ねこざねさんが切るっ!
その日の放課後、転機は起きた。帰りのホームルームの時間が終わって、いつも通り帰ろうとすると突然教室のドアが開いた。そこには巧が今、会いたいかどうかよく分からない少女がいた。
「失礼しますっ!、C組のねこざねですっ!浅野巧くんはいますかっ!あっ、もう帰りましたか?」とやや上がった息でいう。
いやいや待て大声で名前を呼ぶのはやめてくれと思いながら、急いで手を上げて巧はねこざねさんに自分の存在を知らせた。カバンを持って教室の入り口のところにいる彼女の方に行く。突然違うクラスの女子が訪ねてきたもんだから教室は静まりかえっている。これが学年1位の存在感かもしれない。他の人の視線が巧とねこざねさんを行き来する。
「ええと、ここじゃ話しづらいだろうから他のところでどうですか?」
なぜかまたもや丁寧語になってしまった。
「は、はい。」と答えるねこざねさんの息はまだ上がっている。たぶんホームルームが終わったあと急いでB組の教室に走ってきてくれたんだろう。ホームルームの終わる時間はクラスによって違うから彼女が急いでなくてはとっくに帰ってた、なんてこともありえる。とはいえ、自分のために一生懸命になってくれるとは少し嬉しい気がした。
「じゃあ、自販機の前のところで話しましょうか」ねこざねさんは手を出してあちらへ、というジェスチャーをした。巧は頷き彼女の後ろにについて行く。スタスタと歩く彼女の揺れるポニーテールを眺めていると自販機の前の休憩エリアについた。
お互いに向き合ってあらかじめ生徒が座れるように用意された椅子に丸いテーブルを挟んで腰掛けた。
「ええっとじゃあ本題に入ります。」彼女は切り込む。「あなたの小説。まあまあです。すっごく。」