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ep17.キニャー山脈事変1

 兎にも角にも、人々にとって魅力ある土地を作るには産業や農業などの生活基盤を支える何かが必要なわけだけど、素敵な鉱石が算出されるというだけでも大きな魅力に繋がるだろうし、砦周辺の開墾を行えば農業だって……不可能ではない筈だ。

 いや、農業は流石に厳しいかもしれないが、鉱石目当てに冒険者を呼び込むとか鉱夫の街を作るだとかって方向に発展が見込めると思っている。本当は豊かな農地をサックリと作ってしまえるだけの方法があるんだけど、それをしても手入れができる人員もいないし何でも揃いすぎるというのも問題だからやらないだけだったりするのだが。

 ともあれ、街づくりはヴェモルにまかせて、更にもう一人ドワーブンワーカーを生成して発掘作業の拠点づくりや鉱石産業の基盤を作ることにしたワタシは、ジードと新人ドワーフの【ダキム】の三人でキニャー山脈中腹を目指した。



「あ、なんか来るね」



 砦から少しだけ西に歩くと少しひらけた場所に出るが、ふものの森に近いので野生の動植物もたくさん生息している。そもそも人の領域から外れて久しいこの地域で野生の生物が見当たらない場所は無いくらいなのだが、基本的にウサギだとかの小動物は無視していた。

 狩って食料にするとしてもワタシは必要ないし、ジードやダキムには食料を必要分は用意して渡してある。余計な荷物になるから今は要らないけど、角や毛皮などの素材としての価値があるから帰りに狩ろうと思う。

 ともあれそんな平和な道中に慌ただしく現れたのは緑色の表皮に醜悪な面構え(シェールあたりに言わせればこれも可愛い部類に入るのかもしれない)、身長は大人の三分の一ほどの筋肉質な人型生物……ゴブリンだった。

 小鬼なんて言われ方をするけど角はない。基本的に最低限の衣類として動物の皮なんかを腰履きとして身にまとっているくらいで、あとは獲物として何処かで拾ったであろう棍棒や、お手製なのか木の槍なんかを使うことが多い。

 まれに盾のようなものを持っていることもあるが、おおむね丸腰に近い格好で人や動物を狩っている。

 単体ではそれこそ人族の子供にすら負けかねないが、ゴブリンの恐ろしさは人族以上の数の暴力であることだといわれているが、目下に広がる光景はそれを体現していた。



「これはまた……大勢ですな」



「雑魚は数集めたとて雑魚だ」



 ダキムがしげしげと眺めながら告げると、ジードが達観したかのような言葉を返した。見れば最初の一匹がぎゃあぎゃあと警戒の声を上げると、次から次へと小高い丘の向こう側からゴブリン達がこちらを半円状に取り囲むように数をなして現れたのだ。

 ざっと見える範囲だけで三十ほど居るだろうか?物見玉の映像を介して探ってみれば、ゆうに百は超えていることが分かる。しかも子供や女種らしきゴブリンも居るように見えた。



「ちょっと多すぎだね……何かあったのかな?」



 基本的にゴブリンの狩りはオスのみで行われるから多くても十人くらいになる。メスは拠点で子供の世話をしていたり、子作りに勤しんでいるので狩場には出ないのだ。そうした生態を持っているにも関わらず、恐らくは一族総出でのお出迎えというのは何かあったとしか考えられない。



「あの子達の言ってることわかる?」



 とりあえずいきなり殲滅せんめつというのもダンジョンマスターとしてかなりアレなので、対話ができないかをジードとダキムに確認してみるが、残念ながら出来ないとの答えだった。ワタシも過去の知識をかんがみてもそんな技能までは習得していない。



「しょうがないな……」



 困ったときはあの人の出番だ。今頃はロキシアに商売のイロハだとか素材の解体や加工についてアレコレ指導している頃だろうけど緊急事態だから呼び出させて貰おう。



 ワタシはコアに意識を飛ばすと、シェールに直接メッセージを送った。単純に単語だとか意思を言葉として送る手紙のようなものではなくて、意思を繋げる感覚に近いこの意思疎通方法は、ワタシがダンジョンマスターというコアと繋がっている事実を再確認させられる機能だ。生成したり帰属化させたモンスター……というか生命体と意識を繋げることが出来るんだけど、表層的な意識から深層意識まで潜ることが出来るのでかなり怖い意思疎通方法になっている。

 クマーを帰属化したときに、まるで生成したような光がクマーを包んでいたから、生命体としても再構築されているようだったのには予感はしていたけど驚いた。でももっと驚いたのは、帰属化したはずのクマーが、



「腹減ったから何かよこせクマー」



と忠義のかけらも見せてくれなかったことだろう。



 やっぱり保護者としての未来しか見えないんだけど……。



 要件を「ちょっときて」だけでシェールを呼び出したワタシは、しばしゴブリンの大集落とにらみ合いを続けるジードとダキムを視界の端にとらえながら、シェールの到着を待つことにした。



「手、出しちゃだめだよ?」



 一応のクギをジードに指しておくことも忘れない。





 ――はあ。いい予感はしないなあ……。


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