打ち解けるかな
巧が難聴をカミングアウトしたせいで場は必ずしも良いとは言えない雰囲気になってしまった。しかし、巧は成り行き上、いつかは打ち明けるべきだとも16年の経験から知っていた。何故なら普段の生活に支障がないとは言え、難聴は周りの人に大きな声で話すとか、聞き逃しを言い直して貰うとかの手間を与えてしまうからだ。そして場合によっては聞こえない言葉にはなんとなく曖昧に相槌をついてその場をしのぐこともある。これらのことは相手が難聴とわからなければねこざねさんでも不快に思うかもしれない。いや、難聴とわかっていても面倒くさいと避けられるかもしれない。それでも言わなくてはならない。
しかし巧は言い出しにくくなる前に言えてよかったとも思っていた。隠し通すよりも知ってもらったうえでねこざねさんとの関係を続ける方が楽だからだ。
ちょっと間があってねこざねさんは言った。
「あの、他にも言いたいことがあるんですけど、、」このなんとも言えない空気がほぐれてくる。
「どうぞ、どうぞなんとでも。」また巧は明るく言った。そうしたら自然と笑顔になってきた。
「ええっとじゃあ、物語を見せる順番とか?初めの学校のシーンの前に未来で戦う敵の親玉が部下と話すシーンを挿れたりするといいです。」
「ほう。」巧は相槌をうつ。
「ミステリアスな伏線とかで同じストーリーでもかなり面白くなりますから」
「確かに、だとするとヒロインの回想とかも入れるタイミングを考える余地がありそうだな」
「そうそうそうそう!」ねこざねさんはぶんぶん首を縦にふる。いちいち動作が多いなあ、それが頭のよさというクールさをマイルドにしているのかも、と巧は考察する。ねこざねさんは友達も多いのかなあとか考える。
「後はですねえ、リストのこれです」
ねこざねさんは続ける。こんな風に頭がいい人と話すのは楽しい。そして自分の小説をもっと良くしようとしてくれる情熱に感謝だ。
ひととおり、ねこざねさんが作ってきたリストを二人で検討したところで休憩することにした。ちょうど自販機もあったので飲み物も買って飲む。巧のチョイスはウーロン茶。ねこざねさんはアップルティーだった。
二人で向かいあって飲む。無言。冷たいウーロン茶を流し込む。体がゆるんでいく。
ややあってねこざねさんはまた尋ねてきた。
「巧さんってどうして小説書こうと思ったんですか。」
何故か知らんが名前呼び。しかしついに聞かれたか、巧はまたリラックスした心構えを正す。
正直に話すべきだろうか。