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ep3.BitZeny

世界はゼニーによって満たされている。

 

時に力の象徴であり、権力の象徴であり、そして富の象徴として多くの存在を惹きつけ続けている存在として。

 

魔力とは全く違った構造のゼニーは、様々なダンジョンの奥深くにひっそりと佇むコアによって生成されている。そしてその希少性ゆえに、多くの為政者、冒険者、英雄、そして盗賊などが求めてきた。

 

コアと呼ばれる存在が人の手によって生み出されたことを記す古い文献が出土していることは、世界遺物である「菩提樹ぼだいじゅの遺書」にある通りだが、どのようにして機能しており、どのように制御されているのかまでは解析されていない。

 

著作 ヴィオハルト・エンリケ 創世の書より抜粋

 マールの説明は、結果的に言えば「ダンジョンがダンジョンとして機能するまで」続いた。

 


 一通りのコアについての説明もそうだが、ダンジョン運営に必要な基礎知識やダンジョン外についての知識もコアに付属している機能を使いながら説明を受けていた。

 


「いやはや、わたくしめがお役にたてるのはここまでといった所でしょう!本当にお疲れ様でした」

 


 やれやれといった風情でかいてもいない汗を拭うしぐさをしながらマールがそうこぼす。かかった時間もさることながら、ダンジョン形成のための初期費用の負担や初歩的な作業員確保についてのレクチャー、罠の設置や種類についての考察、さらには効果的な餌の配置まで多岐にわたる指導は、これからの経営において絶対に欠かすことできない知識だっただろう。

 


「ありがとう、マール。本当に助かった」

 


 最初はただただ胡散臭かったが、今となっては相応に信頼関係が生まれたのではないかと思えるようになっていた。こうしてレクチャーを受けている間にもコアによるゼニーの生成が進んでおり、当面の運用としては問題ない程度に生成が進んでいた。

 


ちなみに、生成速度は人間の時間感覚で言えば一日あたり1,000,000zコゼニー程度が生成されている。

 およそ緑種十個分だが、ダンジョン成形用としてマールよりもらい受けたゴブリンワーカーに換算すると、だいたい一人分となる。ゴブリンワーカーをはじめとしたダンジョン成形用モンスターは非常に重宝されるので、他のモンスターに比べて流通量が少なく、取引価格が割高になっていることが最大の要因なんだそうだ。

 


「いえいえ、これもわたしに課せられた役目でございますから、マスター殿におかれましても長きにわたりお付き合いいただき感謝の念に堪えません」

 


 あいかわらず丁寧なのか馬鹿にしているのかよくわからない応対で話すマールだが、彼の話によればここまでしっかりと基本を習得してもらえるマスターというものがそこまで多いものではないようだ。たしかに、コアの機能は基本的には生成だとか他のコアやダンジョン協会への連携だとか情報的な管理面のみが機能として存在しているだけで、実質的なことはすべて自分で行わなくてはならないのだ。

 


 となれば、そうした実務的なことに疎いタイプであれば何をしたらよいのか分からないまま理解しようともせずにのらりくらりと存在だけを続けることを選ぶのかもしれない。もしそうなったらどうするのか?と聞いたところ、マールは事もなげに教えてくれた。

 


「そのようなマスターであった場合は、残念ですが私の力の一つを使うことで実質的なコアの機能を奪います。機能を奪われたコアは意思を失い、ただゼニーを生み出すだけのコアとして存続しますが、その多くは危険視した人類によって破壊されてしまいます」

 


 外界に接続されないコアはそもそもゼニーを生み出すこともないそうなので、人類にとっては非常においしい獲物として認識もされているそうだ。にしても、わざわざ外界につなげてゼニー生成を促す理由はなぜか?と聞いてみると、

 


「循環させることがわたしたちの本懐ですので」

 


とさらりと答えてくれた。

 


 ともあれ、私はダンジョンマスターとして無事スタートラインには立てたようだ。

 


「それではマスター殿、わたくしめは次なる使命に準じなければなりません。短い間ではございましたが、ご健勝をお祈りいたします」

 


 ダンジョン協会のピエロであるマールは、そう言葉を残して私の前から姿を消した。最初に現れた時のように何の気配も感じさせない移動方法で掻き消えた。どのような方法で新しいコアを知り、そのコアマスターへとたどり着くのかはわからないが、すくなくとも彼の努力が実ることを願うばかりだ。

 


「クアラさま、いかがいたしましょう?」

 


 不意にそれまで黙っていたハイエルフのシェールが声をかけてきた。クアラというのは私がコアの機能の一つである【視界共有】で自分自身をみたままに名付けた自分の名前だ。

 


 肩まで伸びた黒髪と黒い瞳。

 


 どこかの世界で黒を意味する言葉をそのまま自分の名前とした。ちなみに服装がどこにでも居そうな簡素な麻の服だったので、コアの機能を使ってすこし気の利いた服装を購入して生成したのが私の初めてのコア生成になった。男女の性別という区別のないコアマスターである私にとって、女性用のものを買うか男性用の物をかうかは迷ったが、比較的どちらともとれる品の良い布の服を購入したのだ。

 


(……25000zコゼニーだったのは思ったより安くて助かったなあ)

 


 そんな俗なことを考えつつも、ふとシェールの一言に違和感を感じた私は問い返した。

 


「ん? 何をどういたしましょうなんだい?」

 


 主語がなかったので何に対してどうなのか?という部分が抜け落ちていた。

 


 ……なんてことを思っていた時期がボクにもありました。次の一言で私は自分の迂闊さというか、初心者ぶりというか、なんせ心臓を(実際にはコアなわけだけど)ギュッとつかまれたような思いにひとり泡を食ったようなリアクションをせざるを得なくなった。

 


「クアラさま、早速ではございますが、侵入者です」

 



……。

 



……いや、ちょっと展開早くない?


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