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11.婚姻編〔Ⅱ〕

 ジェジェジェは先ほど父親であるジェンスン伯が言いかけた『おかしな事』という言葉が気になって仕方ない。

 いや、それはメルセデスと執事役も同じであった。


「おかしな事、と言うのは何でしょうか?」

 執事役が訊いてくる。

 ジェンスン伯は少し考えているが、視線がやけに泳ぐ。

 何を見ているのやら、とジェジェジェが視線を追うと先程のリズという田舎メイドにチラチラと視線をやっているのだ。


 母親が死んで長いが、自分の父親の好みが“あれ”だとは知らなかったジェジェジェである。

 そう言えばマリアは、このメイドを親父が拾ってきたと言っていたな。

 しかし、その件はひとまず置くことにしよう。


 気持ちを切り替えて先を促すのだが、ジェンスン伯はやはり言葉を濁す。

「いや、何というのかな。私の考えが正しければ、今夜にでも答が出ると思う」

「今夜? どういう事だ?」

 ジェジェジェが首を傾げると、ジェンスン伯は自分の机の鍵を持ち出した。

 それを見てジェジェジェは大慌てとなる。

「おい、親父! この部屋にスパイが入り込んでいる可能性も有るんだぞ!」


 ジェジェジェの心配はもっともだろう。

 何せ先程消えた男は、今どこにいるのか全く分からないのだ。

 だがジェンスン伯はニヤリと笑う。

「まあ、気にするな。そこは心配ない」


 その言葉に執事役は汗を拭きつつ、尋ねた。

 元々痩せぎすの男だが、今にもしぼんで消えそうな程の慌て様だ。

「あ、あのですな、伯爵。そ、それは一体どういう意味でしょうか?」

「だから今夜にも分かる。慌てなくともよろしい」


 執事役とは対照的にジェンスン伯は落ち着き払ったものである。

 それから、ひとつだけ薬の問題点を教えると言ってきたのだが、


「その前にだな、ジェフリー。お前もそろそろ身を固めろ。

 丁度良い、と言っては何だが。 

 今、此方のフロイライン・メルセデスと話をして居た処、彼女はお前との結婚を承諾して下さったぞ。

 実家はユンカー(ドイツ貴族)だそうで、その上ホーエンツォレルン家(ドイツ皇帝)との遠縁にも当たると言うから悪い話では有るまい。

 つまり、この結婚で我が家は国王陛下とも繋がりが出来ることになる」


「は?」


「お前はさっきから『は』しか言えないのか?」

「いや、親父、そう云う事じゃなくてだな」

 ジェジェジェが思うに、父親はジェジェジェの結婚に口を出すようなタイプの人間では無かった筈だ。

 何故いきなりこんな事を口にするのだ?


 妙な話になってきた、と悩んでいると、

「誰か心に決めたご婦人が他にいるなら無理は言わんが、それなら明日中に名前だけでも教えろ。

 そうでなければ、この結婚は決定だ!」

 と、とどめを刺してきたのだ。


 一体どうなっているんだ。

 悩むジェジェジェにメルセデスが声を掛ける。

「あのですね~、私の家は皇帝家に連なると言っても末席も末席でして、ですから面倒なことは何もありませんよ」

 そう言って、にっこりと笑う。


 相変わらずの可愛らしさにクラッと来たが、そこを踏ん張った。

 何故だか知らないが、リタの顔が目に浮かぶのだ。


 考えてみれば、何故リタは自分と結婚しようなどと思ったのだろうか?

 不思議に思えてきた。

 金なら、彼女の方がよっぽど持っているはずなのだ。


 さっぱり分からない。


 そうやってジェジェジェが悩む中、ジェンスン伯は結婚の話はひとまず置いて、薬の話に戻ろうと言ってきた。


「ああ、そうだ! 問題点って何なんだ、親父!」

「うむ、まず第一にだ。“スパイが薬を飲んだ瞬間、姿が消えた” お前、そう言ったな?」

「ああ、確かだ。間違い無いぞ!」

「いや、別に疑ってなどおらん。問題は、そこなんだよ」

「は?」


「実は(わし)はこのプロジェクトを止める側の人間でな。 所謂(いわゆる)、反対派という訳だ」

「は?」

「この物質透過薬はな、“完璧に作れば作るほど失敗作となる”と儂は思っとる」


「「「は?」」」

 3人の声が揃った。



   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 昼過ぎのティータイム。

 ジェジェジェは一人になりたかった。


 リズというあの田舎メイドが側に控えているが、貴族の世界ではメイドなどと言うものは犬、猫と同じで、呼ばれるまでは“存在しないもの”として扱われる為、これは人の数に入らない。

 そう云う訳で、ジェジェジェは今、一人である。


「う~ん。どうしよう?」

 悩むジェジェジェに、あろう事かリズが声を掛けてくる。


「ぼっちゃま、な~んか、悩み事ッスかぁ?」


 普通この様な事をメイドが行えば、鞭打ちで黙らせるのが普通だが、ジェンスン家ではそれはあり得ない。

 それにジェジェジェは元々、身分制度における労働者への扱いの酷さを好いてはいなかった。

 また一度死にかけて以来、不思議とその傾向は強まる一方でも有ったため、初対面のリズのこの行為もごく自然に受け入れてしまう。


「う~ん。お前は知らないだろうけどさ、貴族の結婚って自分の意志では決められない事が多いんだよ」

「何で、っしょうかいなぁ?」

「いや、家柄の釣り合いとか、結婚後の人脈関係とか、色々あってな……」

「はぁ~、ぼっちゃまさ、好きな娘っこ、居ねえんすか?」

「……」

「あ、いるんッスね。白状するッス。へへっ」

 下碑(げひ)た笑い声でジェジェジェをからかってくるリズ。

「お前、少しは雇い主に気を使え!」

「おらの雇い主は旦那様であって、坊ちゃまじゃあねえッス!」

 そう言ってリズは“つ~ん”と音が出そうなほどの素振りで顔を背ける。


 が、どうやらそれもポーズだった様で、再び「好きな人は誰か?」と問いつめてくる。

 実にしつこい。

「おまえなぁ! いい加減にしろ!」

 怒鳴るジェジェジェだが、リズはまるで気にする様子もなく、ヘラヘラと笑うだけだ。


 あきれかえって溜息を吐いた時、リズが唐突に動いた。

 いきなりドアを引いたのだ。


「ぎゃん!」


 とたんに、凄まじい声がする。

 どうやら耳をドアに押しつけて居たらしく、急にドアを引かれて、側転からひねりを加えた前転に移行すると、最後は両腕を広げながら片足を上げたテレマークを決めて立ち上がったメルセデスがいた。


「やるッスね、お嬢様。9.2ッス」

「ありがとう。今度のロンドン(オリンピック)には期待してね!」


「何を言ってるんだ、お前らは!」




あ~、やっと続きが書けました。

早いとこ結婚させないといけないのにねぇ。

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