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恋愛遊戯  作者: 魚京
2/17

恋愛遊戯2

 だからいつかは、こんな日が来るんじゃないかと思ってた。


 予兆は朝。やけに嬉しそうに未来が教室に入って来たんだ。

「おはよ。どうしたの? やけに機嫌良いじゃない」

りんちゃんおはよう。ちょっとね、待ってたモノが届いたんだ」

「ネットで頼んだの?」

「んー、まぁ、そんな感じ」

 ふふと笑いながら、未来は鞄から勉強道具を取り出した。その一瞬。教科書の間に挟まれた薄桃色の封筒。まるで隠すようにすぐさましまわれたソレは、きっとラブレターじゃない。勘でしかなかったけれど、単なるラブレターならば毎日のように未来はもらっているし、そのたびに困ったような顔をして捨てているから、間違いはないだろう。

 未来にちょっかいを掛けるイケメン達なら告白にこんな奥ゆかしい手段を取らないし、呼び出すにしても、電話やメールで気軽に連絡出来る。

 もしかすると百合的な嗜好の誰かが、という可能性もあるけど、いたってノーマルな未来が喜んでいるならば却下だった。

「ね、未来。放課後にケーキ食べに行かない? 駅前に新しいお店がオープンしたんだって」

「あ、ごめん。今日はちょっと用事があって……」

「そ? じゃあ、今度ね」

「うん」

 ほんの少し視線を揺らした未来に頬を緩める。必死で隠し事をする子供みたいで、可愛い。放課後。口の中で呟いてみた。迷ったのは僅かな時間。好奇心と老婆心。それから微かな不安と予感。

 杞憂だったら良いのにとの私の願いも虚しく、放課後の校舎裏で未来は三人の女子に囲まれていた。

 制服の崩し方からして先輩だろう。少し派手めな顔立ちの美人さんの両肩付近に、背の高いショートカットの人と茶髪のセミロングの人。三角形のような陣形で、未来に向き合っていた。

「だからっ、誰にでも媚びるのやめてくれないって言ってるの」

 美人さんが絞り出すような声を上げた。多少感情的だけど、悪意ってほどじゃない。恫喝よりも懇願に近いレベルだ。これなら話だけで終わるかもしれない。

 こっそりと木の陰に隠れながら、私はホッと胸を撫で下ろした。荒事は嫌いだし、穏便に済むなら未来にとっても悪くはない。根に持つことのないさっぱりとした気性の未来だから、話をすれば先輩達も落ち着くだろう。

 そう思って帰ろうかと思っていたとき、不機嫌そうな声が聞こえた。

「はぁ? 別に私は媚びてませんけど」

 それまで緊張というよりはどこか嬉しそうだった未来の顔が一変して、あからさまに残念そうな表情だった。飽いたように肩を落として下唇を突き出している。いかにも不満気な仕草に、先輩達は一気に眉を吊り上げた。

「媚びてるじゃない。皆に愛想振りまいて」

「皆にちょっとちやほやされてるからって、自惚れてるんじゃないの?」

「女王様気取りのイタい子にしか見えないんだけど」

「だから何? 相手にされないからって女の嫉妬はみっともないなぁ」

  未来が返した言葉で、先輩達が気色ばんだ。 ニヤリと笑みを浮かべた未来の表情は不敵そのもの。まるで火に油を注いでいるようだ。

「あの人達が私を好きなのは私のせいじゃないし。仕方ないじゃない。そうなってるんだから」

 傲慢さを滲ませた口調に、耳を疑った。

「私にとやかく言うよりも、彼らに直接言ってみれば? 『渋沢未来』に構わないでって。しょせんモブでしかない先輩方にそんな勇気があれば、だけどね」

 これは誰?

 素直で純粋で、天然で、正義感や責任感が強くて、お人好しで泣き虫な親友……とそっくりな見知らぬ女生徒がそこにいた。

 目の前の三人を小馬鹿にしたように笑い、冴え冴えとした冥い眸で見据える彼女に、肌がぞわりと粟立った。

「な、なによっ! 二年のくせに生意気ねっ」

 長身の女子が怒りで顔を赤く染めて、未来の肩をドンと突いた。ぐらりと未来の身体が揺れる。「きゃあ」と小さい悲鳴を上げて、校舎の壁に勢いよく背中を当てた。続けざまに、セミロングが右手を振り上げる。

「未来っ!」

 私の叫びをかき消すように、誰かの鋭い声が響いた。

「何をやってるんだ!」

 まるで猟犬のような素早さで未来の前に立ったのは、風紀委員長の獅童だった。疾駆したせいか普段は後ろへ流している前髪が乱れて、漆黒のたてがみのようだ。未来を胸に抱き込み、高校生とは思えないほどの迫力で女の子達を睨み付けた。少し遅れて駆けつけた男子も、委員長の後ろから同じように険しい顔をしている。腕に腕章をつけているから、彼も風紀委員らしい。

「暴力行為の現行犯だ。三人とも風紀委員会室に来い」

「委員長。渋沢さんは? 被害者の証言も必要ですが」

「先に保健室に連れて行く。どうせ別室で話を聞くんだ。俺が未来についておくから、そいつらは頼んだ」

 指示を出し、獅童先輩が未来を抱き上げる。お姫様抱っこと呼ばれる状態に未来は顔を赤らめて手足をばたつかせたが、獅童先輩に耳元で何か囁かれた瞬間に更に真っ赤になって抵抗を止めた。

 落ち着かない素振りで目線を泳がせる姿は、いつもの未来そのもの。恥ずかしそうに俯く可愛らしい少女だった。

「ち、ちょっと待ってよ。獅童君、私達は暴力行為なんて」

「お前達が未来を突き飛ばしたのは、俺がしっかり見ている。言い逃れは出来ないだろう」

「そんな、違うのっ、私はそんなに強く押してないよっ!」

「うるさい。これ以上無駄な言い訳は聞く気はない。後は頼んだ」

「はい」

「獅童君っ!」

 女の子達の悲痛な叫びに表情も変えず、獅童先輩が颯爽と未来を抱えて去って行った。すぐに女の子達も風紀委員に促されて、泣きながらのろのろとその場を動き出した。



5/17 誤字訂正

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