。あってしまった。



「異世界転生ってことでいいか。なんかチート能力使えるみたいだし。うおー、死んでもいいから異世界来たかったんだよなー!さて、まずは街に行って冒険者になってみよう!…あれ、そういえば言葉って通じるのか?ていうか俺の種族ってなんだろ?まぁいいや、行ったらわかるだろ!」


魔王、『金城眞央キンジョウマオウ』は、生前のままの精神で、壊れることなく、この世界に堕ちたのだ。


「あ、あれはスライム!おー、かわいい!テイムスキル発動……おお、簡単にテイムできるんだな。すげぇ。よろしくな、プニプニ!」

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