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“家族会議”

どうもHanzoです。

1月に1話更新が早くも崩れましたが、今後も懲りずに1月1話を目指します。

では、お楽しみ下さい。

 豪華な食事が始まった。


 部屋を満たす良い匂いに、この3日間まともに食事を食べていなかったアンの胃袋は悲痛な悲鳴を挙げている。

 口の中に唾液が溢れ、唇の端から垂れそうになるのをこっそり啜り上げる。

 1番近くにあった鴨の石釜焼きの皿の、1番上にあった1羽の肉塊に知らないうちに手が伸びていた。

脂で手が汚れるのも気にせず1羽分の肉塊を両手で掴み取ると、間髪入れずに小さな口を出来る限り大きく開いて腿の辺りにかぶりつく。


 ぱりりっ…


 芳ばしく焼けた皮と旨みが溢れんばかり肉が、心地よい音を立てて小さな歯に噛み千切られた。

 芳醇な風味の肉汁の甘味が口の中に広がる。


「…美味しい!」


 独りでに洩れる言葉。

 後はまるで何かに取り憑かれたように、ガツガツと肉を貪っていた。

 瞬く間に丸々と太った鴨肉を半分程食べ進み、鴨の腹の中に詰めてあった肉汁をたっぷりと吸った小麦で練った野菜の団子もたいらげたところで、息をするのも忘れて食べ物を口に詰め込んだのを今更ながら思いだし、咀嚼しながらも必死に鼻で荒く息をしながら小休止を取る。

 口の中いっぱいの団子を必死で噛みながら鼻の穴を膨らましていると、ふと目の前の円卓に座る人達の食事光景が目に入る。




 アンの目の前には、凄まじい風景が広がっていた。

 そんな風景に目を見開きながら、アンの口の周りとそばかすの目立つ頬は鴨の肉汁と脂で汚れ、その両手には半ば骨になった1羽分の鴨の焼物が彼女自身の両手にしっかりと握られたままでいる。

 更に驚くほどに大きく膨れた彼女の頬は、小さな顎の動きに伴いモゴモゴと動いている。

 それだけ見るなら、それはそれで凄まじい光景なのだが、アンの目の前に広がる風景はアンのそれを遙かに凌駕していた。



 まず、アンの右隣のアロウネとその右隣に座るカリナ。


 ――酒豪


 アンが鴨肉を頬張っている短い間に、彼女(?)達は傍らで酌をするアイナの持つ酒の瓶1つを2人で飲み干していた。

 因みにその瓶は1瓶で14,5杯の酒が入る大瓶である。

 その瓶に入っていた酒は、軽い麦酒や葡萄酒ではなく、麦酒を蒸留してオーク材の樽に数年寝かせた琥珀色の上等な火酒だとアロウネが言っていた。

 それが本当なら普通の人なら杯で5杯も呑めば酩酊し、10杯呑めば酔い潰れる代物である。

 ところが2人ともそれを水でも飲むように、今現在もカパカパと杯を傾け続けている。

 喉を焼くような火酒を、呑み易いように水や果実の汁で割らずに呑んでいるというにもかかわらずにだ。

 そうこうしている内にアンの目の前でラウラの持ってきた2つ目の瓶は空になり、アイナは3つ目の瓶を取りに部屋を出ていった。

 という事は、2人で14,5杯づつは呑んでいることになる。

 そんな2人の様子は酔っぱらって潰れる寸前かというとそういう訳でもなく、2人とも頬を軽く朱色に染め目を潤ませているだけで、動作も言葉もしっかりしていた。

 今も杯を傾けながら、『死』やラウラやアイナやゼフトやヤゴエモンと会話を交わしている。



 アンの左隣では会話に参加していないンガロは、猛烈な勢いで食べ物をかき込んでいる。

 食事前の祈りが終わって、ンガロが最初に焼き肉の大皿に手を掛けたのがアンには見えたのだが、次に見たときには焼き肉の皿の上には骨が山と積まれているだけたなっていた。

 その食べ尽くした量たるや、その1皿だけで円卓に付いた8人はあるほど山積みされていたはずだ。

 8人分の肉を食べ尽くした後も、人智を越える食欲を尽きることなく発揮し続け、今も大きな鱒の蒸し物を頭と骨だけにしている最中である。

 見ているうちに魚の身をたいらげ、それだけに止まらず、アンの見ている前で頭と骨もバリバリと噛み砕き始めた…。



 円卓の向こう正面のヤゴエモンとゼフトは、隣り合わせているのに対照的な食事風景を作りだしている。


 ――動きは清流の如く、止まれば霊峰の如し


 ヤゴエモンの食事は、厳かに格式高く、それでいて自然体に粛々と行われていた。

 まるで洗練された舞でも見ているようだ。

 右手に持った見慣れない木の棒2本を器用に使い、肉を千切り、魚の骨をより分け、野菜を挟み、そしてそれらを口に運ぶ。

 そして、それらの所作の合間に酒の杯を静かに傾け、周りの『死』やゼフトやアロウネやカリナと他愛の無い話題で談笑している。

 一連の作業に無駄はなく、かといって急ぐこともなく、その動作自体が芸術のような流れる動き。

 高貴な家柄の出自である事を、身をもって証明している。


 ヤゴエモンの隣のゼフトは、立派な白髭が汚れるのも気にも掛けずに食事を口に押し込み、アロウネやカリナ程ではないにしろ豪快に杯を傾け酒を呑み、食べ物や酒を口に入れる度に“あ~っ”や“くぅ~”などの感嘆の唸り声をあげていた。

