ep6.野望への轍(わだち)
狭間の砦は、中庭を含めた居住スペースと司令部などの各施設跡を外門と内門で挟むような造りをしている。山側にあたる石造りの外門はとても大きく、巡回や侵略時に弓などで迎撃できるような道と、石壁のようなもので堅牢さを高めてある。
砦の宿舎などの居住スペースも石造りのしっかりしたもので、常駐の兵もゆうに百人は居たのだろうと推察できた。内門は簡素なつくりで、時間の経過もあってかすでに扉はなかったが、外枠の石門や土壁は健在だ。
もっとも、どの場所も老朽化がすすんでいて、瓦礫となった部位や崩れた天井などが散見できる状態でもあるのだが。
「で、まずは堅実に足場固めから始めようと思うんだよね」
話し合いの結果、短期方針は足場固め。中期方針は砦の大々的な改装。……そして長期方針としては一大勢力を築いて旗揚げすることを目的とした。
うん、全部やることにしたのと同じだね!
いろいろと調べながら話し合いと検討を進めてみたところ、基本的にやろうと思えば全部可能だってことに気付いたし、やってみたくなった。勢力圏を狙うのはいささか都合がよすぎるかもしれないけど。私自身の見た目も人間とさほど変わらないから、雌伏期間は店舗なりを経営するにしても違和感も少ない(男女どっちの設定にするかまだ考えてないけど)し、店舗を作るなら何も砦内じゃなくても問題は無いと考えたからだ。
その間に地下に居住区だとか陣営を揃えるためのダンジョンを作っていけば、表面上は何の変哲もない廃墟の砦を演出し続けることもできるし、なにも砦をダンジョンにしなくてもいい。別に客のこない旅館経営だっていいから、とにかく無難に日々の生成を進めていければ追々ゼニーも溜まっていくわけだし。
兎に角、最初は慎重に事を運ばなきゃならないから、砦の改装もごく最低限に留めておくことにして、今のコアルームに隣接されている元指令室に地下を掘り進めていくことが一つ。
加えて店舗設営なんだけど、まずは休憩所のような形をつくろうと思っている。
「取り扱う物品は基本的に生成と、元国境の山々で採れるものを取り扱うことにしよう。イクタとの流通を活性化させれば自然とゼニーも集まるようになるし」
一区切りつけてゆったりと生成したソファーでくつろぎながら、考えを巡らせる。傍らにはシェールがさりげなく控えているからこれは間違いなく独り言じゃない、断じて。
休憩所とはいいつつも、山の恩恵を享受する商人や鉱夫、冒険者が落としてくれるゼニーが目的の仕入れ処や買取所のようなものにするつもりだから、冒険者組合が出張ってくるまではうまみの大きな商圏が作れると思う。
とっとと居住物件もこっちで砦付近の土地を活用して用意しちゃえば、それだけで販売益が見込めるわけだから、村が出来上がるころには砦地下の拠点も大きく成長させることが出来ると思う。
「問題はゴブリンワーカーでは人間たちの居住区を作ることが出来ない、という点ですね」
「そうなんだよ!少なくともドワーブンワーカーやノームで作業を進めていかないと間違いなくバレる」
おまけに開拓の申請も出しておかないと、領主を中心とした為政者から恐らく何らかのお咎めが予想できる。絶対にという訳じゃないだろうけど、それなりの収益が上がってきたところで横やりを入れられたら堪ったもんじゃない。
とはいうものの、さすがに領主とのつながりなんてものは無いし、そういう交渉だとかにうってつけな人材なんてものは今のところないので、とりあえずさっさと居住空間の確保とかは進めておいて、手を出せないくらいに大きくしてしまえばいいだろうと楽観的に考えることにした。
「とにもかくにもワーカーさんの確保だね、検索検索っと」
コアから表示されるウインドウを引っ張ってきて、他のマスターが販売しているモンスター群からドワーブンワーカーをソートする。ほかにもエルブンワーカーだとか、なるべく人域生息が一般的な種族だったり、見た目が人間と変わらないタイプのモンスターを用意する方向で検索をかけていく。
「限りなく人に近しい種族でしたら、人間種とのハーフがよろしいのではありませんか?」
シェールが控えめに具申してくる。
「うん?何か良さそうな子いるの?」
「バンピールやハーフエルフはかなり違和感も少ないのではないでしょうか」
「ふむふむ、バンパイアのハーフとハーフエルフだね。早速見てみよう」
検索項目の種族欄を展開すると、ずらずらと多種多様な種族名が表示されていく。その中からバンパイアハーフとハーフエルフのチェックを入れて検索させた。その中からバーバリアンの文字を見つけて少し逡巡する。
(あ、バーバリアンか……、いいなあ)
軍隊を作るならこの種族は前線に最適かもしれない。他にも腹案がいくつか考えられるから用意が整ったら欲しいな。
「……いかがなさいましたか?」
一点を見つめながら放心していると、シェールが心配そうに声を掛けてきた。
「ん?いや、ちょっと考え事をしてただけだよ」
バーバリアンのことを思考の片隅に追いやりながら、取り敢えず今考えていかなきゃならない事を優先する。展開される検索結果を一巡させ、販売されているバンパイアハーフとハーフエルフの価格や種族説明を眺めた。平均的にはバンピール0.8mZでハーフエルフは0.75mZくらいだろうか。ダンジョン協会からも販売されているが、他のコアマスターの物と比べると一割程度やや割高な様子だった。
「へえ、ダンジョン協会からも販売してるのか」
他のコアマスターが販売しているのは理解していたけど、販売者の中にしっかりとダンジョン協会の名前が見当たる。ますますダンジョン協会がどういう存在なのか謎で仕方がないけど、この際気にしても仕様がないので意識から外した。
「身体的特徴や見た目などは一部種族的な特徴は出ますが、ごく一般的に人間社会に馴染んでいる種族です。国家の主義や宗教的な理由から忌避されている場合もありますが、現在では稀だと思われます」
すらすらと澱みなく解説を入れてくれるシェールの優秀さは相変わらずだ。
解説に書かれている内容は能力面であったり平均的な種族的特徴をあらわした立体映像であったりと確かにダンジョンマスターとして必要な事が十二分に書かれているんだけど、私が欲しいのはまさにシェールが言っているような内容なんだよね。
今すぐに生成したり購入しても食費なんかの維持費が掛かるし、とりあえず手早く商用拠点をつくるための人材確保だとかも踏まえて、通り抜けていった商人たちの道中……掛かる日数的なものや頻度も調べながら、段階的で自然な発展を心掛けたい。
「よし、それじゃ……山の幸から手を付けていくとしようかな!」
私は早速、コアからショートボウ、矢、ダガーなどの狩人セットを生成すると手早く身に着け、シェールが戸惑うのを余所に意気揚々と山を目指して砦を発つべく歩き始めた。
「え、は、クアラさま!?」
「ちょっと山狩りにいってくるからここは頼んだよ!」
戸惑うシェールにしばしの後事を託し、私は砦を跡にするのだった。