才能
夜桜かおる、は珍しく緊張していた。彼女はどちらかと言えば物怖じない方だし、電話はの相手は後輩だ。しかしその後輩に彼女の緊張の原因があるのである。
彼女の後輩、浅野巧は先日なぜか小説を持ち込んできた。そしてなぜか手書きの原稿用紙で。今の時代であんな数の原稿用紙を見る機会は相当ない。その異様な厚みをもつ紙の束の上にはにはやはり異様な感性で書かれた小説があった。
自分が障がいである事を全面的に押し出してくる。伝わらなくても構わない。ただ俺が難聴である事は知ってくれ。そんな自己中心的な、それでいて真っ直ぐな思想があった。
こんな変なことを書いてくるのは天才か、馬鹿だと思う。彼はまだ荒削りだがもしかしたらとんでもない小説を書くかもしれない。その期待を込めて彼をお助け部に入れる事にした。
彼の小説にはリアティがあまりない。多分難聴のせいで人との関わりが少なかったのだろう。そのハンディを補うために、お助け部で人に関わってもらう。
彼がもし他人の気持ちもわかるようになったら、、、
「君には才能があると思うよ。」
これがネコの前では言えなかったことだ。
なぜならあの子は、それがなくて挫折した子だからだ。
小説を書くにしても、文書にしてもその人独特の感性がないと面白くならない。感性というものは生まれつきの部分が大きい。だからこそ、生まれつき授かったものだからこそなくさないでほしい。