最終回(フィナーレ) ~このあと、悪役令嬢と女主人公は親友になる~
ここはとある王国の一室。
これから行われるのは世にも恐ろしき公開処刑。
この場に立つ面々は、誰もがこの国の重鎮かそれに類する者達である。
「エリザベス。君がしたことは全てわかっている。正直に自分のやったことを自白して、クリスに謝れば減刑の余地もあるぞ。」
優しい口調で述べながらも、その言葉と表情には明らかに怒気を含んだ声で第一王子であるブラッドがそういった。
「なんのことかしら?」
その言葉を聞き、ブラッドの婚約者にして公爵令嬢であるエリザベスは優雅に佇み自分の目の前に立つ五人の男女を見る。
そこには一人の女性を守る様にして立つ、四人の男がいた。
「エリザベス。僕達が何も知らないとでも思っているのかい?」
我が国の宰相の息子であるカルロスもブラッド同様に隠しきれない怒気を孕んだ声を静かにあげる。
しかし、それを聞いてもなお、エリザベスは表情一つ変えはしない。
「貴様!その態度はいったいどういうことだ!貴様のせいでクリスがどれだけ苦しんだのか分かっているのか!!」
エリザベスの態度に嫌気がさしたのか。
王国聖騎士長の息子であるジョージが怒声を上げる。
その声にさすがのエリザベスも少しだけ怖気づいたのか、一歩後ずさる。
「やめなよ。ジョージ。クリスが驚いているじゃないか。」
そう言って、エリザベスと同じ公爵家の嫡男であるバートンがクリスと呼ばれる平民の女性の方を優しく抱くと「大丈夫だよ。僕達がついてるから」と言ってクリスと言う女性を優しく元気づけた。
その言葉を聞いてクリスは先程、ジョージがあげた怒声で恐怖して青白くなっていた表情が、少しだけ元に戻った。
「エリザベスよ。お主が行った数々の非道な行いは、すでにこちらでも調査は済んでおる。それについて、何か弁明はあるかね?」
その光景を端から見ていた国王が、ゆったりと髭を撫でながら言葉を述べた。
そして、国王が言葉を述べると同時に映像や画像を記録した魔法の水晶が王国親衛隊たちの手によって運ばれてきた。
その水晶の中には婚約者であるブラッドを自分から奪い取ったクリスに対してエリザベスが行った公爵令嬢らしからぬ悪行が記録されており、事実として彼女がそれらを直接、間接とわず関与していた動かぬ証拠であった。
「いいえ、国王陛下。すべて、事実でございます。ですが、わたくしは『間違ったことをした』とは思っておりません。寧ろ、もっと早くにこの女を排除しておくべきでした。そうすれば、こんな事態にはなりませんでしたもの。」
「お前は!自分がいったい何を言っているのか分かっているのか!!」
エリザベスの全く悪びれていない言動に、この場に招集されたエリザベスの父は怒声を上げる。
それもそうだろう。
彼女は今、国王陛下の前で自身の犯した罪を認め、その上で反省を全く行っていないとまで宣言したのだ。
これでは、減刑どころか刑の上乗せもあり得る。
「どうやら、判決は出たようですな。」
「うむ。公爵殿はどこで育て方を間違えたのやら・・・」
「全く、同じ公爵として嘆かわしい限りだ。」
宰相、王国聖騎士長、バートンの父親である公爵の三人があきれたようにエリザベスを見て溜息をつく。
そんな彼らを見てエリザベスは可哀想な者を見る目で三人と国王、そしてクリスを見た。
「お主のやったことは人として重大な過ちだ。しかし、貴様の父にはワシも世話になっておる。故に公爵家の家に泥を塗らぬように、公爵家からの破門のみとしたかったが・・・ その態度では、それだけでは足りぬようだな。」
「わたくしへの罪はどうぞお好きになさってください。しかし、その前に国王陛下とここにいる皆様にお願いがあります。」
国王の威厳に満ちた発言を、まるで聞く気がないとでも言いたげにエリザベスは言葉を発した。
それを聞いてすぐにエリザベスの父が怒声を上げて制止しようとしたが、エリザベスが片手でそれを遮って言葉を述べる。
「わたくしへの罪はお好きなようになさってください。しかし、モネ、バネッサ、リーネ、クリスにまで罪を追求しないでいただきたい。」
「? なぜわたくしも入っているのですか?」
エリザベスの言葉にクリスは驚き首を捻る。
それは、彼女だけでなく、ここにいる皆が同じだった。
モネ、バネッサ、リーネの三人はそれぞれが、カルロス、ジョージ、バートンの婚約者であり、彼女達もまたクリスに対して嫌がらせの数々を行っている。
しかし、なぜそこにクリスの名が上がるのかはその場にいる誰にも理解できなかった。
そう、この場で真実を知るのはエリザベスただ一人。
彼女はたった一人。
真実を抱えて戦い続けた戦乙女なのだ。
しかし、そんな彼女の思惑とは裏腹に結果は災厄の事態に転がってしまった。
彼女に最後にできるのは、せめて、せめて傷ついた心を持つことになるであろう乙女たちを癒すことのみ。
「友人思いな所はあるようだが・・・ それはまかり通らんな。おい、彼女達を連れてまいれ。」
そんなエリザベスの決心とは裏腹に、国王が重苦しく口を開くと同時に隣室の扉のドアが開かれ、先程名前が出たモネ、バネッサ、リーネの三人が顔を表す。