 その唸り声の度に口の中で咀嚼された食べ物のカスや酒か涎の飛沫が飛び出し円卓を汚している。

 年寄りのくせに、まるで幼児のような騒ぎ様である。

 そして案の定、酒を注ぎ、空いた皿を下げ、新しい料理を運ぶため忙しく動き回るラウラとアイナが通る度、彼女達の尻を撫で、胸をつつき、卑猥な軽口を交わしていた。

 桃色爺スケベジジイの本領発揮である。

 その様子は不快を感じさせる物では無く、むしろ見る者を楽しくさせる雰囲気に満ちているから不思議だ。

 その証拠に、触られている対象のラウラやアイナは口では嫌がる言葉を発しながらも、頬を朱に染めた満面の笑顔でゼフトに対応している。

 今も酒を注ぎに来たラウラの胸を触ろうとして、笑顔で手の甲を抓られているゼフト。


 隣り合わせでありながら、その様相は天と地ほどもあるゼフトとヤゴエモン。



 そして、この部屋で1番の異様な雰囲気を放っているのが言わずもがな、暖炉前の席を陣取る『死』と『生』である。

 『死』は杯ではなく、“巨大な樽そのもの”を杯代わりに酒を呑んでいた。

 『死』が最初の1杯目を杯で飲み干した直後、店から奥の部屋に通じる扉を守っていた用心棒の大男が、二人掛かりで火酒の大樽をヨロヨロとよろけながら担ぎ込んできた。

 それをまるで当たり前のように、杯の如く軽々と掲げ上げて、酒を呑みだすその豪快な『死』の姿。

 用心棒の男はその後も樽を必死に運び込み続けて、『死』の後ろにはその手にしている樽以外にも6個の樽が並んでいた。

 因みに、2個の樽は既に空らしく、栓が抜かれた状態で横に転がされている。

 アロウネやカリナ程度なら“酒豪”の一言で済むが、人の胃の体積を越える酒の量を短時間に飲み干すという、物理的におかしい『死』の状況を何と言えばいいのか?


 物理的におかしいといえば、その隣に座る『生』も相当におかしい。

 白い服装の彼女は未だに膝の本に目線を落としたままでいるが、食事をしない訳ではないらしい。

 というのも、樽酒を呑む合間に『死』がいろんな料理を取る度に自分の皿で半分に分けて、『生』の皿に甲斐甲斐しく乗せているからである。

 しかし、『生』は食べていない、いや、正確に言えば食べている姿を見せないのである。

 隠れて食べているという訳ではない。

 アンが口の中の物を咀嚼しながら、いくら観察していても『生』は料理を食べずに膝の上の本に視線を落としたままで、アンが他の食べ物にふっと意識を反らした次の瞬間には皿に山と積まれた料理が消え、酒の杯の中身が無くなっている。

 白磁で出来たような『生』のほのかに朱に染まる頬と優美な曲線で構成された顎がモグモグと動いていなければ、誰も彼女が皿の料理を食べ、酒を呑んだとは思わないだろう。




「…凄い」


 驚きながらも空腹のために手にした鴨を食べ終わり、手元に置かれていた匙で温野菜を自分の皿に取りながら、アンは呆気にとられた表情で呟いた。


「あたしの店の料理の味はどうだい?

…まあ、その様子を見るに聞くまでもないね」


 目の前の状景に呆けた表情を浮かべながらも、皿に盛った温野菜を素早く食べ進めるアンに、心持ち陽気な声色のアロウネが尋ねた。


 アンは慌てて口の中で咀嚼中だった馬鈴薯を飲み込み、そしてナプキンで乱暴に口を拭きながら答える。


「ん、んぐ、あ、ゴホッ、あの、どれも凄く美味しいです。

特にさっき食べた鳥の皮がパリパリしてて、肉汁がたっぷりで、お団子がプリプリでとっても美味しかったです。

あんな鳥、初めて食べました」


「そいつはありがとうよ。

うちの料理人が聞いたら喜ぶよ。

ところで、鴨を知らないのかい?

