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それゆけ!第七艦隊キサラギ・ユカリ  作者: アンナ・キッシンジャー
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8話 海の女達の歌 第一部

会話のやり取りは、多少の記憶違いもあるかもしれません。

でもあの時、私の隣には確かに東条聡美が座っていました。思えば、私と東条さんの関係は出会いの時点から決まっていたのかもしれません。


二人で話をしたのは、新歓コンサートが終わった後の茶話会の事でした。


会場の音楽室は一年生であふれ、ガヤガヤしていました。

テーブルの上にはお菓子とジュースが準備されていました。あの時は私から東条さんに話しかけた記憶があります。


「如月由佳莉っていいます。よろしくね」

「あたし、東条聡美」

「東条さんは中学では何部だったの?」

「吹奏楽部。サックスを吹いてた」

「へえー、かっこいいな。私、家庭科部だったから吹奏楽のこと全然わからなくて」

「ふーん」と東条さんはつぶやきました。視線は手元のスマホのほうを向いていました。


私は最初、彼女の事をシャイな人だと思っていました。私は少し前のめりになって言いました。


「東条さんってどこの中学校?」

「高田中」

「じゃあ、家はこの辺なんだ。私は松本中だから電車通いでさ。東条さんは他の部活に見学行った?」

「行ってないよ」

「それじゃ高校でも吹奏楽部に入るつもりなんだ?」

「うん」


東条さんに色々話しかけても『暖簾に腕押し』のような返事しか返って来ませんでした。私は話題の種類を少し変えました。


「ねえねえ、あの男の人ちょっとかっこよくない?」


それに対しても東条さんは「…そうだね。かっこいいかも」と淡々と言い、しばらく、スマホの画面を指でスライドさせていました。


その後、谷高吹の部員が各テーブルに座りました。私たち二人の前に座ったのは、先ほど楽器体験会でトランペットを教えてくれた男の先輩でした。


「今日は聴きにきてくれてありがとう!どうだった?コンサートの演奏」

「はい、とってもよかったです」東条さんの声は急に明るくなりました。「ブルーインパルスのトランペットソロ、もう感動でした!」

「ありがとう。何回も練習したんだよ、あの部分」

「しっかり決まってましたよ」と東条さんは言いました。

「そうかい?俺、芦部眞。吹奏楽部の部長をやってます。よろしく」

「よろしくお願いします」東条さんは芦部先輩の目を見てニカッと笑いました。


東条さんの笑顔を見た芦部先輩は何だかビックリした様子でした。私はその時、何が起きたかよく分からずにいました。でも今思えば、芦部先輩の心はこの時点で落とされていたのかもしれません。


私たち二人が自己紹介を終えると、芦部先輩はやや早口で言いました。


「ねえ、東条さんってもしかして」

「は、はい」

「この間の入学式でスピーチしてなかった?」

「…そうです」東条さんは照れながら言いました。

「やっぱり。新入生代表挨拶って入試の成績でトップだった人が選ばれるっていう噂だよ?すごいよね」

「市ヶ谷の入試で一番だったんですか!?」私は完全に驚きました。

「いや、そんなことないですよー…あれはたまたま選ばれただけです。あたし全然頭良くないですから」


私は入学式の事をよく覚えていませんが、講堂で行われた入学式では確かに東条さんらしき女子生徒が挨拶していました。東条さんは噂を否定していましたが、新入生代表挨拶は入試で一番の生徒が任されるという伝統は本当に存在していたそうです。


市ヶ谷高校は各中学の成績優秀な生徒がこぞって受験する難関校です。市ヶ谷高校の入試で一番ということは、その年の県内トップだったと言っても過言ではありません。ちなみに私は公立中学で10位内の成績でしたが、市ヶ谷高校の入試本番では240人中175位でした。


噂の真偽はさておき、私はそのまま吹奏楽部の入部を決めて、トランペットパートに所属することになりました。


しかし後日の入部式で、新入部員におそろしい通過儀礼が発表されることになります。

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