三人は重苦しく暗い雰囲気に、青白い顔をした状態で、気力なく立っていた。
「実はなエリザベスよ。もうすでに彼女達には話を聞き。それぞれの家を破門するように沙汰を出しているのだ。」
国王のその言葉に、現状を理解したエリザベスはキッと男達四人を睨みつける。
男四人に囲まれているクリスは自分が睨まれているのだと思い、恐怖するがすぐさま周りにいる四人の男達が盾となる。
「あなたたち。自分達が隠していることを棚に上げてなんてひどいことを!!」
エリザベスは四人の男を睨みつけながら怒声を上げると、三人の令嬢に歩み寄り「もう大丈夫だからね」と三人を抱きしめた。
その光景を見て国王は困惑する。
その光景はまるで、婚約者の男にだまされた可哀想な女性陣と言う情景だからだ。
そんな光景に困惑するのは国王と宰相と王国聖騎士長と2人の公爵にクリスと傍に控える近衛騎士のみ。
逆に、ブラッド、カルロス、ジョージ、バートンの四人は冷や汗を流している。
「父上!エリザベスの罪はもうあきらかとなったのです!早く沙汰を渡して彼女を退去させてください!」
「その通りです陛下!」
「う、うむ。ブラッドの言う通りだ!」
「クリスも怯えているようだし早くこんな女達は排除してください!」
エリザベスの行動による困惑により、一瞬の静寂が場を支配したが、それをイの一番に打ち破ったのはブラッドだった。
それを皮切りにカルロス、ジョージ、バートンの四人が捲し立てる様にエリザベス達を追い出そうとした。
「陛下。最後に、わたくしからのお土産を置いて行きますわ。」
息子と三人の若者の発言に我に返った国王がどうすればいいのか分からずに戸惑っていると、エリザベスが隠し持っていた魔法の水晶を取り出した。
それは、国王が近衛兵士達に持ってこさせた証拠物件である映像を記録するものと同じ物だ。
そして、エリザベスは汚物でも見るかのように四人を見て、クリスに哀れみの目を向けた後で、死んだ魚のような目で魔法の呪文を唱えると水晶を起動した。
その行動に、一瞬何かの魔法を使うのかとその場にいる者達が身構えるよりも早く映像が映し出された。
「バートン・・・」
「駄目だよジョージ・・・ こんなところじゃ・・・」
「なら、ベッドの上ならいいのか?」
「ポ・・・」
(((は・・・?)))
「少し御花摘みに行ってきますね。」←そう言ってブラッドとカルロスから離れるクリス。
クリスが見えなくなったのを確認して・・・
「ブラッド。やっと二人きりになれたね。」
「おいおいカルロス。そんなこと言っちゃクリスが可哀想だぜ?」
「いいじゃないか。どうせ、僕達の関係がバレない為の囮なんだからさ。」
(((は・・・?)))
その場にいる。
ほぼすべての人間に疑問を残したまま、延々と紡がれる映像。
そして、その映像を映し終った後、クリスは驚愕に実を震えさせながら四人から後ずさる。
四人はお互いの顔を見合わせて困惑し、それを見て四人の父親が目を見開いている。
「これが・・・ 四人の本性よ。クリス。今までごめんなさい。わたくしが四人の本性に気づけないばっかりにあなたに八つ当たりしてしまって・・・」
いつの間にか移動していたエリザベスが、一人振るえるクリスを優しく抱き留める。
「エリザベス様・・・ わたくし・・・」
瞳に大量の涙を浮かべてクリスがエリザベスを見上げる。
「わたくしがもっと上手にあなたを追い出していれば、この事実をあなたに知られることもなかったのに・・・ ごめんなさい・・・」
エリザベスはハンカチを取り出すと、優しくクリスの目元を拭う。
「さぁ! 真実は見てのとおりですわ! 国王陛下! わたくしの力が及ばず、証拠を集めるのに時間がかかってしまいました。 そのため、今更性格の矯正は難しいかもしれませんが、我が国の未来のために頑張って下さい!!」
そういって、エリザベスはクリスと三人の令嬢を連れてその場を後にした。
残されたのは男性同士の篤い友情を育んでいた四人の男達とその父親。
それを見る近衛騎士達。
「ブラッド!これはいったいどういうことだ!」
「カルロス!お前!いつから・・・!!」
「ジョージ・・・ お前の根性を叩き直してやる!」
「バートン・・・ どこで性格が歪んでしまったんだ・・・」
現在、王国では同性での結婚は認められていない。
子を残さなければならない王族はもちろん。
貴族でも同性とのお付き合いは普通ではなく、問題の彼らの父親はいたってノーマルであり、同性での恋愛なんてものは理解できないのだった。
「「「「おのれ、エリザベスめ!!」」」」
四人の男達はエリザベスの名を恨みがましく叫ぶが、その言葉に同情の余地はなかった。
後日、エリザベスには国王陛下からの感謝状が贈られ、モネ、バネッサ、リーネの三人と共に金一封が送られると同時に破門の話はなくなり、寧ろ『国の未来のために別の男性と結婚して欲しい』と言われ称賛されたのだった。
そして、四人の令嬢はノーマルな男性と結婚し国のために尽力する。
最後に、エリザベスの第一子に仕える女中の名はクリスといい。
彼女はエリザベスにとって無二の親友であることをここに明記しておく。
ザ・エンド
え?
前書きと内容が違う?
失礼しましたorz