お嬢ちゃんは、何処の出身だい?」


 杯を傾けながらアロウネが問う。


「ルーサンの西の端にあるシノギ村ですけど…」


 アロウネの質問に、怖ず怖ずとアンが答えた。


「なるほど、それじゃあ無理もないね。

あれは真鴨といって水辺に住んでる水鳥さね。

シノギ村のような、高地で水場がない場所には居ない鳥だからね。

ああ、あたしの話を聞くのにわざわざ手は止めなくていいよ。料理が冷めちまうから食べな」


 話し終えると一気に杯を煽り、杯を横に突き出すと、待っていたかの様な拍子にラウラが瓶から杯に酒を注ぐ。


「は、はい、いただきます。

…あの、どう料理したら、はむっ、あんなに、もぐっ、美味しく、がむっ、出来るんですか?、んぐっ」


「お嬢ちゃんは料理をするだね。

知りたいのかい?」


「はい!、がむっ」


 こんなに美味しい物覚えておけば助け出した父にご馳走してあげれると思い、食事しながら元気に返事をするアン。


「秘伝なんだけど、特別に教えてあげるよ。

皮には蜂蜜を元にブレンドしたタレを塗って焼き上げてあるのさ。

肉は新鮮なやつをきっちり下拵えをするのが秘訣だよ。

血抜き、羽の処理、内蔵の処理、迅速にしなきゃ意味がない。

うちの店は水鳥を太らせる専用の檻をルーサン河に持っているから、常に新鮮な水鳥がすぐ手に入る。

小麦の団子は、そんな鴨の旨い肉汁と脂をたっぷり含んでるから美味いのさ。

さばき方やタレの配合や使っている香辛料の種類や釜の温度なんかの細かい事を知りたきゃ、うちの料理人に聞きな。

話は通しておくさね」


「ありがとうございます!、んぐっ。

へ~っ、凄いな。

雉なんかの山鳥でも、もぐっ、出来るかな?」


「それはそれで美味そうだね。

まあ、今は無い料理よりも目の前の料理さね。

遠慮せずに他の料理も食べな。

…ところでお嬢ちゃん、シノギ村出身でシノギの姓ということは、お前さんは『武器嫌い』シエル=シノギの娘だね?」


「はい、がむっ、そうです!

…あれっ、私アロウネさんに名字言いましたっけ?、むぐっ」


「細かいことは言いっこ無しさね。

それで、『武器嫌い』の娘なんだろ?」


 アンの疑問を飄々と受け流し、自らの疑問の確認をするアロウネ。


「はい、がぶっ、そうです。

お父さんの事を、あむっ、知っているんですか?」


「知っているも何も、ルーサンでも1,2を争っていた鍛冶師の名前を知らない方が可笑しいね」


 アロウネの言葉は、母が死んでからの父の状態を知るアンの心に複雑な気持ちを産む。


「お父さん、そんなに有名だったんだ…」


 父親の有名だった事に複雑な表情を浮かべているアンに、火酒で緩んだ表情を厳しく引き締め、目を鋭く光らせたアロウネが更に質問を重ねる。


「…話が変わるがね、お嬢ちゃん、旦那に何の素材で何を作って貰うんだい?」


 アロウネの様子の変わりように、動揺しながらアンが答える。


「…あのっ、ミ、ミスリル?で義足を作って貰います」


「ミスリルで義足?

失礼ですがアン様は足が不自由なのですか?」


 杯を傾けながら耳をそばだてていたらしいカリナも、目を光らせて話に割って入って来た。

 2人の興味を示した様子にアンは少し迷うような仕草を見せた後、体を右側の2人に向けて両足のズボンの裾をゆっくり膝までまくり上げる。

 偶然カリナの後ろに控えていたアイナの、はっ、と息を飲む音が聞こえた。

 アロウネとカリナは、すうっと目を細めたものの、表情ひとつ変えないでアンの足を眺めた。

 普通の人ならば生身の脛の有るはずの部分は、両足共に木目模様の義足が装着されており、膝下すぐの義足と生体とを繋ぐ革製の受け皿に固定された金具から義足と体を固定維持する為の革のベルトが太股の方に4本づつ延びて、義足本体を生体の一部となるよう強固に固定していた。

 義足の装着面にある膝下は、擦れ防止の為か肌着の様な柔らかい布を1枚づつ介してはいるが、その布は赤黒い血で所々染まっており、アンの足が傷ついているのが解る。

 三日三晩もの間に王都を走り回って情報を求めた代償で、義足と擦れた皮膚からの出血であろう。

 義足本体は人体を模した緩やかな曲線を描く手の込んだ作りで、足さえ衣服で隠れていれば義足とは解らない精巧な代物だった。

 足首部分は革靴で覆われていて見えないが、アンの自然な動作を見る限り、かなり高度な構造なのが容易に想像できる。


「…その足は、どうしたん」

ドカンッ!!


