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ep15.幽霊騒ぎ3

 カツカツドタドタと響く足音は、先程までのチキンぶりが嘘のような傲慢さを全面に出しつつ一行は宿舎棟へと歩を進めていた。内通路を抜けて二階宿舎棟へと入るシェールを追うように、私達はわずかばかりの明かりを頼りに夜の砦を進む。



「ね、ねえシェール。幽霊じゃないかもってどういう事?」



 宿舎棟の入り口で立ち止まり、声をかけたあとに光の精霊に語りかけようとした事に気付いて「あ、ゴメン」と付け加えた。「構いません」と返すシェールは、やんわりと淡い光に包まれている。



「幽霊の仕業ではない理由ですが、あの水溜りは生きている存在から出された物だからです」



 先程の騒ぎがあの水溜りを作った犯人に起因するなら……という前提を踏まえつつ、シェールの説明によれば、あれはモーナの体液に限りなく近いらしい。ただし、この砦に居るモーナとはなかなかに違っているらしく、シェールの推察が正しければ幽霊ではなく別のもの、という結論になるそうだ。



 なるほど、とシェールの推察を聞きながら、内通路の方へと視線を向ければ、何とも言えない表情で申し訳なさそうにしているロキシアと、「ならば私が調査します!」と今更意気込むジードが居た。



「……光よ、在れ」



 ふいに辺りに満たされるように広がる光が現れたと思えば、シェールが光の精霊に力の行使を指示していた。シェールからも同じように淡い光が出ているが、それ以上に光源が見当たらないけ上に影がないというとんでもない光量で顕現している事に気づいて驚いた。



「……これは凄いね、さすがシェールだ」



 よくある光の魔法を使った光源確保は、いわば松明たいまつの魔法版とも言うべき使い方が一般的で、ワタシが使う光源魔法もこの使用方法だ。比べてシェールの使った光源魔法というか精霊魔法は、神域では当たり前のように目に出来る光景だけと、人間界では聖域と呼ばれる高次元干渉地帯でしかお目にかかれない超自然現象だと言うと分かりにくいので、人間界では有り得ない光だと言うと分かりやすいだろうか。

 よく見れば内通路の手前五メートルくらいで効果が切れているので、シェールを中心にそこそこの広さが明るい状態となっている。シェールの歩みに合わせて移動しているので、あの範囲は光の精霊の手が及ぶ範囲だと言うことなのだろう。



「お褒めいただき恐縮でございますクアラ様。さあ、目的の誰かを探しに参りましょう」



「うん、そうだね」



 昼間ですら影を作り出すはずの空間は見事に照らし出された状態で、恐らくは死角など見当たらないのではないかと思わせる光量に満ちていた。夜中にこれをやられると寝ている側はたまんないだろうな?なんて事を考えながら、二階の宿舎棟の廊下を歩いていく。

 宿舎棟は廊下に沿って幾つかの部屋に分かれているので、一つ一つ見て回る必要があった。部屋の広さは八畳程度で、左右合わせて八部屋が並んでいるが、シェールの魔法もあって極めてスムーズに確認は行われた。

 途中、ゴブリンワーカーの部屋やヴェモルが寝ている部屋を通るが、よほど疲れているのかヴェモルは一向に起きる気配を見せなかった。もちろんわざわざ起こすような真似はしない。可哀想なので。

 ゴブリンワーカーたちも昼間の地下ダンジョンの作成にそれはもう疲れているようなので、そっとしておいた。



「どうやら、二階に異常は見あたらないようですね」



 一通り見て回り、一階への階段を臨みながらロキシアが呟いた。ジードもその横で腰の剣に右手を当てながらコクリと頷いている。それを受けてシェールも止めていた足を再び前へと進めはじめ、シェールの動きに合わせて影の無い光の空間が階下に満ちていく。

 一階はモーナたちの居住スペースだからそれほど手を付けていない。個人的な感想ではあるけれど、彼らの生態は良くわからないから下手に手を出せなかったのと、これから訪れるであろう誰かのためにも表面上はそのままにしておきたかったからだ。

 司令棟からの直接の入り口は施錠しているので、モーナたちのいる宿泊棟の一階が一般的な入り口として機能している。……今のところ誰一人として建物内には入ってこないけど。



「………ナー」



 実のところ、犯人はこのモーナ達なのは間違いないのだけど、あくまでも【似た何か】だという事に引っ掛かりを覚えていた。モーナに似たモーナじゃない何か?って何が居るのさ!?とワクワクしながら階段一階の踊り場に着けば、彼らの誰かが光に気づいて声を上げたのか、小さな鳴き声が聞こえてきた。


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