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ep21.キニャー山脈事変5

 ゴブリンたちの新しい住処となるべき場所として選ばれたのは、ひっそりと木々に覆われながらもわずかに切り立った断崖脇に掘られた洞窟だった。

 洞窟そのものはダキムの手によって掘削が行われており、居住区や保管庫など目的に沿って大まかに設計が行われた上で作業が進んでいた。

 おそらくゴブリンたちが相当数に達したとしても居住可能だろう。かなりの広さを重視して進められた洞窟は、いびつながらもちょっとしたダンジョンの様相を呈していた。途中から視界共有であらましの把握に努めていたこともあるので、大体のことは理解できていたのだ。



 ところで、ワタシがその場所にたどり着いたとき、ゴブリン達はワタシを見るなり平伏した。

 最初はシェールが原因かとも思ったけど、シェールいわく、ダンジョンマスターとして優秀な部下を抱えているワタシに心酔したのだとか。そこで、ぜひとも傘下として加えてほしいと懇願してきたのだった。



 聞けば、ジードは襲いかかる獣型モンスターをたちどころに切り伏せる実力者であるし、ダキムの掘削能力についてもゴブリンたちの度肝を抜いたそうだ。



「あぐあがー!」



「「あぐあがー!!」」



 良くわからない合いの手と共に一斉に平伏し直すゴブリンたちの姿に、ワタシは了解する事にした。せっかくの縁だし、この場所をダミーとする事も出来るよねふふふ、と腹黒くも考えていたら、シェールが何とも言えない目線を向けてきた。



「クアラさま、少々お顔に出ていらっしゃいます」



「あれ?そんなにワタシ分かりやすいかな?」



「……はい」



 なんてことだ。



 自分としては飄々《ひょうひょう》としつつも考えの読めない謎なダンジョンマスターを目指していたし、生前(?)も感情があまり読めないタイプとして知られていたのに。いつの間にか何かに毒されたのか?はたまた日和ったのか……。



 穏やかな日常で失われていく何かを満たすように、ワタシを包んできた存在に思いを馳せながら、成すべきことを思い出して我に返った。



 (そうそう、ゴブリンたちを受け入れないと)



 ワタシは意識下で繋がっているコアにゴブリンたちへの帰化洗礼を与えると、各々が了解していくのに合わせて次々と淡い輝きに包まれていく。

 砦のゴブリン親子にも洗礼を送っておいたので、今頃はあちらも光り輝いていることだろう。クマーの驚く顔が目に浮かぶ。



 一通り帰化現象が収まってきたところで、彼らの状態をコア経由で確認してみた。といっても、分かるのは種族と名前と年齢くらいの物だが、管理する側としては十分だとおもう。

 そこで意外なことに気がついた。

 どうやら彼らは一般的なゴブリンではなく、ゴブリンファイターやゴブリンウォーリアなどの上位種に当たるらしい。中にはゴブリンジェネラルも要るが、彼は最初にシェールと話していた個体で名前は……。



「ガブーイにガギュ、アギー……簡単な名前だなあ」



 目前の何体かにも目を向けながらそんな事をつぶやいた。ちなみにジェネラルの彼はガブーイだ。ぎゃあぎゃあ言ってはいるものの、彼らには彼らなりの言語体系があると言うことはこれで間違いない。



(言語体系の解析が出来たらもしかしたらゴブリンと文明交流が図れたり!!)



――する訳ないか。



 そもそも彼らモンスターと言われる生き物と人類には、何か根本的に植え付けられたかのような軋轢あつれきがある。さながら生まれながらにしての仇敵とでも言うべき根本的な嫌悪と言ってもいい。

 しかもその傾向は、どちらかといえば人間側に強い傾向を感じさせられるのだ。まるで条件反射のようにモンスターを敵視するその姿や特性は、そうした疑問や可能性の目をことごとく叩き潰しており、芽生えることすらないのだ。



 そこに何か恣意的な物を感じてしまうのは、ワタシがダンジョンマスターになったからなのかもしれない。




 でも。




 だからこそ。




 彼らに制裁を与えてあげられる。




 そんな陰鬱な感情がふつふつと湧き上がりを見せる中、ワタシはそれまで見たことのないほどに険しい顔へと、表情を変化させているシェールの姿に気づいた。いつもの穏やかな微笑はその姿を微塵も感じられない、鋭い目線だった。



「シェール、どうしたんだい?」



 ワタシの言葉にそれまであたりの警戒に注意を注いでいたジードも気付き、意識をこちらに向けている。シェールは視線を中空に向けたまま、衝撃的な言葉を私達に告げた。






「……クアラさま、敵の大軍が攻めて来ます」




 ワタシの本当の戦いは、ここから始まるのだった。

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