 アロウネの疑問の言葉は、突然の轟音で話途中で止められた。頑丈な円卓は小さく震え、円卓の上の料理を乗せた皿や杯がガチャンと音をたてる。

 アンは驚きで小さく飛び上がって、音のした方を慌てて見た。

 その轟音は『死』が樽を円卓に激しく置いた音だった。


「…アロウネさんよう、アンは俺と契約を結んだ依頼人、言わば身内なんだ。

腹の中をあの手この手で探られるのは正直、お前であってもイケスカねぇ。

…道理を通しな」


 灰色の右目を細めて見つめて言葉を吐き出す『死』に対し、突然の轟音に驚いた様子もなく首を少し傾けて肩をすくめ、唯々薄ら笑いを浮かべるアロウネ。


「おやおや、こっちに依頼があるんじゃなかったのかい?

つれない態度は女の気持ちを萎えさせる事もあるんだよ。

ママに教わんなかったかい?」


「…そういう事じゃねぇんだ。

俺は“道理”を通せと言ったんだがな?

最近、老けたとは思ってたんだが、自慢の耳まで老いぼれたかい、『大耳』?」


「…言うねえ、職人風情の糞餓鬼が。

あたしの力が無ければ何の手配も出来ない、能無しが。

誰のおかげで今の立場にいれるかお忘れかい、ハナ垂れ坊や」


「その言葉、そのまま返すぜ、阿婆擦れ。

俺が居なけりゃ、お前は雑草の肥やしか、魚の餌になってんだ。

“感謝の心”は尊いぜ?」


「年寄り扱いするなら、敬意を持ちな。

“敬う心”も大事さね。

…違うかい?」


 『死』とアロウネの間で会話が交わされる度に、部屋を満たす空気が危険を含み、際限なく重くなっていくように感じる。

 人はそれを“殺気”と言う。


 アンは慌てていた。

 よく解らないが、自分のせいで喧嘩が起こりそうなのを止めなければ。

 しかし喉のすぐそこまで出かかっている声が出ない。

 アンの意思とは逆に体は痺れたように動かず、唯々目の前の出来事を見守るのみ。アンは剣呑な雰囲気に呑まれていた。


 ――怖い恐い怖い恐い…!!


 助けを求めて何とか動く目で回りを見ると、『生』は本に目を落としたままで、ゼフト、ヤゴエモン、ンガロ、は何事も無いように普通に食事を進めている。

 カリナはアロウネの横で美しい切れ長の目で『死』を睨みながら、軽く身構えていた。

 ラウラとアイナは、アンと同じく殺気にあてられて固まってしまっている。

 今も高まり続ける部屋の中の緊張。

 お互いを睨み続ける『死』とアロウネ。




 どれだけその時間が続いたか。実際は数秒ほどかもしれないし、数分かもしれない。

 突然、頭を小さく振り、深く息を吐くアロウネが渋々な感じで呟く。


「…年寄りをからかうんじゃないよ、この若造が…。

…。

……解ったよ、解ったよ。

余計な事は聞かないよ。

何か聞くなら旦那を通すよ。

これで良いかい?」


「あぁ、それで良い。

お互い幸せならそれで万事上手く行くってもんだ。

余計な詮索して、物事かき混ぜる必要はねぇよな?」


 『死』の言葉でその場の雰囲気を支配していた殺意は嘘のように消え去り、平常の空気が再び部屋を満たした。

 金縛りから解放され、椅子にへたり込み脱力するアン。

 大きく深い溜息を1つ吐く。

 背中には嫌な感じの冷や汗が、今更ながらに噴き出してきた。


「アンさん、どうしまシタカ、溜息なんか吐イテ?

お料理や飲み物は口に合いまセンカ?」


 爽やかな笑顔で何事も無かったかのように話しかけてくるヤゴエモンに、脱力していたアンは苛立ち、立ち上がるなり食ってかかった。


「何でそんな涼しい顔してるんですか?!

何で止めないんですか?!」


「これが旦那の言ってた“裏の人間と関わる”という事だの。

こんな事で慌ててたら何も出来んの」


 飄々としたゼフトが、怒り叫ぶアンを諫めにかかる。


「でも、でも、変ですよ!

殺し合いを始めそうな人達を前に、美味しくご飯を食べるなんて!」


「ングッ、殺す?

違う、殺す、無い、話、する、だけ」


 頬張っていたシチューを飲み込み、ンガロが平然と答える。


「話をするだけ?

