温もり
ホームに電車が滑りこんでくる。中は空いていたので座れた。
ねこざねさんは、はしっこにバッグを膝にのせて腰掛けた。巧もすこしためらいながら隣に座る。
「そういえば、ねこざねさんの名前は?」
巧は気になって尋ねた。
「そういえば自己紹介がまだでした。猫実未来と言います。」
猫って書いて果実のジツです。という例えが不覚にもかわいいとも思ってしまう巧であった。
「僕のは確か原稿用紙に書いてあるはずだけど浅野巧と言います。」ペコッと巧なお辞儀をする。
そのあとはたわいのない話をして過ごした。すこし電車の中の音でねこざねさんの声が聞こえずらかった。でも友だちができた嬉しさがその煩わしさをかき消した。
小学校の頃とかは何も考えなくても友だちはいたのになぁ。高校生になって意識すると急に難しく感じてしまった。
難聴のこともあって巧は人と話すのが苦手だったために余計に友だちがいるありがたさをして身にしみて感じるのだった。
ガタゴトと二人で揺られているとねこざねさんが肩を叩いてきて、もう降りると伝えてきた。
次の駅に着く。ねこざねさんが立ち上がってバイバイをした。巧もほおを赤くしてそれを返す。ドアが閉まる。彼女の後ろ姿がまだ見える。電車がゆっくりと動き出す。だんだん加速してすぐにねこざねさんは見えなくなってしまった。
隣が空いたので巧は、さっきまでねこざねさんが座ってたところに詰めて座り直した。ほんのりと残った彼女の温もりが伝わってくる。がたんごとん、と電車が揺れる。その心地よさにつられて巧はだんだん眠くなってきた。今日はいろいろあったから疲れたんだろう。
しばらくは本能に従って眠ることにする。