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ep14.幽霊騒ぎ2

 指令棟にはワタシたちがくつろいでいた執務室の他に、給湯室などのいわゆるキッチンやトイレ、会議室や仮眠室などの各種施設が用意されている。当然ながら長い年月で風化してしまっていたため、ほとんどすべての設備は動かないか壊れてしまっているので使えなくなっていた。しかし、真面まともな食事や設備を必要とする文明人たちが居住するにあたって改修したおかげで、もともとの運用規模とまではいかないが、そこそこの動員であっても機能するようには修繕が行われている。

 とくに水回りとトイレ事情は女性陣には必須だったので、敏腕土木作業員として召喚されたヴェモルにはかなり無理をしてもらった。足りなかった魔晶石はコアで購入することで賄い、それぞれの設備が機能するまでに丸一日ぶっ続けで作業し終えたヴェモルが崩れるように寝入ったのは致し方ない事だった、と思う。

 次いで必要に迫られていたのは宿泊棟だが、こちらは正門をまたいでちょうど敷地においては指令棟の反対側に位置している。二階建ての宿泊棟は正門に直結しており、常備兵がすぐにでも配置につけるように、という配慮も含めて指令棟から宿泊棟までがひとつながりの構造をしている。そのため今後のことも踏まえて、指令棟に備えつけられている仮眠室ではなく、宿泊棟の修繕を進めていたのだった。

 


 そして、今回の事件はこの宿泊棟で起きた。



「それにしても、どのあたりで異変に気付かれたんですか?」



 ジード、ロキシア、シェール、そしてワタシの四人は事件のあった宿舎棟へと歩みをすすめる中、あらためて経緯を具体的に見直しながら現場へと向かう。



「宿舎棟の……通路への連絡路あたりで臭いに気が付きました。強い気配を感じたのは正門の内通路でしたけれど」



 ちょうど差し掛かった正門内通路の奥を指差しながらロキシアはおずおずと報告した。なんだかそんな弱々しい姿も、ロキシアの艶めかしさを際立てている材料のような気もしないでもない。ちなみに司令棟三階……宿舎棟の屋上と繋がっている正門通りが正門の上を通る通路で、今歩いているのは正門の内部にあたる。主に飛び道具で迎撃するための窓が備え付けられている。

 ここはさすがに頑丈に作られていて、手を加える必要がほとんど無かったのは元国境砦だけのことはある。ドワーフ並の石細工だとヴェモルも感心していた。



「きゃっ」



 突然後ろからロキシアの悲鳴が聞こえた。



「……すまん」



 もう、ビックリするじゃない!というロキシアの非難の声に、ジードの謝罪が返ってきた。どうやら不安のあまりロキシアの背中に手を触れてしまったので怒られたようだ。……なにやってんだか。

 かくいうワタシはちゃっかりとシェールさんのサラサラした服の裾を掴んでいたりするけれど。



「なるほど。見たところ不審な点は……うん?」



 月明かりにうっすらと照らされた内通路はそれはもう不気味で、ワタシたちはシェール、ワタシ、ロキシア、ジードの順番で歩いていた。もちろんだけど、全員がシェールの背中に隠れていたのだが、そんなシェールが内通路の異変に気付いたのか、何かを見つけたような声を上げた。



「えっ?何何!?なにかあったの??」



 それまではワタシ達の強い要望もあってそろそろと歩いていたが、急に立ち止まったのもあり思わず声が出る。正直、ビビリにビビリまくっているのは許してもらいたい。



「あれは……」



 こういう時のハッキリしない返答ほど不安を煽るものはない、と思う。さっさと何を見付けたのか教えてよ!という言葉をシェールの背中に隠れている自分の立場を思い起こして踏み止まった。

 まてまて、それはやってはいけない。たしかにワタシは彼らのあるじだが、今の状況でそんなコトが言えるだろうか?むしろシェールさんと言っても過言ではないくらいの体制ではなかろうか?ここはおとなしくシェール隊長の判断と見識に全てを委ねて粛々と事にあたるべきではないのか?などという恐怖で頭がおかしくなっていたワタシがそこにはいた。



「水が……濡れていますね」



 ようやく言い表された言葉に更に恐怖を煽られるチキンたち。



「ひぃぃ」



「ちょっとした水溜りのようなものがあります。ここだけが濡れているというのは……奇妙ですね」



 こんな時でもシェールさんの分析は極めて冷静だ。しかし、わずかな悲鳴を挙げてへたり込むジードと、声をあげることはなくとも明らかにビビリを全面に押し出すワタシとロキシアはもはや満身創痍だといえた。精神的に。

 そんなワタシたちの状態とは裏腹に、シェールは臆面もなく精霊を使って水質の調査などを行う。それによって一瞬だけ笑顔を浮かべるが、すぐに引き締めると「行きましょう」と告げた。



「え?結局何だったの?」



「今はまだハッキリとはお答えできませんが、今回の件、幽霊だとは言えないかもしれません。とにかく先に進みましょう」



「へ?あ、そうなの?」



 シェールの意外な答えにワタシは拍子抜けしたような返事を返した。そんな半ば放心した私達を残してシェールはまたゆっくりと前を目指して歩きはじめる。

 慌てて後を追う一行だったが、幽霊ではない可能性がそうさせているのか、すくなくとも見ていられないほどのへっぴり腰からは開放されたチキン達だった。


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