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ep8.ひと狩り行こうぜ!2

 魔法で作った道を中心にキニャー山脈南側の探索を進めていくと、中腹の方がよほど雑草や蔦も少なく移動しやすい環境だった。獣道なのかモンスター道なのかは分からないけど、それほど背の高い草もなく、木々の感覚も適度に広がっている。

 私が放った魔法の効果範囲のちょうど端、山脈の中腹付近の様子を見ながらそんなことを考えた。


「さて、何か居るかな?」


 さすがにここまで来ると物見玉の効果範囲からはかなり離れてしまっているので、設置はおこなわずに周辺探索を中心に行動を開始する。ショートボウを手にした私は、ガサゴソと腰ほどの高さにまで伸びた草をかき分けながら山の奥へと足を進めた。


「……あ」


 歩くのに適した獣道を見つけたので、これ幸いと辿るように歩いてみれば、岩肌がむき出しになった斜面に出くわした。よく見れば小型犬程度の大きさのモンスターが岩肌の何かを咀嚼そしゃくしているのか、ゴツゴツした見た目を揺らしていた。

 ――あれは【ガンザル】だ。

 亀のような顔立ちに強力なくちばしを備え、鉱石に含まれるミネラルや希少石の成分を餌にして体細胞へと変換させる性質をもつ珍しいモンスターだったはずだ。頑強な四肢は関節のような可動部分しか刃を受け付けないほどで、存在自体が価値ある素材として知られている。


(テイムしてもいいけど……今じゃなくていいか。それにしてもツいてる)


 希少石を好んで食べる習性をもつガンザルがここに居るということは言わずもがな、目前に見える岩肌には希少金属が含まれた岩床があるという事だ。これで鉱山として採掘をすすめるという方向性についても検討できる。

 相変わらずゴソゴソと岩肌に頭を埋め込みつつ咀嚼を続けるガンザルを遠目に眺めながら、他にも何か居ないかとあたりを見回した。このあたりはジャボロブの影響か比較的温厚なモンスターが多いようで、一角ウサギや羽モグラなどの小型タイプのモンスターや小動物が数多く生息しているようだ。

 彼らが主食としている薬草類もとても豊富で、ざっと見える範囲を見渡してみても数十種類のハーブや薬草が見つかる。ふもとに比べて野草も背が低く、蔦類もあまり見られないので歩きやすいし、いろいろな調合素材を採取するにはうってつけの豊かな山だと言えた。


「ついでに山頂まで目指してもいいけど、この先は魔素が濃いから大物も居そうだしやめておこうかな」


 調子に乗ってさらに南の山頂方面へ一週間ほど掛けて進んで来ていたが、なにやら只ならぬ違和感を感じるので引き返そうと思っていたら案の定、視界の片隅に見たくないものが見えた。高度もある木々の感覚が広くなっていた針葉樹林地帯だからか、視界の確保が容易だというのもある。そのため、木々を多少巻き込みながら這いずる一体の巨大なモンスターの存在を、相手に気付かれることなく知ることが出来た。


(これはヤバイ)


 徐々に地鳴りにも似た重低音を響かせながら、ほとんど木々が見られないさらなる高山地帯へと進んでいく巨体は、ガンザルよりも高い硬度を持つであろう鱗に包まれた体躯をこれでもかと晒している。トカゲに似た四肢は一歩進むごとに付近の山肌をえぐり、人ひとりとさして変わらぬ大きさのツメを地面に突き立てて歩いている。その都度、体躯からだのバランスを保つようにさながら千年以上の樹齢を誇る巨木のような、恐らく近くで見れば単なる岩にしか見えぬであろう尻尾がうねる。


 ――ドラゴン。


 その生態はほとんど知られておらず、見ることすら稀といわれる稀有けうの存在。

 高い知能と強靭な肉体で全ての存在を圧倒する至高にして究極の生命体。


(しかもあれはグレーターアースドラゴンの成龍か、情報ではこの世界に四体しか存在しない最上位生命体の一柱だったはず)


 その威容に、私はしばらく時間も忘れて見入ることしか出来なかった。位置的にはかなりの距離だとは思うのだが、あまりのサイズ感の違いに実際のスケールがまるで掴めない。広大なキニャー山脈のさらなる奥地、霧掛かって見ることすらあたわない神々しささえ感じさせる山頂へと、グレーターアースドラゴンは歩いて行き、やがて見えなくなった。


「っはぁ!……はあ~、怖かった」


 気づけば体は強張り、まるで凍らされていたかのように全身が重い。グレータードラゴンが放つ濃密な魔素は、そこに居るだけで私がいかに矮小で取るに足らない存在なのかを教えているかのようだった。


(アレに挑もうなんてコアマスターが居るってだけで正気を疑う)


 魔法で切り開いた中腹付近へと戻るために歩を進めながら、私は山頂には絶対に近づかないようにしよう!と強く思った。この先アレに関われるだけの条件が揃えられるのかどうかは分からないが、少なくとも現状で一番関わってはいけない存在なのは間違いない。


 もたつく体をなんとか立て直して中腹まで無事たどり着いた私は、今度は山路へと進むことにした。帰るにしても商人たちが通っているであろう山路を通る方が、当初の目的でもあった【近隣の人たちへの顔見せ】を遂行しやすいのは間違いないからだ。

 ついでに弓で一角ウサギを二羽ほど仕留め、首を切り落として足を蔦で縛り上げた。さらに木片につないで逆さに釣ることで血抜きを行う。私自身は食事を一切必要としないが、これもゴブリンワーカーの餌にできるし、誰かに出会っても不審がられることも無いだろうという考えからだ。


 しばらく北上していくと、やがて木々の切れ目へと至り、山路が見えてきた。


「……とまれ」


 ちょうど山路沿いの開けた場所に出たところで、冒険者と思しき男から声を掛けられた。というか、あのギンリ達だ。その後ろにはイクタで商品の売買を行ったのであろうロモスが、いぶかしげな視線をギンリ共々私に向けていた。

 突然山からウサギを抱えた人が出てきたらそんな応対になるようだ。


「うん?なにか?」


 この辺りには盗賊のたぐいが住み着いているという情報は無い。だからロモスたちも護衛をギンリ一人だけ雇っての商業行脚しょうぎょうあんぎゃが可能なのだ。


「見ない顔だが……何者だ?」


 おそらくこのあたりを根城にしているマタギにも縁故があるのだろう、ギンリが誰何すいかするのにもそういう田舎独特のアンテナを持っているからだ。


 さ、ここからは慎重に彼らに溶け込んでいかなきゃならない。私は考えていた答えを彼らに与えるべく口を開いた。


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