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ep18.キニャー山脈事変2

 なんでシェールの言葉はそのままなのに、ゴブリンたちには当たり前のように通じてしまうのか?目の前に繰り広げられる極めて日常的な光景に違和感をまるで感じないのも、シェールがどんな種族や存在とも意思疎通できる理由に起因している。

 シェールの会話方法は、厳密に言えば音声じゃない。意思やイメージを言語として伝達するのではなく、そのまま伝達しているからだ。

 しかし、耳に届くのは音声なんだから訳がわからないが、これは精霊言語と言われる万能言語なんだそうだ。古くは神々の言語を媒体とした高次元生命体が用いる意思疎通の方法らしいんだけど、実はコアに使われている意思の結合も、神代言語の応用なんじゃないか?とシェールが言っていた。



――神代言語と言えば、ワタシの師匠が研究していた内容の一つにそんな物があったと記憶している。無論、ダンジョンマスターになる以前の魔法の師匠の話だが……。



「でさ、彼らはどうして住処を出てこんな所に居るんだって?」



 シェールの透き通るような声と、ゴブリンたちのダミ声が幾度かの応酬を繰り返したところでワタシはそう声をかけた。とりあえず敵意がないことと、ワタシがダンジョンマスターである事を伝えたところで恐怖で歪んでさらに醜悪になっていたゴブリンたちの表情から安堵の吐息が漏れていた。

 ものすごく低度ではあるものの、妖精の端くれであるゴブリンたちにとって、あまりにも高位な存在であるシェールの存在に恐怖のあまり拝み始めていたのだ。

 ケイオスサイドであろうとロウサイドであろうと、高位体は存在エネルギーそのものが別格なんだろう。もしかしたら、ゴブリン達にとってシェールは神にも等しい存在なのかもしれない。



「はい、どうやらジャボロブたちに巣を追われ、命からがら逃げ延びて来たそうです」



 ジャボロブというのは、キニャー山脈の麓近辺で見付けた巨大植物だ。非常に貪欲な植物型モンスターで、森の木々を超える大きさを有し、加えて根を使って近辺の動物を捕食し、体液や体組織をすべて根こそぎ吸収するという性質をもっている。

 基本的に一度巣を貼ると滅多なことでは移動しないのだが、そんなジャボロブが動かざるを得なくなってしまった理由……?



 ん?なんだか心当たりがあるのか胸がチクチクするぞ?

 更に詳しく話を聞いてみると、ワタシの無い胸はさらに痛みを増す事になった。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 物見玉からはいろんな情報が入ってくる。何がどんな作りでそうなっているのかは魔工学をある程度齧かじった程度のワタシには分からないが、例えば風景であったり、魔素反応であったり、音を映像化するなんて機能も付いていたりと近辺に撒けば撒くほどその精度が上がるので、ゼニーの許す限りなるべく撒くようにしている。

 そのお陰もあってゴブリンたちの様子も手に取るように分かる。が、そのためにゴブリンたちの繁殖力の凄さも手に取るように分かってしまう。今は集落が集まってぎゃあぎゃあやってる中なので、彼らは止まった状態で盛っている訳だけど、きっと移動中は移動しながら盛っているんだろう。……見たくないので見ようとは思わないが。

 おまけに事がすんで受精していれば、ほんの一時間ほどで胎児が成長し、体長二十センチほどの胎児を産み落とす。妖精族の端くれであるゴブリンゆえに胎児はすでに二足歩行が可能で、手近な雑草や与えられた餌を得てモリモリ成長していき、一週間で成体となる。つまり、現段階でもすごい勢いで増え続けており、索敵モードと呼ばれる物見玉の視覚情報を簡略化して平面光点表示で見れば、次から次へと光点が増えていくのがわかる状態だった。



 ……早くも百五十に至りそうだ。死産も含めると本当にとんでもない繁殖力だと思う。



 肝心の移住の理由だけど、突然できた拓けた山の道を使って色々な動物たちが動き回った結果、ジャボロブがその近辺に集中して縄張り争いを始め、それに敗れたジャボロブが近隣の動物たちの巣穴を襲撃し、ゴブリンたちを含めて幾つかの種族が山を追われた、という話だった。



――完全にワタシの所作だね!



「ジャボロブか、厄介な」



 ジードが鋼のような腕を組みながら唸っている。君なら腰の剣でバッサリやれそうな気がしないでもないけどね。なにはともあれ、内心の焦りを表情から隠して、ワタシは打開策に思考を巡らせた。



 まさかこんな事になるなんて……。何らかの影響は考えてたけど、あえて残す事で影響を最小限にしようとしたんだけどな。狩り尽くしても放置しても生態系は狂ったと考えたら、山そのものの形状を変化させるべきだったんだろうか?



 いや、無理かな。マナ足りないし。



 それにジャボロブはもう動き回っていてあっちこっちで生態系を破壊しまくってるみたいだから、いずれにしても退治しなきゃならないんだろう。

 加えてこの子達の対処も考えないといけないし、囲い込むとしても食糧問題が出てくるだろうし……ああっ!



「とりあえず、邪魔になってるジャボロブだけ片付けようか。後、崩れた生態系のお陰で住処を失くしちゃった子達は家で面倒を見よう。……ダンジョンの範囲内に居住区と拠点を作ってもらってそこに行ってもらえばいいし、当面の食料も用意してあげるよ」



「さすがクアラさまです、なんという寛大な御意みこころ!」


 

 シェールからの賛辞がナイフのように心を切り裂いていくが、表情には一切出さずに片手で制しておく。その仕草でさらにジードやダキムまで尊敬の視線を向けてくるのは自業自得なのかはたまた拷問か。



 ワタシは立て続けに立ち塞がる難関と自分の迂闊さのダブルパンチで実際はクラクラしていたけど、身から出た錆と覚悟を決めた。


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