そんな……。

そんな、そんな、そんな!」


「あら、アン様は本当の殺し合いをした事がありませんのね。

本当の殺し合いなら、あんな殺気じゃ済まないんですのよ♪」


 カリナの説明に、アンは何も言えなくなってしまった。


「…」


 ――これが…裏社会、これが…私が今から踏み込む世界。


 暗い後悔の気持ちに塗り込められそうな自分を奮い立たせようとするかのように、その場に歯を強く噛み拳を握り締めるアン。


「後悔してんだろ、アンさんよ?」


 先ほど叩きつけた樽を持ち上げ、グッと煽った『死』がアンに問う。


「……後悔なんかしてません」


 絞り出すように呟いたアンの言葉に、『死』の唇が笑みの形に歪む。


「よしよし、良い答えだ。

それでこそ俺の腕の振るいがいがあるってもんだ」


 満足そうに頷く『死』。

 アンはただ恐怖に震える腕を押さえつけ、椅子に座る事しか出来なかった。






 脅えてしまって食事が進まなくなったアンを余所に、他の皆の食事は終わった。

 恐怖に震えてそれ以上食べられなかったアンの皿に残っていた料理は、持ち帰れるように素焼きの小皿と布に包まれてアンの目の前に置かれていた。

 アンの皿以外の山のような食べ物達は綺麗サッパリ無くなり、シャブリ尽くされた牛や羊や山羊や魚の骨の山が皿や鉢に盛られた物が、ラウラとアイナの手で手際よく運び出された。


「さて、腹も膨れた。

今からは頭を動かせ。

…“家族会議”を始める」


 重々しく宣言し、7樽目をゆっくり傾け、チビリと酒を呑む『死』。


「…家族…会議?」


 恐怖の震えが未だ止まらないアンの呟きに『死』が答える。


「そう、“家族会議”だ。

では、各自の役割を確認する」


「…役割?」


「まず、俺と『生』とアンさんは明日の昼、北のドワーフの鉱山にミスリルを掘りに行く。

帰りは15日から20日後だ。

その間、ゼフトは“氷の大地の民”の武器を再現した物を木製で作っとけ。

訓練中に壊れるから、出来るだけ数を用意しろよ。

ヤゴエモンとンガロはゼフトを手伝え。

アロウネとカリナは“氷の大地の民”の情報を集めろ。

ついでに氷の大地への渡航方法も調べといてくれ。あと、訓練相手に傭兵を10人程揃えてくれ。

此処までで質問は?」


「…えっ?、…あっ」


「作る武器は剣、斧、槍、手斧、短剣、弓矢でいいですかの?」


「短剣と弓矢は準備しなくていい。

訓練では短剣と弓矢は本物を使う。

ただ、矢はやじりを取った物を準備しろ」


「訓練相手は傭兵なんデスカ?

ンガロと私では駄目なんデスカ?」


「…あっ、…あっ」


「アンさんの相手は100を越える数の歴戦の猛者共だ。

普通、女1人で相手に出来る数じゃねぇよ。

10人相手でも少ない位だ。

ただ、集めすぎると目に付く。

たんまり集めて城の『禿頭』を刺激するのはいっこうに構わねぇが、アンさんが対応出来るのは10人程度が限界だろう。

まあ、最後の仕上げだけはお前等2人に頼むからよ」


「『死』の旦那、その傭兵なんだけど、報酬はどれくらいで集めるんだい?」


「日当は通常時の5倍の2500リヤルを準備する。

危険度なら5倍じゃ割に合わねぇんだが、あんまり派手な報酬だと鼻の良い奴等は警戒して寄って来ねぇ。

戦時の傭兵への報酬は、普通時の5倍だったと思うが?

そんな感じなら、奴等にも感づかれず飛びつかせられるだろう」


「…いや、あの、あの」


「確かに戦時の報酬は5倍だよ。

まあ、気張って集めてみるさね」


「『死』様、渡航方法は安全重視、時間重視、その両方を重視、どれを選択いたしますか?

それと、金銭の限度額は、いかほどでしょうか?」


「両方を重視してくれ。

早く確実に向こうに着くのが大前提だ。

金に糸目はつけるな。

ケチって海の藻屑になるってのは、笑えねぇ冗談だろ?」


「解りました。

では、“氷の大地の民”の調べる対象は具体的には如何いたしましょう?」


「リーグ族を中心に調べてくれ。

季節ごとの宿営地、他の部族との繋がり、戦士の正確な数、調べられる物は全て調べろ。

特に族長のアイオーン=シュグワルドとその側近達の情報は、何としてでも知りたい。

頼んだぞ」


「あっ、あのっ!!」


 目の前で勝手にどんどん進む話に、堪えられなくなったアンが大声を挙げた。全員の視線がアンに集まる。


「あのあの五月蝿いな…。

…何だ、アンさん?」


 話の腰を折られる形となった『死』が溜息を吐いてアンを睨みつける。


「ごごごめんない…。

…あの、訓練って誰がするんですか?」


「お前以外に誰が居る?

