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サーモン無双とは

冒険者ギルドは、いつも通り賑わっている。

8級の依頼板の前には、いつもより少し多く人が集まっている。8級冒険者は、脱初心者程度の実力で、一番人が多い帯だ。9級は10歳の子供でも薬草採取だけで到達できるからな。


さて、余り物の依頼をながめる。良い依頼がなければ商人さんのとこにいくつもりだが、どうだろうか。


「…討伐はダメだなこれ」


ストーンタートル、グレイウルフ、スライム辺りなら倒せるのだが、それらはなかなか実入りがあるのですでに取られている。

今討伐依頼があるのは、ゴブリンの群れ、逸れオーク、マッドマンなど。

人型はまだ慣れないし、オークは臭い。マッドマンは唯のドロなのに各種初級魔法を使ってきたりして地味に厄介。

ゴブリンの群れは誰も受注しなければこの町の騎士の仕事になる。どうせ誰も受注しないし最初から騎士にまわせば、と思うが、ギルドと国との連携をどうたらって理由で一応依頼を出すそうで。

うーん、9級もロクな討伐依頼ないし、今日は採取かな。


採取依頼は、討伐依頼よりは人気がない。

パーティを組んで敵を倒すには役割がしっかりしているが、採取に役割なんてキッチリ決まってるわけではない。

たまにエルフなどが自然の声を聞いて対象物の場所の当たりをつけるが、その程度のロールしかない。冒険者に言わせれば、自分が自分らしく居るためには討伐依頼が一番だ、そうだ。まぁ、美味い獲物を獲った日には酒が美味いけど。


さて、どんな依頼が…おっと。ゴールデンサーモンの採取か。ゴールデンサーモンは、見た目金色のでっぷりした鮭だ。脂の乗り、身の締まり、メスなら大量の筋子と、食うにはとても優秀な川魚だ。海魚ではない。

味はほぼサーモンなので、刺身、塩焼き、蒸し焼き、鍋、天ぷら、いくらでも調理法はあるなぁ。オスは生、メスは焼きに向いている。どっちがどっちでも美味いから結局は好みだけど。


「今日はみんなで釣りかな。」






町の北側、平原の側にある、とても大きな川。俺が最初にみた川に来ている。

まずは竿やらなんやら、釣りの道具を購入。餌は疑似餌でいいだろう。これでも結構リアルで気持ち悪い。

釣り椅子のほか、テーブルなども用意して、のんびりと釣りを楽しもうと思う。

依頼はゴールデンサーモン5匹の納品だから、それ以上は飯になる。


「ピクニックみたいだね?」


「一応仕事だからね、夏海ちゃん。」


まぁ、やる事やってれば遊んでても問題ないのが冒険者の良いところだね。いや、遊んでないよ、仕事してるからね。釣りも仕事だからね。




「よし、釣れた!」


ゴールデンサーモンが釣れた。開始から10分だ。

体長40センチほどで、引きが強くて大変だった。なかなかでかいし、これは昼飯に使うかな?

夏海ちゃんが魚を捌けるそうなので、解体は任せる。俺もできなくはないけど、上手くはないからなあ。

ちなみに昼飯はサーモン丼の予定だ。寿司とかにしてもよかったけど。どんぶりは簡単で美味くてついつい頼っちゃうよね。






「釣れませんわね」


「つれなぁい」


開始から2時間、ソニアとテレシアはまだ1匹も釣れてない。

俺は3匹、夏海ちゃんは2匹釣ってる。

異世界人補正とか…釣りにはないだろ、さすがに。

ヴァンは日光浴をしながら、おとなしくしている。昼飯の時には起こして、一緒に飯を食おう。


「あ、また釣れた。そういえば、ゴールデンサーモン以外になにか釣れるの?」


そういえばまだゴールデンサーモンしか釣れてないか。ていうかこんなにバンバン釣れるとは思ってなかったな。


「シルバーサーモンとか、プラチナサーモンとかもいるみたいだ。他は、鱒とか鮒とか?」


「あっちとあんまり変わらないんだね。」


この川のこのポイントは、釣り好きな冒険者友達から教えてもらったポイントで、サーモン類が釣れやすいポイントだ。まあ、サーモンが一番食用に向いてるだろうし、他のが釣れなくても問題ない。


「6匹目だし、昼飯にするか」


「じゃ、一番良いやつ捌くね。」


「くっ、午後にリベンジですわ!」


「ヴァンちゃん、ご飯の時間ですよぉ」


「ワフ…ワンッ」


いつも通り米を購入、わさびと醤油は持ってきた。あ、海苔も購入。

あ、醤油じゃなくて麺つゆとごま油にするかな?お好みでいいか。俺は麺つゆとごま油にする。


米を丼に盛り、捌いて短冊にしてもらったサーモンを盛り、海苔とわさびをそえて、麺つゆとごま油をまわしかける。ああ、ごま油の香ばしい香りはチート級だ。

皮と骨はふりかけにするから保存しておく。鮭の皮捨てるやつなんていねぇよな?


