7.メルセデス編〔Ⅱ〕
今回のお話は、たまりしょうゆ様に感謝して書き上げました。
理由は読んで頂く事で読み取って頂ければありがたいかな、と思います。
「星」もちゃんと書いてます。 本当です。 嘘じゃないです!
ラウンジでは目立ちすぎると云う事で、メルセデスの執事役と云う男に案内されて個室に入り、更に詳しい話を聞く事になった。
そこでメルセデスが言うには“こう”である。
そのフランス人科学者が開発した薬というのは、驚く事に人間が服用する方式の物質透過薬だという。
「呑むとどうなるんですか?」
ジェジェジェにはメルセデスの言っている事が良く分からなかったので意味を問いかける。
メルセデスは、可愛らしく首を傾けながら答えた。
「え~っとですね。つまり壁を擦り抜けちゃうんです」
「「ええ~~!!」」
これにはジェジェジェのみならずリタまでビックリである。
「そんな事、ホントに出来るのかよ?」
疑うジェジェジェの言葉に、メルセデスは鞄を開くと其処にならんだ二十ほどの小さな瓶のひとつを取り出し、次いで驚くべき事を言ってのけた。
「薬は数種類有るようです。試作品でしょうが、その内から一種類を二十本、手にいれる事に成功しました」
そう言って誇らしげに小瓶を手に取り、ふたりの前に翳す。
「こりゃ凄い!」
感心するジェジェジェを押さえてリタが質問する。
「で、これを使うと壁を擦り抜けられるって事?」
リタの問いは当然だが、途端にメルセデスは微妙な顔付きとなってふたりに問い掛けてきた。
「あのですね……、幽体離脱ってご存じですか?」
これにはふたりとも自然にうなづく。
二十世紀初頭はアメリカなどを中心に降霊会が盛んに行われるなど、『霊』や『生き霊』の存在が科学界や法曹界でも真面目に討議されていた。
例えば一九一九年以来、アメリカの『奇術王』或いは『脱出王』と呼ばれたハリー・フーディーニ(本名:エリック・ヴァイス)は様々な霊媒師のインチキを暴いていたが、その理由は亡くなった実母との『本当の交信』を望んでいたからだ。
あのエジソンですら最後の発明品として『霊界通信機』なるものを残している。
また、真偽の程は定かでないが一九二六年にはアメリカではバート・リーズという自称超能力者が詐欺罪で告訴されたが、法廷で超能力を披露して無罪を勝ち取っているという。
日本でも一八九五年から一九〇〇年に掛けて長南年恵が騒乱罪で三度逮捕されるが、こちらも同じように神戸の法廷で能力を証明して無罪となった。
(正式な拘留記録や裁判記録が残っており、不可思議な現象が記録されている)
つまり、この時代において『幽体離脱』は一笑に付して良い話では無かったのであり、当然その様な薬の発明も有り得る、と考えて不思議ではなかったのだ。
となれば、ふたりともメルセデスの話に食いついてくる。
「いや、一種類だけでも手に入れたなら凄い事でしょ!」
「本物なら大発明よ!」
その様な貴重な品を手に入れたメルセデスに自然と驚きの眼差しが向けられる。
だが、不思議とメルセデスの表情は硬い。
そんな事には気付かず、薬は完全に本物だと信じ切ったジェジェジェは、此処で自然な質問を向けた。
「で、その薬の効果時間はどれくらいなんですかね?」
幽体離脱を使って敵の秘密を探るにせよ、効用の継続時間が分からなければ使い様がないからである。
が、その質問こそがメルセデスに取っては鬼門であったらしい。
今度こそ俯いたまま黙り込んでしまった。
いや、何やらボソボソと呟いてはいるのだが、下を向いた上に小声で喋るため全く聞き取れないのだ。
「いや、マドモアゼル・メルセデス、ちょっと聞き取れないんですが?」
「もしかして未だ試していないとかじゃないでしょうね?
はぁ……、しっかり仕事しなさいよね」
ジェジェジェの言葉はともかく、初対面から敵対心を丸出しにしているリタの嘲りの口調と溜息に、彼女は黙っていられなかった様だ。
バッと顔を上げると、はっきりと言い切った。
「既に五人で試しています。効果の最短時間は“三日”ですわ!」
そう言って、しっかりとふたりを見据えたのだ。
この自信あふれる言葉に、ジェジェジェのみならずリタまでもが感嘆の声を上げる。
「ほお、凄い!」
「最短で三日なら活動には充分すぎるわね!」
ふたりの言葉を聞いてメルセデスは、フフン、と鼻を鳴らす勢いだ。
だが、その時ジェジェジェはある事に気付いた。
「ねえ、マドモアゼル・メルセデス。ひとつお聞きしたいんですが?」
「何でしょうか? サー・ジェンスン」
メルセデスは可愛らしくにっこりと微笑む。
『花がほころぶ』とはこの様な時に使う言葉なのだろう、と思いつつ、ジェジェジェは訊いた。
「先程、五人で試して最短が三日と仰いましたよね?」
「はい」
「処で、最長記録は?」
その問いを聞いたメルセデスは血の気が引いた様になり、視線を窓の外に向ける。
ジェジェジェも自然と彼女の視線を追う。
その視線の先にはパリ一八区、モンマルトルの丘が見えた。
いわゆる『墓地』である。
「四人とも死んでんじゃねーか!」
ジェジェジェの叫びに執事役の男が悲しそうに首を横に振る。
「流石に九日目ともなりますと冬場でも臭いが出始めまして……。
あれが限界でしたな」
「あんたらアホなの? 単なる毒でしょ、それ!」
「三日目で蘇生した奴、誰だよ! 運が良いな、おい!」
怒鳴るリタとジェジェジェを尻目にメルセデスと執事役が“しみじみ”という感じで互いを労る。
「流石に三日も“飲まず食わず”にいますと体重が六キロも落ちましたわ」
「いや、飲んだ量が他の連中の五分の一程度で良かったです」
「本当に御迷惑をおかけしました……」
「いえ、仕事ですから……」
「「おまえかよ!」」
ふたりの声が揃った。
前回、ミスがありました。
これもたまり様からの質問で気づいたんですね。
二重に感謝です。
コーンウオール地方はフランスとの戦争で功績が在った者に与えられることが多かった土地です。
直しを入れましたが、最初はコーンウオール自体が主戦場のような書き方でした。
失礼しました。
アーサー王伝説に関係するのかとも思いましたが、アーサー王がイギリスの歴史で再発見(注目)されるのは19世紀に入ってからですので関わりは薄いかと思います。 そう云う訳で理由は良く分からないのですが伝統のようです。
さて本筋ですが、次回こそ『本物の薬』か或いは『科学者』に迫りたいと思います。 よろしくお願いします。