ミスリルの義足だけ付ければで強くなるって訳じゃねぇんだぜ。

伝説の勇者の剣をそこら辺のおっさんに持たせても、ドラゴンを殺るどころか羊1匹も斬れねぇって事さ。

だいたい、お前さんは戦い方を知ってはいるみたいだが、たいして強くねぇだろう。今のままで義足造って送り出したところで、おっ死んじまうのが関の山だ。

訓練は必ず必要だ」


 『死』の歯に絹着せぬ物言いにアンは、唯々苦笑いを浮かべるしかなかった。


「…はっきり言いますね…」


「嘘は嫌いでね。

事実だろ?」


 そういうと『死』は酒樽を傾ける。


「…否定出来ません…」


 『死』の正論過ぎる正論にアンは俯いて座るしかなかった。


「他に聞いとく事は何かないか?話の越を折られるのは好きじゃないでね」


「…何で私の事に、これだけの人が協力してくれるんですか?

義足を作って貰って、それで終わりだと思ってたんですけど…。

いくら私達一族の全てをお金にしても、儲けなんか出ませんよね?」


「お前、…何聞いてたんだ?

俺の作ったもんを殺しに使われちゃあ、たまんないんでね。

アンさんがどう思おうが、俺ら〔『生』と『死』と老人と下僕共〕はお前のやりたい事に手を貸すが、訓練しながら教育もさせてもらうぜ。

儲けようとは思ってねえよ。

まあ、覚悟だけはしときな」


 『死』の言葉に今度は呆れるアン。

 商売は儲けてこその商売である。

 アンは故郷の村で嫌と言うほどその言葉の意味を味わってきた。

 いくら名工と呼ばれた父といえど、暮らしは裕福ではなかった。

 というのも父のシエルが採算を考えず、自分も依頼者も納得する良い物を作る事に心血を注いだからだ。

 そんな父の姿が、何故か豪華な食事や酒を喰らう『死』と重なって見えた。

 純粋に金儲けの為だけなら、作る物を作って対価を貰えばそれで済む話で、『死』の作る義足の価値は解らないが、さきの話し合いの内容を聞く限りでは最終的にかかる費用は明らかにシノギ家の全財産を大きく越える額になるのは明白である。

 儲けが目的でないなら何が目的なのか、アンの頭の中は混乱していた。


「…でも、…でも、こんなに調子よくポンポンと話が進むと何だか怖くて…。

何だか騙されているみたいで…。」


「物事を成す事に屁理屈はいらねぇんだよ。

お前が本気にしたい事をする。

全てを投げ捨てて、それをするんだろ。

それを俺等が報酬目当てで手伝う。

報酬にはお前さんの“全て”を貰うんだ。

これ位はして当たり前だ。

それに自分の作った物は正しく使える奴に売りたいからな。

何か可笑しいか?」


『自分の作った物は正しく使ってくれる人に買ってもらいたいからな』


 奇しくも、アンが気に入った人の仕事しかしない父にその理由を問うた時に帰って来た答えと同じ言葉が『死』の口から飛び出した。


「…いいえ、…可笑しくありません。

…皆さん、…有り難う御座います」


 アンの目からは何故か涙が、口からは感謝の言葉が溢れた。


「何故、泣く?

俺等はお前が支払う代償という甘い匂いに吸い寄せられた虫みたいなもんだ。

嫌われこそすれ、感謝感激の涙を流される覚えはねぇよ。

相応の覚悟があって、報酬さえ頂ければ何だってする。

それが俺の店の法律さ。

何度か言ったが、人殺しだけは遠慮するがね」


 7つ目の酒樽を大きく傾けながらトントンと樽の側面を叩いて最後の一滴まで飲み干し、空の樽を後ろに転がしながら『死』がアンに言った憎まれ口は照れ隠しのようにも見えた。


「…でも、有り難う御座います。

私の酔狂に付き合っていただいて、有り難う御座います」


 事態の収束まで静観を守っていた周りも、それぞれの思いを話し出す。


「やれやれ、お嬢ちゃんはとんだお人好しの依頼者みたいだね。

相変わらず、旦那も相当のお人好しだけどね」


「アン様は複雑なお方なんですわね」


「旦那も複雑だの」


「似た者同士なんデスネ」


「アンちゃん、良い子。

ンガロ、助ける、する」


 まだ本に目を落としたまま、心なしかにこやかな表情でコクコクと頷く『生』。

 家族団らんのような穏やかな雰囲気の中、唯1人心中穏やかではない人物がいた。

 話題の中心たる『死』その人である。


「アンさん、お前今自分のしようとする事を“酔狂”って言ったな?

親父さんを助けるのは無理と思ってんのか?

