13話
2020年8月4日正午(ブエノスアイレス時間)
フォークランド島を占領下に置いていたアルゼンチン軍の内、海軍の駆逐艦と徴用タンカーが英軍のソードフィッシュミサイルによる攻撃で損傷し、午後1時にタンカーが沈没。合わせて75名の死者と24名の負傷者が発生し、前線指揮官であったニシムラ司令官は空軍と海軍の協力を強固なものにせよと命じる。
午後1時30分にはMiG-35とSu-27戦闘機と早期警戒管制機による上空早期警戒の甲斐あってか、英空母から飛び立ったステルス性を捨てた代わりに大型巡航ミサイルを搭載していた爆撃部隊のF-35を5機撃墜することに成功したものの、別の方向から飛来した護衛のF-35が放ったAIM-120により、3機のMiG-35と指揮官搭乗機含む2機のSu-27が撃墜され、残った5機はその英軍機に対して格闘戦を挑もうとするが、別の方向から他の攻撃隊の護衛部隊が50㎞先からウェポンベイから放ったAIM-120が1機のMiG-29を粉砕し、それによって部隊は混乱。その隙に英軍のステルス性を捨てた代わりに大型ミサイルを搭載したF-35はフォークランド島のアルゼンチン軍司令部施設へと向けて飛び去ってしまったのである。
しかしニシムラはそれを考慮していたのか、島の沖合にアンデス級駆逐艦1隻を待機させておき、強力なロシア製フェーズドアレー・レーダーはそれら英軍機を探知し、同じくロシア製のミサイルを迎撃のために放ったのである。
そしてそれらミサイルは攻撃態勢に入ったF-35を蹴散らし、何機か撃墜したのである。だが、すぐにソードフィッシュミサイルは地上にあるアルゼンチンの司令部からアンデス級駆逐艦に対して照準を変更したのである。
やがてソードフィッシュミサイルはアンデス級駆逐艦の1隻、ラプラタの後部格納庫部分に直撃し、吹き飛ばしたのである。
無論アルゼンチン海軍の応急班はそれに対処すべくVLSなどに注水するように命じ、爆沈を防ぐべく努力をするのである。
20分後、何とか鎮火には成功したものの、そこにはボロボロで浮かぶラプラタの姿があり、負傷者たちが前甲板に寝かされていたのである。
旗艦であるアンデス搭載のKa-27に乗って飛来したニシムラはラプラタの惨状を見るとすぐにMeko級フリゲートにラプラタを曳航させて離脱させるように命じたのである。
一方、これらの情報が地上で英軍と戦っている陸軍や海軍陸戦隊の兵士に伝わり、ラプラタの仇を討つと称して捕虜にした英兵を暴行する。もしくは射殺するなどの残虐行為を働いたものも出たが、英軍側もアルゼンチン兵士を射殺や暴行するなどの行為に出ており、内戦で崩壊しつつある中国、北京に代わって冬季五輪を開催したシュッツガルツのあるドイツや、隣国で停戦協定の地であるフランスの世論は英亜両国(特に欧州連合離脱を主張する一部過激派は英国)の参加を拒否すべきだと言われたくらいであった。
閑話休題。英亜両国の地上戦は8月11日に終わりを迎え、12日にフランス沖合で両国の駐仏大使及び武官同士の議論も終わり、停戦となった。
アルゼンチンは
1 取り敢えずは2年間のフォークランド島での停戦
2 その期間は同島の完全非武装化及び軍用艦艇入港の全面禁止
3 仮にその期間内に軍用艦艇を入港させた場合、アルゼンチンに入港した全ての英国船舶をアルゼンチンに永久的に係留する
事を要求したが、英国はこれを全て蹴り、
1 アルゼンチンは永久的にフォークランド島の所有権を捨てる事
2 同島に軍事行動を起こした場合、我が国と貴国は永久に断交する可能性がある
3 最後に我が国は貴国との友好を望んでいる
の3つを要求したのである。
この交渉は2021年まで続き、英亜両国は終わるころには疲弊していたのである。
無論、米国は南米でのロシアの影響力拡大を恐れていると言うのもあり、英国に対して全面支援が出来ず、中立的な立場にあったので、これらに特に言う事も無く、ロシアも米国の影響力が再拡大するのを恐れ、何も言わなかった。
そして日本も南米に多くの日系移民が渡った事を踏まえると良好な対日感情を維持する為に英亜両国が互いの意思を尊重し、和平交渉を行う事を支持すると表明していたのである。
英亜両国の戦闘が終わり、互いの軍が引き揚げ始めた頃、鹿児島の沖合に到着した揚陸艦しょうかくとその護衛である艦隊の旗艦を務める護衛艦ながととその指揮下にある6隻の護衛艦は物資を搭載し終え、新田原に戦術的撤退し、そこから対馬への空爆に向かった空自F-2及びF-15による攻撃に呼応するかのように出撃。対馬の南部へと向かっていた。
空自F-2戦闘機隊編隊内通信
「ウィング1よりウィング隊各機、レーダーがMiG-29ないしF-16らしき機影を探知、これより戦闘態勢に入る。各機、レーダーの準備は良いな?」
F-2D”零隼”を操る空中戦闘哨戒部隊隊長を務めるウィング1こと倉田正治3佐がそう言うとウィング中隊に所属する零隼ライダーたちは次々に『ウィング2、スタンバイ!』『ウィング3、スタンバイ!』と続き、残りの3機も準備が出来た事を伝える。
「攻撃隊がミサイルを発射した模様。これより離脱に入ります!!」
後部座席に座る火器管制員の山辺健三1尉がそう叫ぶとすぐに倉田は「ウィング1!!フォックス1!!」と叫び、発射ボタンに指を翳す。
すると主翼下のAAM-4Bが少し落下したかと思うと、すぐにロケットエンジンに点火し、目標へと向かって飛翔していく。
そして別のF-2部隊であるブレイブと中隊F-15戦闘機からなる編隊であるフェニックス中隊からもAAM-4の改良型が飛翔していく。
「敵戦闘機隊より妨害電波を確認。これよりAAMをパッシブレーダーホーミングモードへ切り替える!!」
倉田3佐がそう言うと彼は指をタッチパネルに出ていたAAM-4の誘導モードの部分を受信モードに切り替え、母機からの誘導電波照射を中止したのである。
無論、相手もR-77ないしAIM-120を持っているだろうが、中露戦争後、人民連邦軍は米国製の多くの装備を劣化させており、上手く撃てない可能性も高い。
更に言えば人民連邦はロシアの傀儡ともいえる朝鮮連邦軍とも対立しており、対馬侵攻作戦と同時に旧韓国第二の都市であった釜山への侵攻も企てていた。
なので対日作戦、つまり対馬侵攻作戦が成功したとしても兵力はギリギリの状態と言うわけなのであり、支援は望めない状況であった。
統一朝鮮共和国空軍編隊
「ペクト1よりペクト飛行隊各機、日本軍機を捉えた、これより攻撃を開始する。ペクト1…………発射!!」
隊長がそう言うとやや旧式化しているとは言え優秀な性能を持つロシア製対空ミサイルR-27がMiG-29の翼下から放たれたのである