「っし!じゃあ、いただきます!」


一口、まずはサーモンだけ。

生臭さは少なく、味は濃い。脂が舌で溶けて、ごま油と麺つゆと混じって危ない味がする。これは危ない。摂取制限かけないとダメだ。

続いて米と。汁が米に吸われ、少し物足りない。だがこの物足りなさが米の意地汚いところだ。次の一口が欲しくなる。足りない、足りない。食えば食うほど足りなく感じる。危険だ。サーモンに目がくらむ人間なんて居てたまるか。俺は自制できる男だ。


「サーモンになんて負けない!」


「それ負けフラグだよユウスケくん」





「サーモンには勝てなかったよ」


結局、4杯食った。こっちにきてから体もそこそこゴツくなって、飯がいっぱい必要になったのだが、4杯は食い過ぎた。茶碗じゃなくてどんぶり4杯だからね。


「よし、午後はもっと釣って、いろいろ料理すっぞオラァ!!バンバン働けお前ら!」


「ユウスケ!サーモンに身も心も売ってしまわれましたの!?」


「ユウスケさんはぁ、もう手遅れですぅ」


「え、あれ、そんな茶番いつ打ち合わせたの?私聞いてないんだけど?即興だよね?」


ともかく釣りだ!天ぷらも食いたいし、ついでに鱒も釣りたい。

それよりやっぱりサーモンだ。サーモンカルパッチョとか、炙りサーモンとか、ていうかまだメス釣ってないしいくら丼とか!

夢が広がりすぎて収拾がつかない。晩飯はサーモンフルコース決定だな。






「釣りすぎたな」


「釣りすぎたねー」


夕方、ゴールデンサーモン釣りは終了した。

俺が7匹、夏海ちゃんが9匹、テレシアが3匹。

そして。


「ダイヤモンドサーモンなんて、まさか釣れるとは思いませんでしたわ」


ダイヤモンドサーモンとは。

鱗が上品な色合いで、光をダイヤモンドのように反射する、見ただけで「こいつはやべぇ」と思えるサーモンだ。

こいつは王族への貢物にも選ばれるほど貴重で、コレを釣るのが生涯の目標になる釣り人がいるほど。

生臭さはなく、脂は誰をも魅了する魔力を宿っているとすら言われ、身は見ているだけで心を奪われる色をしているそうだ。

そして、皮と骨はダシにすると極上のスープになり、なんと鱗はアクセサリに加工され、上級貴族や王族が高値で買っていく。

…と、商人さんに聞いたことがある。食材を集めてもらったときだね。

商人としても、一回は扱ってみたい商品だそうだ。


「…売るか、食うか。」


「私はどちらでも構いませんわよ?」


「私は食べてみたいなぁ。鱗のアクセはいらないけど。」


「私はぁ、ゴールデンサーモンいっぱい食べたいですぅ」


うーん…悩む時間はあまりない。生鮮食品だから。

金には困ってないし、食ってもいいけど…お世話になってる商人さんに良い思いしてもらいたい気持ちもある。

これはすげぇ悩むな…


「…頭痛くなってきた。もう女神様に捧げるかコレ」


「!!女神様に捧げますわよ!私が釣ったのですから決定権は私にありますわ!」


「あー、良いんじゃないかな?そういえばお返しとかしてないし、今度ケーキとか作ってお供えしよう」


「女神様にならぁ、私の取り分を譲ってもいいですねぇ」


はい、お悩み終了!女神様にダイヤモンドサーモンプレゼント!

俺らはゴールデンサーモンをめいいっぱい調理して、満足しまくろう。







「ん?ユウスケくん達からお供え物だ。」


ここは女神様の部屋。

特殊な力によって、お供えされた物をリストにして表示できる操作盤を見ていたフィリアスナートは、ユウスケからのお供え物を見つけた。


「なになに…夏美の手作りケーキ、ソニアの手作りクッキー、テレシアの手作りリンゴパイ、ユウスケの手作りローストビーフ…と、ダイヤモンドサーモン…ダイヤモンドサーモンですって!?」


神である身は食事を必要としない。必要としないが、食べることはできるし、味もわかる。

そしてフィリアスナートは大のサーモン好きである。これは、フィリアスナートの秘密にも関わってくる事なので詳しくは話さないが。


「あー、ダイヤモンドサーモン!何百年ぶりかな?最近は王族に送る習慣ができたのよね、その所為で私へ回ってこなくて…でも!久しぶりに食べられるのね!ユウスケくんほんっとに素敵!」


舞い上がった女神様を見た侍女天使たちが引くほど、フィリアスナートはテンションが上がっていた。


「うーん、刺身も寿司もいいなあ。米はよくお供えされてるからいいけど、醤油とワサビなんて…………お供えされてる!ユウスケくんだ!!なんって最高なの!!…刺身と寿司は確定ね。1匹だし、天ぷらとかは諦めようかな。いや、8等分して、刺身、寿司、天ぷら、塩焼き、蒸し焼き、ルイベ、お茶漬け、サラダにしよう。他になにかできるっけ…記憶にないなぁ。」


1人でブツブツ言っている女神様を見た侍女天使がそっと部屋を出るほど、フィリアスナートは周りが見えていなかった。


「よし、料理ができる天使に全部任せよう。…ユウスケくん達にはなにかお返ししてあげたいなぁ。…そうだ!」


このお返しは、常識が裸足で逃げ出すほどの規格外なのだが、神の基準は人間の基準とは大きくかけ離れていることを、女神歴数万年程度のフィリアスナートは理解しきれていなかった。

女神様からの規格外の贈り物の中身はまだ考えてません

能力か、アイテムか、なににしようかなぁ

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