それとも死ぬ気は無いと言ったのは嘘か?」


 今までの事をぶち壊しかねない問題発言をした事への『死』の厳しい追求に、アンはジトリとした嫌な汗を流し、体は強ばり、パクパクと開閉する口からは言葉にならない言葉が切れ切れに飛び出す。


「…いっ、…いや、あの…、ちが…、ちが、います…」


「…そんな風に思ってるな?」


 容赦ない『死』の追求にアンは認めるしかなかった。


「…は、はい。

簡単には成功しないと思ってます。

だって…、単純に考えて1対100ですから…」


「…ふむ、ならちょっと実験するから見てろ」


 また睨みつけられるか怒鳴られる覚悟をしていたアンを余所に、ぱっと何処からか便箋大の薄い紙を2枚と掌と同じ長さ位の木の棒を取り出す。


 『死』は木の棒をゼフトに渡し、両手で端を持って胸の前で掲げさせ、アンに向き直って問をだす。


「さて、実験だ。

この紙でゼフトが持ってる木切れを折れると思うか?」


 ぺらぺらの紙を、アンに向けてヒラヒラと振る。


「折れないと思います」


 アンの即答に『死』は頷くと紙の1枚を円卓に置き、手にした紙を棒に振り下ろした。


ビリッ…


 結果は歴然としていた。

 紙が千切れる音の後には、棒切れにまとわりついた紙片と『死』の手に握られた紙片。


「…当たりだ、アンさん。

では、次だ」


 『死』は円卓に置いた紙を手早く折っていく。

 細い棒状に折られた紙。


「これで木切れは折れるかな?」


「折れないと思います」


 アンの自信たっぷりの答えに『死』はまたも小さく頷くと、先ほどと同じ様にゼフトが掲げる木片に紙を振り下ろした。


パシィッ…!


 『死』の手にはボロボロに破れた紙、ゼフトの両手には折れた木の棒。


「…折れた?!

どうしたんですか?!」


「どうしたもこうしたもねえよ。

大した事じゃねぇよ」


 驚きで両手を拍手せんばかりに合わせるアンに対して、冷静に小さく鼻を鳴らす『死』。


「凄いです!

…でも、なんでこんな実験をするんですか?」


「解らねぇか?

思いこみは思いこみでしかねぇって事だ」


「…はあっ…?」


「本当に解らねぇか?

例え貧弱な物でも、やり方によっては強固な物にでも勝てるってことだ」


「はあっ…」


「気のない声出すんじゃ無ぇよ。

本当に解ってんのか?

…みなまで説明させんじゃねぇよ…」


 再三の『死』の説明にも理解していない顔で返事を続けるアンに、『死』は頭を掻き毟り大きな溜息を吐く。


「お前が“出来ない”と思っている事をやって見せた。

工夫1つで可能になる事があるってこった。

つまりは、お前1人でリーグ族から親父さんを助け出すっていう奇跡を起こす事も可能だ」


「はあっ…。

でも、それとこれとは別問題だと思うんですけど…。

そんな奇跡が私に起こせるんでしょうか?」


「その“奇跡”を起こすために全財産かき集めてルーサンの端から端まで旅してきたんだろうが。

『生』の助力もあったが、俺が出来ると判断したんだ。だから俺は義足を作る。

だからお前は必ず出来る。

だから奇跡は起こる。

だからお前は訓練しろ。

でなきゃ、義足は作らねぇ。

それは契約書には違反してねぇはずだかな?」


 射るような灰色の視線がアンを射抜く。


「は、はい、た、確かにそうです…。

でも本当にその訓練で私は強くなるんですか?」


 更なるアンの疑問に『死』がゲンナリした表情を作る。


「…何時になったら納得するんだ。

心配するな、強くなれるぜ。

…例えばだ。

少々、極論にはなるんだがな…。

戦闘においての鍛えるべき人の素養、つまりは強さの定義。

極限まで追求すれば、力と速さと技術と知力の4つに分類される。

この4つのうちで重要な物、それは何だか解るか?」


「……知力……かな?」


 恐る恐るのアンの回答はバッサリと斬って捨てられる。


「あんたの目は節穴だ、アンさん

この問いに対する答えは“全て”だ。

バランスがとれていることが重要。

どれか一つが欠けても勝てる要素は極端に下がる。」


「でも、私、力は強くないし頭も良くないんですけど?

訓練で力が強くなったり賢くなったりするんですか?」


「そこでさっきの実験だ。

紙の巻いたので木を折る、これには速さと技術の兼ね合いで可能な事だ」


「はあっ…」


「また“はあっ…”か!

…いいか、耳の穴かっぽじってよく聞けよ?

今の実験は、お前さんの戦闘における希望的なスタイルを模擬的に実践したものだ。

速さは今のままで十分ある。

技術と速さがあればさっきの実験のように早さから力を産み出す事が出来る。

速さを生かす技術はアロウネの集める傭兵とヤゴエモンとンガロが鍛え教える。

知力の元になる情報はアロウネとカリナが集める。

俺は魔法の義足を作る。

あとはアンさんが持ってる“運”次第で結果は“これ”になる。俺らは成功報酬を受け取り、あんたは親父を助ける。皆がハッピー大団円ってこった。」


 『死』はゼフトから受け取った折れた木片と持ったままだった破れた紙をアンの方に放った。


「…はあっ」


 目の前まで円卓の上を滑って来た紙と木の棒を恐る恐る取り上げて、何度目かの気の無い返事をするアン。


「その返事は信用してねぇな?

