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ep29.吸収

 体を包む冷気が身に沁みて思わず身震いしたところで、ワタシの意識は覚醒された。倒れる直前までと変わらない石造りで堅牢さは感じされるものの、空虚でだだっ広いともとれる。そんなコアルームには、玉座と思しき大きな椅子や床に敷かれた豪奢なカーペットを除けば、見慣れた台座に佇むダンジョンコアが浮かんでいた。

 ワタシはゆっくりと起き上がると、体の調子を確かめながら、どのくらい眠っていたのか、ネズミたちがどうなったのかについて考えながら、玉座の裏手に浮かぶコアをその視界に入れて呟いた。



「……大きいな」



 ゆらゆらとやわらかな光を放つコアの姿は、狭間の砦に鎮座するそれに比べれば随分と大きな姿をしていた。目算で言えばワタシの頭のだいたい四倍程度はあるのではないか?と思えるコアは、未だ存命のダンジョンマスター「マール」との繋りを失っておりながらも、その意思や命令を受け止めるために待機状態にあるのか、穏やかな明滅を繰り返している。

 なぜこんなにも大きいのか?というと、その説明についてはすでにピエロから受けていたので見ただけでその内実を知ることが出来た。ダンジョンコアの大きさは、吸収したダンジョンコアに由来するだけの話だ。

 機能面については重複することがほとんどないので、管理できる処理範囲が増えることもあってほとんどそのままコアの大きさを増やす形で吸収されるからのようだ。

 その分、一日あたりのゼニー生成料も増えていくのだが、そうした生成に関する情報の保管庫として巨大な収納力を持っている、と話していたように思う。

 無論だが物質的な保管庫というわけではなく、あくまでも情報としての保管庫だという話だったとは思うが、生成物との関係性などを考察すれば、ダンジョンの所属資源を他のダンジョンへ売りに出す場合は明らかな情報化が為されているようにも思えた。

 しかし、ワタシが生成してきた彼らが生成として呼ばれる前の存在とどのような違いがあるのか。また帰化したゴブリンたちやクマーがもともとの存在と全く違う生命情報をもった素体なのかどうかについても未知数のため、はっきりと断定するのは難しい。

 ともあれ、このままマールのコアを放置する気はまるでないので、ワタシは取り込むべくコアへのアクセスを始めた。



 コアの根幹へのアクセスには、極めて特殊な神代言語を用いている。ビットゼニーという価値を根本的に支えている存在なのだが、ワタシ自身には染み込むように理解が及んでいるあたり、ますますダンジョンコアという存在の異様さを感じずにはいられない。

 それでもなお自身の一部なのだからますますわけが分からなくなるが、こうした違和感が日に日に薄らいでくるあたり、慣れというのは恐ろしいことだと思う。

 そっとコアに手を触れると、コアは抵抗することなくコンソール画面を表示した。突然目前にあらわれた黒い画面に、いくつか神代文字が書かれているのを確認する。

 さらに、別画面でコアのゼニー管理システムを展開し、現在取り扱われているゼニーの管理記号を展開させた。



「……こんなに」



 ビットゼニーの残高もさることながら、本来であれば一つしか扱われていない管理記号が十五も並んでいた事に、ワタシは静かな驚きを表情に出した。これはすなわち、ダンジョンコアが十五個も吸収されている事を意味している。コアの総数はそのまま日々のゼニー生成量にも影響し、現状のコア生成量から鑑みれば一日あたりおおよそ0.15ZNY《1,500,000コゼニー》は生成されている計算になる。つまりは一日で屈強でそれなりに戦える戦士を十五体も生成できる。

 さらに言えば、この世界の一般的な年収のおよそ三倍をわずか一日で稼ぎ出している計算だ。根源的な欲求を満たせる喜びに、ワタシは意識とは別に歓喜に打ち震えた。十五個全ての秘密鍵を抜き取ると、私自身のダンジョンコアへとインポート命令を、マールのコア経由によって遠隔でおこなう。このあたりの処理については自動化も可能だが、コアによっては拒否されてしまうこともあるようで、あらかじめ聞き及んでいたワタシは全てを手動で行うことにしていた。



「ふう……。疲れた」



 ここからはしばらくコアの機能が回復するまで時間がかかる。詳しい理由はわからないが、コアそのものを取り込むためにさまざまな処理が行われているようだ。目の前で緩やかな明滅を繰り返していた筈のコアは、少しずつではあるがその大きさを小さくさせているように感じられた。

 ……なるほど、このようにして取り込みが行われていくのかと感心していたら、不意に意識が拡張されていく感覚に視界が揺れる。焦点の合わない視線に吐き気をもよおしながら耐えるが、さらに突き上げられるような内圧に意識が飛びそうになった。



「……うあっ」



 結局、部屋の床に吐瀉物を撒き散らしながら両膝をついて反芻し、高まり続ける内圧と狭窄されるような意識への侵入に耐えかねて、ワタシは再び意識から手を放した。

 


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