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それゆけ!第七艦隊キサラギ・ユカリ  作者: アンナ・キッシンジャー
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7話 星条旗よ永遠なれ

吹奏楽部の新歓コンサート当日。

会場は校舎3階の音楽室。30人ほどの新入生がコンサートに集まっていました。


開演時間になり、先生がバンドのほうを向いて指揮棒を大きく振り出すと、トランペットが華々しいファンファーレを吹き始めました。一曲目はとっても爽やかな曲だった気がします。


「皆さん、こんにちは。市ヶ谷高校吹奏楽部の新歓コンサートへようこそ!ただいま演奏しました曲は『ブルーインパルス』でした。さて、次に演奏する曲は『海の女達の歌』です。この曲はアメリカの作曲家、ロバート.W.スミスが第七艦隊音楽隊の依頼で作った吹奏楽曲です。この曲は海をイメージした3つの場面からできていて、


第一部には『舟歌』、第二部には『鯨の歌』、第三部には『ヤンキークリッパーの航海』


という名前がつけられています。海に挑戦しつづける船乗り達の姿を想像しながらお聴きください」


司会の説明が終わると、指揮台の佐渡先生は客席に礼をして、指揮棒をゆっくりと持ち上げました。静かに始まったこの曲は、まるで映画のように叙景的でした。波の音、カモメの群れ、クジラの鳴き声、キラキラと輝く夜の星空…私が新歓コンサートで一番感動したのは、この「海の女達の歌」。この曲を聞いて「吹奏楽部に入ろうかな」と思うようになった気がします。


新歓コンサートの話はまだ続きます。


「次に演奏する曲は『残酷な天使のテーゼ』です。この曲は『新世紀エヴァンゲリオン』のテーマソングです。エヴァンゲリオンは平成に流行した大衆浪漫活劇で、今もなお世界中で愛されている作品です。原作者の庵野秀明さんは来年で88歳。庵野さんの創作意欲はいまだ衰えておらず、『次は亡き妻が描いたマンガをアニメ化したい』と周囲に話しているそうです。それでは、日本の懐かしき風景を想像しながらお聴きください」


この曲はサックスのソロから始まりました。ブラバンらしいポップなサウンドが始まると、吹奏楽部員によるダンス隊が走って登場しました。そのダンス隊は水色やオレンジのウイッグを身につけていました。後で聞いた話によると、彼らはエヴァの登場人物の「綾波レイ」と「惣流アスカ・ラングレー」を真似ていたのだそうです。「ああ、古き良き日本の香りがするメロディだなあ」などと思っているうちに三曲目もあっという間に終わり、最後は吹奏楽部全員によって「星条旗よ永遠なれ」が壮大に演奏されました。


新歓コンサートの後には、告知通りに楽器体験会が音楽室で行われました。その会場には自分を知っている人が誰もおらず、私は戸惑っていました。そんな中、楽器を持った男の先輩が「君、トランペットを吹いてみない?」と声をかけてくださいました。その先輩は背が高く、爽やかで明るい表情をしていました。


「…はい!やってみます。でも私、吹奏楽は初めてなんです」

「へぇ、未経験か。中学では何部だったの?」

「家庭科部です」

「家庭科部?ずいぶん珍しい部活だね。でも大丈夫、最初は誰でも初心者だから。とにかく一度吹いてみなよ」


その先輩は自分の楽器を私に差し出しました。トランペットを間近で見るのはそれが初めてで、楽器の細くて緻密な管に感動した記憶があります。


「いいかい。ここに口をあてて音を出すんだ」


その先輩はトランペットの銀色の吹き口を指差しました。いわゆるマウスピースと呼ばれるところです。しかしながら、せっかく先輩が説明してくれているのに、私の脳内では


「もし今これを吹いてしまったら、この男性と間接キスしたことになるよね…?」


という思春期特有の邪念が生まれていました。私は何と言ってよいか分からず黙り込んでいたところ、先輩は「マッピはちゃんと洗ってあるよ」と苦笑いしました。


先輩はまず楽器の持ち方を教えてくださいました。


「まずは右手で楽器をがっしりとつかむ。左手は軽くそえるだけでいい」と先輩は言い、私は言う通りにしました。


「それでよし。次はアンブシュアだ」

「アンブシュア?」


先輩は自分の口元を指差してつづけました。


「唇のことさ。トランペットは唇で音を作らなきゃいけない。唇の形は、そうだな、自分の彼氏に優しくキスするみたいにだね…」

「キ、キスですか!?」先ほどの邪念が先輩に気づかれてたような気がして、私は焦りました。

「ハハハ、冗談だよ!でもこれは間違った例えじゃない。力まず自然な唇をマウスピースに当てるのが基本さ。そして息を吸って、そのままスーッと吹く」


私は言われた通りに吸い、息を入れようとしました。でも「この管詰まってるんじゃないの?」と疑うくらい音が全く出ませんでした。


「息のスピードが全然足りてない。もっと速く、目の前の壁を突き破るイメージで」


次は思いっきり息を吹き込みました。そうしたらベベーッという、綺麗な音色とはほど遠い雑音が出ました。今思えば恥ずかしいですね…これが私の楽器デビューの音になってしまいました。


「やった、出たじゃん!この短時間で音が出たということは、君にトランペットの才能があるということさ」


そんな初体験の時間はあっという間に終わり、吹奏楽部員は茶話会の準備を始めました。


「レクチャーはここまで。せっかくだしお菓子も食べていきなよ」


私はとりあえずこのトランペットの先輩についていくことにしました。そして私はこの後、私の高校生活に大きな影響を与える人物と出会うことになります。

※ブルーインパルス…斎藤高順作曲の吹奏楽曲

※海の女達の歌…ロバート.W.スミス作曲「海の男達の歌」より

※星条旗よ永遠なれ…ジョン・フィリップ・スーザ作曲のマーチ。

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