まあ、お前がその紙みたいに破れないように良い義足を鍛えてやるさ。

いくら思惑通りにいけたとしても、ボロボロのアンさんから“全て”を貰うには俺の良心が痛むからな。

他に質問は?

無いなら“家族会議”はお開きだ」


 全員が黙ったまま『死』を見つめ何も言わない。

 『死』とアン以外の全員の頭の中で「…『死』に良心…?」という疑問が溢れ、何も言えなかったのはここだけの秘密の話である。


「無いな…。

では、終わりだ。

……っと、アロウネ、別件で早急に調べて欲しい事がある」


「なんだい?」


「カシエ=エラという名の吟遊詩人の事だ」


 突然の聞き覚えのある名前に、見ていた手元の木片から顔を上げ驚愕の表情で『死』を見るアン。


「正確に言うと、ルーサンの西端のシノギ村でカシエ=エラという名の吟遊詩人を演じていた人物を調べてくれ」


「そいつは何者だい?」


「恐らくだが、“呪言師”だ。

しかも強力な力を持っている。

母親を殺され、父親を連れ去られ、両足を切断され、心が壊れた人間を立ち直らせて俺等に会わせる行動をさせた」


 カシエ=エラ。

 シノギ村の豊穣祭に何年かに一度来る吟遊詩人。

 父親のシエルの腕に惚れ込んで自らのリュートの弦の制作を依頼してきた長身の美青年。

 笑顔が嘘っぽくて何だか近寄りたくない印象の男。

 でも、〔『生』と『死』と老人と下僕共〕の存在を教えてくれた恩人。

 アンにはそれだけの存在でしかない人物である。

 でもそれは『死』の目から見ると違う物に見えたらしい。

 しかもアン自信も巻き込まれた形になっているらしい。


 ――そんな…、どういう事?!


「あらあら、アン様の事ですの?

『死』様、呪言師がらみの依頼、大丈夫ですの?

最悪、アンさんが操られているとはなりませんか?背中を向けたらグサリと…」


 カリナの物の言いように、アンはついきつい言葉で反論してしまう。


「まるで私が暗殺者みたいな言い方しないで!

私は私の意思で此処に来た!

カシエさんは関係ないよ!

だいたい、呪言師なんか知りません!」


「寝首は欠かれやしねぇよ。

調べはついてる。

呪言師の呪いは今晩か明日にでも『生』が解く。

アンさんよ、呪言師の事はまた説明してやる。

今日は帰って寝ろ」


 『死』の言葉に『生』がコクコク頷く。


「そうだの、グダグダ言うんじゃないの、この男女。

アンちゃん、安心するの。

旦那の“世界の目”が見たんだから大丈夫だの」


「世界の…目?」


 ゼフトの口出た意味不明な言葉にアンがゼフトと『死』を見比べる。


「…ゼフトさん、余計な事言っちゃ駄目デスヨ。

アンさんと「妖花」の人達は知る必要の無い言葉デスヨ」


 ゼフトの発言は不注意な物だったらしく、ヤゴエモンがゼフトを小声で咎めた。


「ヤゴエモン、余計な事じゃねぇよ。

“世界の目”の事は知ってたんだろう、アロウネ?

さすが『大耳』の2つ名は伊達じゃないってか?」


 アロウネに向けられた『死』の目が細く鋭くなる。


「…何の事だか、よく解らんね」


 『死』の痛いほどの視線の中、否定の言葉とは逆にアロウネは意味ありげにニヤリと笑い煙管を噴かす。


「…化かし合いなら、今日はもう沢山だ。

さて、飯も喰ったし酒も呑んだし話もしたからそろそろおいとまするか。

アロウネ、幾らだ?」


「全部で9000リヤルに負けとくよ」


「高っ!!」


 法外な値段にアンは叫んだ。


 先に記した傭兵の通常日当の500リヤルは、一般の5,6人家庭での5日分程度の食費が賄える。

 一般の人達の収入は職業ごとにバラバラではあるが、日当500リヤルは高給の部類に入る。

 そんな背景の中での一食9000リヤルの食事の高価さに叫びを挙げたアンは当たり前の行動であった。


「何を仰ってるんですの、アンさん。

格安ですわ」


 アンを横目でチラリと見て軽く非難するカリナ。


「ほらよ、釣りは要らねぇよ」


 『死』の手から放られ宙を舞う1万リヤル金貨がキラキラと放物線を描く。

 それは円卓の対岸のカリナの右手にスポリと収まった。


「毎度あり♪

また来ておくれよ」


 アロウネの吐き出した紫雲が部屋の天井に向けてぷかりと漂った。


浅学のため、1話から3話も修正しました。

大筋は変えてませんが、小さな表現を変えました。

読みにくくて申し訳ありません。

誤字脱字がありましたらお手数ではありますが、Hanzoまでお知らせ下さい。


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