ep5.侵入者と狭間(はざま)の砦.2
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ノームク大陸北西を分断するようにそびえたつキニャー山脈。
通る者も久しい山路を見守るように建てられたものの、打ち捨てられて山間に隠れるように佇む廃墟の砦。近隣の人々は昔の国境を現す砦として、また何かの境界線を指すかのように「狭間の砦」と呼んでいた。
砦の近くに大きな町はなく、昔はそれぞれの玄関都市として栄えていた町も、今はのどかな田園都市として豊かな土壌を最大限に生かした牧歌的と言っても差し支えのない、ゆるやかな発展が行われている。
リキーア原産のユットと呼ばれる繊維をイクタの町で販売し、その利益でイクタ産の岩塩を仕入れてリキーアで捌くことを目的とした商人である【ロモス】と、その護衛として雇われた【ギンリ】は、ひそかに商路として狭間の砦を抜けるこの山路を選んでいたようだ。
(――今は何事もなくやり過ごしたいな。罠の類も止めて通り過ぎるのを待つか)
コアで購入した罠は私の意思で自由に起動と停止を選べるようになっている。具体的には購入した魔具を波形登録して遠隔操作を可能にしたわけなんだけど、設置もやっぱり手作業だったのでこれまたワーカーたちの大活躍となったのは余談かな。
「クアラさま、全員の配置が完了いたしました。モーナたちは我々の制御下ではございませんのでそのままにさせていますが構いませんか?」
ワーカーや配置モンスターを砦の奥に配置し終えたシェールは、コアルームに戻ってくるとそう報告する。
うん、やっぱりシェールはすごく優秀だね!
「ありがとうシェール、彼らは好きにしてもらっていて構わないよ。むしろ今まで通りで自然な感じを演出してもらっておいたほうがいい」
薄緑色のヴェールを思わせるドレスをまとったシェールは、これまた透き通るような金髪をサラサラと流しながら一礼した。マールも言っていたけど、シェールのような高い知能と高い魔力をもった存在がモンスターシードから生まれる確率は限りなく低いらしい。
≪素晴らしいヒキでございます!≫
なんて叫んでいたけど、こんなにも綺麗なのに如才なくいろいろと支えてくれるし、率先して行動してくれるし、もうすでにシェール無しじゃ居られないくらい依存しつつあるダメな自分がいる。
ゴブリンワーカーの管理だとかほかにもシードから生成したモンスターたちが数体いるんだけど、彼らの特性や配置についても知識をマール同様に披露してくれていたことから、知識もかなりのものがあるみたいだ。
ハイエルフってのはエルフ族が精霊化することで高次元の存在としてアストラル高次元体との融合体へと昇華したとかなんとかマールは言っていたっけ。
簡単に言えば実体も実体じゃない部分も持ってて、寿命もない不思議な存在なんだそうだ。
そういえば不思議だったんだけど、モンスターシードで生成しているモンスターたちはその場で「生まれた」わけじゃないみたい。厳密にはモンスターシードという召喚術を通じて「呼ぶ」行為なんだとか。生成と同時に人間でいう奴隷紋のような因子を組み込むことでコアに類する存在として関連付けが行われるみたいで、私の意思を尊重してくれる存在として再構成される……らしい。
だから生成したときからそれなりの知識をもっていたりする訳なんだね。
『シッシッ! あっちいけ』
『オマエモナー』
一行が持っている食料を狙ってなのか、モーナがウロウロと商人たちに近づこうとしているが、ギンリにすげもなく追い払われていた。商人たちは中庭をぬけて正門へと歩を進めると、違和感を抱くことなく砦から遠ざかっていく。
ほうっと一息。
「よし、みんな続きを進めようか」
途中で止まっていた改装と修繕作業をノームやゴブリンワーカーに指示を出して続けて貰う。実際に指示を伝達してくれたのはシェールだけど。
一通りの支持を伝え終わったシェールがコアルームに戻ってきたところで、ワーカーたちに用意させたイスに座りながら、テーブルにおかれた周辺地図を見つつ今後の展望を考えることにした。
地図はコアから10000zで生成したんだけど、空から眺めたところをものすごく精巧な縮小画として描かれたものが出てきたので驚いた。地名もある程度書いてあるお陰で、近隣の状況もわかりやすいし対策も立てやすいってもんだ。
「シェール、今後のことを考えたいから意見を聞かせてほしいんだけど……」
「はい、なんなりとお申し付けください」
「ま、とりあえず座ってよ」
「クアラ様!そのように恐れ多い事は私には致し兼ねます!」
「まま、いいからいいから」
「いえいえとんでも御座いません!」
……なんていう茶番劇を繰り広げつつ、結局は無理やりシェールには同席してもらって作戦会議を行うことになった。
「下手に勢力を伸ばすのは危険性しか生まないから、まずは目的をはっきりさせたうえでどうするかを考えていきたいんだよね」
すでに近隣で少ないながらも人の行き来があって、それなりに知られた場所だというのもわかっているから、そういう状況下でどうやってコアをまもりつつ勢力を伸ばしていくか?そこが大事なんだけど【勢力=ゼニーの確保】だということを考えるなら、ゼニーの確保手段を確立させる方向で考えていかなきゃならない。
「でも、安易な確保手段を選ぶと間違いなくつぶされると思うんだ」
安易な確保手段というのは、通行している商人や冒険者を襲って奪う事だ。
一般的にゼニーはウォレットと呼ばれる水晶のようなものに保管されて流通している。ごくごく微弱な生命力に反応してウォレット間の移動を行ったり、残量を表示させたり、指定した相手に送ったりすることが出来るようになっているんだけど、ようはそれを奪い取る行為のことだ。
「でしょうね。クアラ様のおっしゃるとおり、希少な通商が破壊されれば人間たちもこの砦の危険性にすぐに気が付くでしょう。気付かれてしまえば現状では、比較的文明圏から近しい位置にあるこの砦に討伐の兵が殺到するのは目に見えていますし」
そうなんだよね。人間たちの恐ろしいところはその組織力といっても過言じゃない。集団の暴力で少々の出っ張りなんてあっという間に平らにしてしまう怖さを知らずに生きていくのは難しいだろう。今は精々モーナ程度のモンスターしか居ないと思われているから脅威として思われていない。
この状況を可能な限り維持しつつ、勢力拡大を図らなきゃならない。
「そこで、いくつかの方針を考えてみたんだ」
目指すべきゴールはハッキリしている。
それは【ビットゼニーを可能な限り集めること】だ。
なぜそれが目的なのかまでは分からないけど、本能的に欲しているから……とか、生まれ落ちた理由だから……なんて言葉でしか言い表せない。
私自身の本質とか生理現象だから抗うなんて道は考えられないし、突き進む以外の方針はない。
(生存本能に欠陥があるとこうはいかないんだろうな)
マールが処理せざるを得ないマスターというのは、まさにその部分に欠陥がある場合を指していたんだろう。
「一つ目は人間と共存する方法」
例えばこの砦を拠点として使って商売をする、などだ。ある意味簡単そうだが権利関係で引っかかる可能性はあるからリサーチは必須だろう。
「二つ目はこの砦をさらに要塞化して、危険度を高めて呼び寄せる方法」
時間もお金もかかるけど、周到な準備を成し得ればあるいは恒久的なゼニー集めができるようになるかもしれない。途中でいかにバレないように要塞化をすすめるかが肝要だけど。
「三つ目は、この砦を拠点として覇を唱える方法」
――一番ロマンがあるけど、まさしく夢物語かもしれないなあ……。