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ep9.邂逅1

 この世界において一般的な人々の平均年収は、概ね八百万コゼニーくらいだとシェールが教えてくれた。それをわずか一日で生成しているダンジョンのコアマスターである私は、その秘密が露見してしまえばあっという間にあらゆる手段を用いて私という存在を食い物にするべく多くの人々から狙われるであろう事は明白だ。



 今はウォレット硝石へ十万コゼニーだけ入れて持ち歩いているから、何かが起きない限り大丈夫な筈だ。しかし、危険だからといって安直に引きこもった挙句にくびり殺されるわけにはいかない。生き残るという対価は、己を危険に晒さなければ得られない。



 人族との逃れられない邂逅を滞りなく果たさなければならない、という使命感にも似た焦燥感をおくびにも出さず、私は彼らとの戦いに身を投じる。



「私はクアラ、王都から調査に派遣された冒険者だ。君たちは……商人かな?」



 何のための、とは言わない。言う必要は無いし聞かれても答えるつもりも無い。警戒させるほど危険視させず、かといって侮られるほど愚鈍ではない……そうした印象を与えられればそれでいい。



「調査、か。何のためのかは答えてくれるようには見えないな。……たしかに君の言うとおり、私たちは二人だが商売のためにここを行き来している。こんな所で人に出くわす事は滅多にないのでね、すこしばかり驚いたのさ」



 警戒を緩めないギンリの傍らで、ロモスが淀みなく答えを返してくる。小さく相槌を打ちながら笑顔を返すと、慌てたように挨拶で言葉を紡いだ。



「ああ、名乗りが遅れたが私はロモス。彼は護衛をお願いしているギンリだ。これから私たちは狭間の砦を抜けてリキーアに向かうんだが……君は?」



 彼らには私の性はどちらに見えるんだろうか?少なくとも女性だと考えての返答にも見えない。彼らの出方次第で今後の性別をどちらで行くかを見ようと思っていたんだけど、どうやらそれは難しい相談になりそうだ。



「私も狭間の砦に向かうつもりなんだ。砦についてからのことは決めていないけど、しばらくはキニャー山脈付近で仕事をする予定だよ」



 砦で雨露をしのげるなら利用したい、なんて話すと、ロモスは露骨に怪訝そうな表情で警戒を訴えてきた。



「あの砦を拠点に?やめておいた方がいい!……あそこにはモーナたちが住み着いているから一晩でも居ようものなら身ぐるみ剥がされてしまうよ?」



「うむ、ロモスさんの言うとおりだ。モーナだけならいいが、あそこには古くからの怨霊系モンスターも出ると聞く。拠点にするならリキーアまで足を延ばした方がいい」



 へえ?二週間ほどいろいろとさせてもらっていたけど、怨霊系のモンスターなんて見なかったんだけどな。ロモスの言葉に追随するようにギンリが忠告の言葉を寄越してきた。どうやら狭間の砦には、なにやら噂も含めて人にとってあまりよろしくない印象があるようだ。



 というかモーナって身ぐるみ剥ぐんだ……。あんなに可愛い外見して、やることえげつないんだなあ。



 ……っは!シェールが真っ裸にされて……!



 心中をよろしくない妄想が駆け巡るが、今はそんなことを考えている場合ではない。少し考え混んでしまったからか、二人が怪訝な表情でこちらを伺っている。



「そうですか……、砦があるって聞いていたから丁度いいと考えていたんだけど。リキーアはどんなところなんですか?」



 ギンリに返答しつつ、可能な限り情報を集めることに専念する。この際、シェールの貞操を気にしていてもしょうがないというのもあるが、私が持っているのはあくまでもコアを通じて得られた表面上の情報でしかない。生きた情報というものは表層上だけではなく、その奥に息づく深層的な部分を端的に教えてくれるものだ。



「ん?そうだな……、みんなが家族みたいな町だな。人はそれほど多くはないが、その分つながりは深いから何かあったらみんなが助け合って生きてる」



 田舎なんてそんなモンだろ?とギンリは笑う。どこか温かみのある笑顔が町の雰囲気を現しているような気がした。



「たしかに、リキーアのみなさんにはいつもお世話になっているんですよ。よそ者の私でもこんなにもよくしてもらえていますからね、ありがたい限りです」



「ロモスさんはこのあたりの方ではないんですか?」



 ギンリは恐らくリキーアかもしくはその近くが出身なのだろう。話しぶりからもそれが分かるが、どうやらロモスは違うようで、少し気になって聞いてみた。



「ええ、私の出身はもっと東の【バラキア】の街です。港町なので交易も盛んな大きな都市ですよ」



 バラキアは狭間の砦から見れば人の足で二週間は掛かる距離にあると記憶している。キニャー山脈から流れるアグリ川にそって三日ほど東に向かえばリキーアが、そこからさらに川沿いに海へと二週間足らずでバラキアの街だ。

 他国との貿易も盛んで、隣国のユードラシア皇国や海を挟んだデッカーリア大陸とも交流があり、イェスタフ王国でも有数の大都市だ。加えて元ワステカ国の首都であったことも、都市としての機能性の高さや人口量の理由にあげられるだろう。

 ロモスはどうやらそんな大都市から商売のためにイクタと行き来するようになったみたいだ。なにか事情があるようだけど、今はそんな事よりも知りたいことはもっと他にたくさんある。



「どうせなら歩きながら話さないか?立ち話も悪くはないが、歩きながら話せない事でもないだろう」



 やれやれと言った体でギンリから提案を受けたことで、図らずとも道中を共にすることになった。お陰でより詳しい情報を手に入れることにも繋がっただけではなく、ロモスという商人とのパイプを私は手に入れることが出来た。


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