6話(前)
登場人物
ケンタ・F・ニシムラ
アルゼンチン最大の都市で、首都ブエノスアイレス出身。1975年生の日系3世。
海軍士官学校を首席で卒業し、アナポリスへの留学経験とスペイン語と日本語、それに英語とロシア語を流ちょうに話す事が出来る天才的頭脳の持ち主。
モスクワに大使館付武官時代として滞在していた頃に、ロシアのラスプーチン大統領と太いパイプを築いた。そのパイプを活用してラプラタ級駆逐艦などのロシア製軍艦の大量購入に一役買っている。
6話(前) 一進一退の死闘1
英海軍所属のF-35B6機から放たれた12発のソードフィッシュ巡航ミサイルは南西の方角にあるフォークランド西島に向けて順調に飛翔していた。
なおミサイルの内、アルゼンチン側の設置したレーダーやミサイル施設破壊の任を帯びた4発と艦艇攻撃の任を帯びた4発の計8発は低高度を飛ぶ事でレーダーに捉えにくい、すなわち迎撃されにくく飛翔していたが、一方で残りの4発はソード・フィッシュED(※1)と呼ばれ、弾頭の代わりにレーダー波にあわせた強力な妨害電波を放つジャミング装置を搭載していた。すなわちこのミサイルは囮としてメインのミサイルより数km離れてかつある程度の高度を飛んでいたのである。
一方、アルゼンチン側の防空の主役はロシア製のS-300、西側と言うかNATOコードネームで"Grumble"と呼ばれる地対空ミサイルシステムとそれを艦載用にしたものを搭載しているオースィニー・ルナー級ミサイル駆逐艦のアルゼンチン向けのモデルであるアンデス級駆逐艦ラプラタと同じくロシア製駆逐艦のサン・ファン級駆逐艦サン・ファンとサン・ルイスのである。
ラプラタCIC
「レーダーにミサイル複数発を感知しました!確実にジョンブル共のミサイルです!」
電測員がそう言うと艦長であり艦隊司令官を兼務するケンタ・ニシムラ大佐が「そうか…………良し。迎撃順位は脅威度の高であろう後方にいる低空を飛んでいるモノを優先し、前方の囮はサン・ファンとサン・ルイスに任せる事にしよう」と続く。
数秒後、甲板に埋め込まれているVLSからガス圧によって(※2)複数発のSA-N-20対空ミサイルが放たれ、ミサイルはある程度の高度まで来ると水平飛行に移り、ラプラタの装備しているフェイズド・アレーレーダーから送信される管制電波に従って英側の放ったソードフィッシュミサイルに向けて飛翔していく。
一方、ミサイルが放たれた事を感知した囮用ミサイルのソードフィッシュEDは妨害電波を発してソードフィッシュに向かっているSA-N-20の進路を混乱させようとする。
しばらくすると目論み通りにラプラタから放たれた4発のSA-N-20の内、2発は1発のソードフィッシュEDの電子妨害と2発の自爆によってばら蒔かれた明後日の方角へと飛んでいったのであるが、残った2発の内は1発が見事にソードフィッシュミサイルの本隊の1発に直撃で1発を撃墜し、残った1発もソードフィッシュとすれ違った際に近接信管が炸裂し、その爆風による効果で1発を撃墜したのである。
ラプラタCIC
「2発撃墜を確認!SA-N-20の第2射の発射準備も完了しています!」
電測員がそう言うとニシムラ大佐は「わかった。とは言え撃ちそびれた際に備えて10㎝速射砲に3K95短SAM、それに近接防空砲の射撃も用意もしておけ」と続く。
ニシムラの命令から数秒後、ラプラタの前甲板から再びミサイルが放たれたのである…………
(※1)ソードフィッシュED
EDはElectronical Decoyの略
Electronical Decoy=電子的な囮
一応架空兵器ですが、曳航式のジャーマーは実在するようなので、自立飛行する囮も実現する可能性は否定出来ないと私は思います。
(※2)VLSからガス圧によって
一部のロシア製VLSの発射機構はアメリカのホットロンチ方式と呼ばれるミサイル自体のロケット機構で打ち上げられるMk-41やMk-48と異なり、下にあるガスによる圧力をかけて打ち上げるものであり、コールドロンチ方式と呼ばれている。