堕天せし使徒~最強が裏切る展開って絶望的で面白いよな~
AD2999年12月24日。
突如として地球とは異なる異世界との門が繋がり、まるで虫食いのように、気が付けば空を穿っているその虚無より、異世界のモンスターや力が、地球へと流れ込むようになった。
現行の兵器の一切が通じない異世界の法則で動くモンスターは、現れたその瞬間から人や物に関わらず破壊を撒き散らし、只ならぬ混乱の中で人類はモンスターに成す術も無く蹂躙されるかと思いきや、人類側にもモンスターと戦う力を持った人間が現れ始めたのである。
異能。
皮肉なことにモンスターに唯一対抗できるその力も異世界より齎されたものだった。だが、もはや藁にも縋る思いだった当時の国々は、徴兵令を発令、あるいは復古し、異能を宿した人々でモンスターに対抗する組織を作り上げた。
秩序の使徒
未曽有の混沌が渦を巻くこの世界に秩序を齎す使徒。アポストルは異能を用いて世界中に出現したモンスターを倒していった。
俺もそんなアポストルの一人であり、コードネームをアルビオンと名乗っている。此れは俺の異能が竜の力を纏うものだからだろう。
俺の異能を『竜力』と言い、異能が宿ったその瞬間から何故か俺の身体は男から女へと変わり、その代償とでも言ったら良いのか、俺は竜の力を纏うことで男の時どころか、大概の異能持ちですら超える超パワーを得たのである。
数多の異能者が集う秩序の使徒で俺は瞬く間に頭角を現していき、気が付けば秩序の使徒の中でも最強と言われる異能者集団である天使の一人としてアルビオンの名を付けられていた。
誰も彼もが俺の顔を伺い、俺が頼めば大概の事はやってくれる。
モンスターを倒せば周囲から称賛され、銀行に振り込まれる給与も、生きるために必死に働いていたころと比べ物にならないほど。
順風満帆で一般人から見れば羨ましいだろうことは間違いないだろう。俺もかつてとは違って、やりたいこと、やれることが増えたのはとっても幸せなことだと思う。でも――。
「つまんないな」
透き通るような高い声でぼそっと呟く。すっかり違和感を覚えなくなったこの声も、指パッチン一つで倒せるモンスターも、順風満帆で何一つ波の無いこの生活も。
全てが色褪せて見えて、つまらない。
まぁ、つまり何が言いたいかと言えば、俺は刺激を求めていたのである。この上なくハラハラドキドキするようなそんな刺激を――。
「そうだっ!」
俺はベッドからほいっと飛び上がり、今し方思いついた考えを頭の中でまとめる。
今の体制――世界は、それなりに数は増えてきたと言っても、依然マイノリティーである異能持ちを使って、何時どこから現れるかもしれないモンスターを倒すだけの言わば対処療法で保たれているに過ぎないのだ。その中でも俺はとびっきりの特効薬であり、どんな強力なモンスターが出てきても俺一人で何とかなるだろうと思われている。
じゃあ、そんな最強の一角が裏切ったらどうなるだろうか?
「ふふっ! ふははははっ! 楽しくなってきたなっ!」
俺はひさしぶりに死んでいた口角を釣り上げて笑みを浮かべる。これから楽しくなるであろう色の付いた未来を夢想して。
少女――折田華菜。
アポストルコードネームをフラワーと呼ばれている少女は、ある一人の少女に憧れにも似た羨望を抱いていた。
自身とそう変わらないであろう年齢にして、数多のモンスターを討伐し、秩序の使徒において最高峰である天使の一人に座している少女のコードネームをアルビオン。その身に白き竜の力を纏って戦う、近接において最強の使徒。
誰よりも強く冷徹で、美しく舞うように戦うその姿は、宛ら戦乙女のようでありながら、モンスターとの戦いが終われば、一転して誰にでも分け隔てなく笑みを浮かべる。そこにはフラワーが憧れるに足る完成された美しさがあった。
あの人みたいになりたい。
目指すべき目標を見据えたフラワーは、自身の異能をより強くしようと磨いていく中で、逐一彼女の動向を追っていた。
彼女がファッションブランドのCMに出れば、すぐさまその服を購入し、彼女のように誰にでもは無理でも、優しくあろうと心掛けるようにしていた。
彼女のように強く、美しく、優しくあろうと日々邁進していた時、念願の彼女と一緒にモンスター討伐の任務に出ることになったのである。
チャンスだ。
どうやってそこまで強くなったのか、どうしてそこまで周りに優しく振舞えるのか。ズルかとも思うが、直接本人から聞ける機会なんて今後二度と無いかもしれないのだから。
「う~ん、そうは言っても特別なことは何もしてないし、強さっていうならフラワーちゃんのやり方が正しいと思うよ。あと、何で周りに優しく振舞えるかって言ったら、フラワーちゃんも含めて、俺にとっては皆可愛らしい後輩だからかな?」
「でも、私はアルビオンさんみたいになりたいんですっ!」
力強くそう言うと、彼女は困ったように頬を人差し指でさすり、仄かに笑みを浮かべる。
「そう言われると困っちゃうな。ホント、フラワーちゃんには申し訳ないけど、別に俺に成ろうとなんてしなくても良いんだよ。誰かに優しくできるかもその人の気質だし、強い弱いも人それぞれだしね」
――君の成りたい自分に成れば良いんだよ。
そう言って立ち上がると彼女は歩き出した。私はいつまで経っても消化できないもやもやした気持ちを抱えながら彼女の後ろについていく。
彼女と私はそれからも虚無から湧き出たモンスターを倒していった。順調に進んでいき、もうすぐ日が暮れて夜が来ると言う時、夕暮れの空を覆うかのように夜より暗い巨大な虚無が穿った。
「なにこれ………っ!」
見渡す限りと覆うかのような虚無。その吸い込まれそうな虚ろな穴より蜘蛛のような巨大なモンスターが這い出そうとしていた。
「さがっててフラワーちゃんっ! あんなのが落ちてきたら都市そのものが崩壊しかねない。だから、あれは俺が片づける」
彼女がそう言うと、その身に纏う白いオーラが黒くどす黒く染まっていく。しかも変化はそれだけじゃ終わらない。
光も通さないほど黒く染まったオーラは、彼女の肉体を根本から侵すように変えていく。その姿は人と竜が混然一体となったような異形。
捻じれ曲がった悪魔にも見えるような竜の角に、普遍的な黒の瞳はまるで黄金のような妖しい輝きを放ち、背中からは一対の翼が生えている。
「醜いよね。ごめんね。さっきも言ったけど俺のようになる必要はないんだよ。いや、違うな。俺のようにはならないでね。絶対だよ、フラワーちゃん」
――さようなら
彼女はそう言うと虚無へと羽ばたいていく。
いかないでっ!
私の思いは言葉にならず、彼女が飛び立って数舜、視界いっぱいを閃光のような眩い光が包み、後に目を開けてみれば、そこには先程とかわらない茜色の空が広がっていた。
ただ一人。
彼女が居ないことを除けば。
いやぁ、まさかあんな巨大なモンスターが出るとはね。居なくなるのに一人もメッセンジャーが居ないんじゃ寂しいかなって思って適当に一人選んだけど、トラウマになってなきゃいいな。ごめんね。




