友だちクリエイト
帰り道。久しぶりに友達と一緒に帰る。ねこざねさんがおれのこと友だちと思っているかは知らんが。
巧はねこざねさんと共に駅に向かって歩いていた。ちょうど巧と同じ路線の駅で降りるらしく、学校からの帰り道が一致した。
しかしここでも巧は悩んでいた。何を話せばいいのかどうかわかんねえ。たぶん読書家って言ってたから好きな本でも聴くか。でも全く知らない本の名前が出たらどうしよう。
考えている時間の沈黙が妬ましい。こうしている間も二人は駅に向かっている。
やがて沈黙に耐えかねたようにねこざねさんが口を開く。
「私、あの人尊敬しているんですよ。」
「あの人?夜桜先輩のこと?」
「はい、とっても優しくて、かっこよくて、、、頭もいいんですよ。ああ、わたしもああいう風になりたいなあ」
どうやら夜桜先輩にはかなりのカリスマ性があるようである。
「文藝部には他に誰かいないのかい、夜桜先輩以外で。」
「はい、たぶんあの人しか居ませんよ。文学部、というのもあるらしいんですが、文藝部は夜桜先輩が1年生の時に作ったようです。」
「なかなかアクティブな人なんだね」巧は相づちを打つ。
「ええ、そこも憧れます。」ねこざねさんは先輩の話をするのが好きなようで目がキラキラしている。
「あの人も小説書くのかな」巧はつぶやいた。きっとそんなすごい人が書く小説なんか自分とは比べものにならないだろう。
「前から書いてるらしいんですが、まだできてないみたいです」
「まだ?高3だから忙しいのかな」
「いやいやそうじゃないんです。小学生の頃から制作中らしいんです。一つの作品をですよっ!すごくないですか?」
これは巧も驚いた。やっぱり夜桜先輩はただ者ではないらしい。感想が楽しみになってきた。
駅に着いた。ちょうど改札からホームに降りた時には電車は行ってしまったようだ。仕方なく次を待つ。
「巧さんの小説、いい感想もらえるといいですね」ねこざねさんはいう。
「うん、だけどなんでさっきから名前で呼ぶの?ちょっと恥ずかしいんだけど、、、」
さっきから巧が気になっていたことだ。照れ隠しに巧は聞いたのだった。
「うむ?えっと、、、あっ、きっと巧さんの小説の主人公の名前が『タクミ』だったじゃないですか。それを引きずってしまったのかな。」ちらりとねこざねさんはこちらを見る。
「嫌でしたか?」
いやなわけあるかい、
「ねこざねさんがそれでいいならどう呼んでもいいよ。」
「あ、、じゃあこれからもよろしくお願いします。巧さん!」ねこざねさんは握手を求めてきた。
恐る恐る巧はその手をにぎり返す。さっき感じた暖かさが戻ってくる。
高校生活初めての友だちは違うクラスの才女。灰色の巧の人生もなかなか盛り上がってきた。